上原茜(2)-3
祐介は一度教員室に戻ってから帰るだろう。
だから私は教室に残り、祐介が書いたままにしていった黒板を消しながら時間を潰している。
今日はもう祐介と顔をあまり合わせたくなかった。
一息ついていたら、さっき切った指を思い出した。
血が指の周りで乾いているけれど、抑えると血が滲んでくる。
カラッ
「なに?」
音がしたほうを見ると、カーテンが揺れていた。
そうだ。窓が空いてたんだ。
「ふう」
心臓に悪い。
あのときの祐介の席がちょうどあの席だった。
「祐介……」
明日からはちゃんと「桜木先生」って呼ばなくちゃいけないのに、
心はそんなことおかまいなしに思い出に浸ろうとした。
「ダメダメ」
そろそろ教員室に戻ろう。きっと祐介は帰っただろう。
手も洗わなくちゃ。
私は窓を閉めに机の間を暗闇に気をつけながら歩こうと思った。
「うっ!」
ガンッ
ギーー…ガンッ
「いたー!」
教壇を降りるときに足をくじいてしまった。
倒れる姿勢で手をついた机が私の体重を抑えきれずに、
私は机に引きずられて机の足に頭を打った。
「痛いよ……」
「うっ」
指がじんじんする。
私は頭をさすっている手が切れてる指の方だったことに気付いて、沁みる指を見つめる。
とりあえず、教員室に戻ろう。戻らなきゃ。
私は興奮状態になり、窓を閉めるために立ち上がろうとした。
「わっ」
よろめいて、さっき乱した机に手をついた。
机も直さないと。
それより足を挫いてる?かがんで足首を回してみた。
「いたっ」
ダメだ。
痛くてたまらない。もうダメ……。
「助けてよ」
床に座り込んで、悲しくなる。
「祐介……」
「……る?」
廊下から声が聞こえる。
祐介!
祐介である確信なんてないのに、私は声に出そうとした。
「ゆ……け」
声が出ない。
「ゆうすけ」
私はもう一度呼んだ。でも反応がない。
廊下の方に出ようと、痛い足を庇いながら並んでいる机で体を支えながら前に進み、
教室のドアに手をついた。
「うっ、いたた」
あっ、祐介じゃない。
誰?
制服を着ているから生徒だ。
祐介は見なかったのだろうか。
見てたら無視なんてしないよね、さすがに。
首をもたれているから顔が見えない。
でも声をかけないわけはいかない。
「君、どうしたの?」




