桜木祐介(1)-2
「ん……」
あ……寝てた。
目を開けたのに暗い、教室の中が真っ暗なんだ。
暗くて時計も見えない。
まだ机に突っ伏したまま、鞄の中からスマホを出した。
あれ、画面が真っ暗で反応しない。
電源ボタンを押しても無反応で、電池がなくなってるし。
「あー」
誰も居ない教室に俺の声が吸い込まれる。
窓から外を見たら外も真っ暗だ。
窓は開けっ放しで涼しい風が入ってくる。
「なんだよこれ」
いつから寝てたんだ。
ホームルームとか掃除とかあったんじゃないのか。
誰も起こしてくれないのかよ。
とりあえず帰らなくちゃ。
重い体を立ち上げ、ふらふらと歩き出した。
ガツッ、ダンッ、ガッ
「わっ、いてっ」
教壇に足を取られて黒板に頭を突っ込んだ。
「うっ……」
時計見ようと黒板の上を見て歩き出し、暗くて時計の針が見えないまま近づいていったせいだ。
おでこがチョークの粉でじゃりじゃりする。
なんなんだよ。
黒板を睨む。
むしゃ……しょう……ろ……
「武者小路」と書かれた文字の下が俺がぶつかったせいで消えかかっている。
なんて読むんだこれ。
すねも打ちつけていて痛いけど、歩けないこともない。
早く教室を出たかった。
顔を洗いたい。
それで今何時なんだっけ。時計見るの忘れた。
もう振り返るのも面倒だ。
誰もいない学校、廊下ってこんなに広かったのか。
しかも長い。廊下の角が暗くて分からない。
そして静かだ。俺の息が廊下に響いている。
学校にも毎日こんな時間があるのだと知った。
廊下から窓の外を覗いても暗闇で何も見えない。
そういえば教室の窓を閉めてなかった。
閉めに戻る気なんてないけれど、
自分が通ってきた廊下を振り向くと、
まだ数メートルしか進んでいなかった。
さっき教壇に打ち付けた足がおかしいんだ。
落ち着くとひどく痛い。もう動きたくない。
とりあえず今日は帰らなくていいんじゃないか。
保健室って開いてないのかな。
横になって寝てしまいたい。




