上原茜(0)-1
部活終わった。今日もなんだかんだ疲れたな。
「茜、先生に日報届けてきて」
「はい」
「日報の内容をちゃんと報告するんだよ」
「はーい」
着替えていたら橘先輩に篠塚先生のところに日報を持って行くように言われた。
「ふー、教員室か。遠いんだよな」
「あ、先生!」
プールを出たところで担任の田中先生に会った。
「おう、上原。部活終わったのか?」
「はい!これから篠塚先生のところに報告です」
一緒に教員室に向かう。
「水泳部のマネージャー楽しいか?」
「はい。みんな鮫みたいで格好いいです」
「鮫か」
先生は頷いている。
感心してもらえた。よし。
「篠塚先生……いないな。待つならそっちに座ってな」
教員室に行ったら篠塚先生は居なかった。
「えー?早く報告して帰りたい」
「それなら自分で探しな。担任は二年四組だったな」
「教室行ってみます。先生さよなら」
「お、おう。さよなら」
まったく面倒くさい先生だな。
二年生は三階か。一番上の一年よりは楽だ。
はあ、四組……四組、ここだ。
あ、奥に人がいる。
窓際に男子が座っている。
黄昏れているのか。
先生はいないかと教室をぐるっと見たけど、いない。
騙された。
あれ?桜木先輩。
窓際の男子は見覚えのある横顔だった。
「……」
「あっ」
桜木先輩が視線を向けてきた。
いきなり見られた……。どうしよう。
声をかけてみる。
「桜木先輩、ここで勉強してるんですか?」
「……う……」
声が小さいけど、多分上原と言った。
「篠塚先生って……」
「さっき出て行った」
「そうですか」
どうしてすれ違わなかったんだ。
「先輩は部活に来ないで勉強ですか」
「……」
パラパラと教科書がめくられていく。
返事がない。
窓が開いてるから私の声が届いてないのかな。
まあ、いいや。
もう1回教員室に行ってみよう。
教員室に戻ったら今度は篠塚先生がいた。
「先生いた!」
「上原さん。部活終わり?ご苦労様」
「はい。今教室に行ったんですけどすれ違ったみたいです」
「あ、そう。ごめんね」
先生はどういうルートで教室に戻ったのだろう。
「日報ですけど、いいですか?」
「いいわよ」
「橘先輩と私は今日は……えっと……」
どこを見ればいいんだっけ……。
「あっ、上原さんごめんなさい」
「な、なんですか?」
「教室に行ったときまだ桜木君いた?」
「はい。いました」
「それなら急いでこれ届けてくれない?」
先生が渡してきたのは、封筒だった。
「明日じゃダメなんですか?」
「うん。ダメなの。さっき渡すの忘れちゃって」
「はあ……じゃあこれもういいですよね」
日報を先生に渡す。
「いいわよ。受け取っておく。だからそれ任せたわ」
「はーい」
さっさと渡して帰ろう。
ふう。また三階か。
階段を見上げてため息をつく。
こんな何回も登ってたら足に筋肉がついちゃうよ。
二年四組の教室についた。
桜木先輩はまだ机に向かっている。
コンコン
ドアを叩いて先輩に合図をしてみる。
「……」
「あの、篠塚先生がこれ渡し忘れたって……」
「……」
しかたないので教室に入る。
他のクラスでしかも二年生の教室だから余計に緊張する。
ん?プールの、あの匂いがする。
窓の外から入ってくるにしてはプールは遠い。
先輩の匂いかな。
プール好きだから染みついてるのかも。
先輩が手に持っている教科書の表紙は数学Ⅱだ。
難しそう。数学は苦手。先輩は理系な気がする。
「先輩、数学とかできるんですか?」
「……」
無視?
「先輩これ、篠塚先生が……」
びゅー。ばさばさばさばさっ。
窓から強い風が入ってきてカーテンが大きく揺れる。
風の勢いで机の上のシャーペン転がって落ちた。
反射的に拾ってあげようとしたらまた強い風が入ってきた。
「きゃっ」
風でスカートがめくれてしまった。
声出てるし、恥ずかしい……。
先輩が私の声に反応してしまい目が合う。
睨まれてる。
シャーペンに気を取られてたから見られていないはず……。
「……」
「はい」
シャーペンを渡した。
「……」
「あ、あとこれ、篠塚先生から」
「……」
渡そうとした封筒はさっきスカートを抑えるときに、
グシャグシャに握りつぶしてしまった。
「あっ、すみません……こんなになっちゃって」
手で伸ばしてみるけど意味がなかった。
先輩は私の手から封筒を取りを中を確認し始めた。
ああ、中身もグシャグシャだ……。
「……」
先輩の腕の下にあったノートが見える。
女の子みたいな字をしている。
用事は済んだ。
「私帰りますね。勉強頑張ってください」
教室を出るとき、先輩のほうを振り返ってみると、
さっきの紙を両手で持ったまま、じっと見つめていた。
ふー、やっと帰れる。
下駄箱に降りると、橘先輩と宮沢先輩も帰るところだった。




