宮沢由紀(1)-2
部活が終わり帰ろうとしてたら忘れ物に気付いた。
水泳部のみんなに挨拶をして教室に寄って帰ることにする。
電気を付けないと暗い廊下は少し怖い。
電気を付けたら付けたで目立ってしまいそうなので、
付けないで急ぎ足で教室に向かった。
教室の扉が空いていたのでそのまま入ろうとすると、
窓際のまだ少し明るさが残る席に人影が見えた。
あの席は桜木だ。
筋トレをさぼって教室にいるって、しかもこんな時間に。
本、多分教科書を手に持っている。
勉強をしている?まさか。
教室のなかに入るのを躊躇してしまう。
こっそり用事を済ませたいけど静か過ぎるし、
私の席は桜木の隣だから近づかないわけにはいかない。
うう……。
まだ体に部活の余韻が残っているのか、額に汗をかいてきた。
額を髪の毛を乾かすのに首にかけていたタオルで拭うと、
肩にかけていたカバンが教室の扉にあたって音を立ててしまった。
「ああ……ごめん」
やっちゃった。おでこめ。
入ることに変わりはないから仕方ない。
桜木は驚いた様子でこっちを見てきたけど、それだけだった。
「忘れものした」
私はなぜか言い訳をしながら自分の席に小走りで向かった。
桜木は数学の教科書を読んでいた。
私が取りに来たのも数学の教科書とノートだった。
「明日、小テストだよね」
「……」
「……」
無視かよ。
「勉強するんだ?」
「……」
「……」
見ればわかるけどさ……。
めんどくさい。さっさと帰るか。
あれ?
机の中で教科書と一緒に重ねてあるはずのノートがない。
どこいったんだ。
あっ!
机に手を突っ込んでも見つからず、
机の中を覗きこもうとした直後、
桜木の机の上にあるノートが見えた。
その肘で抑えてるノートは私のだ。
「ねえ、それ私のでしょ!」
「机にあったから」
「誰の!?」
真顔でなんなの。
まさか自分のノートだと言い張る気なのか。
はあ……。
「ねえ」
桜木が教科書を見ながら何か聞きたそうにしてる。
「なに」
睨みつけてるのに桜木はこっちを見ていない。
桜木はこっちの気も知らずにノートを指さして聞いてくる。
「この数字……0か6どっちに見える?、あとこれ、9かaかどっちだろう?」
「知るか!」
「あっ」
私はノートを奪い取った。
「帰る」
やってらんない。
私はノートを手に持ったまま歩き始めた。
私は家で勉強しないといけない。
「ノート……」
桜木の名残惜しそうな声が聞こえる。
私は教室を出る直前に立ち止まってしまった。
数学、私苦手なんだ。
こんな時間に学校なんかで勉強している桜木は、
数学ができたりするのかな?




