上原茜(2)-5
「……上原?」
「祐介、私が分かるの?」
思わず祐介と呼んでしまった。
「間中先生。これ、どういうことでしょう」
「私も分からないわ」
「ですよね」
この状況に一人でないことに、私は安心してしまった。
「挨拶が遅れました。私、先週から教育実習で来てて」
「知ってる。何回か廊下で見かけたよ」
「そうでしたか」
「教育実習?」
祐介が小さな声で疑問を唱える。
「先生、携帯良いですか?」
「いいわよ」
祐介に電話をする。
トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……
私は目の前の祐介を見つめながら、祐介が電話に出てくれるのを祈る。
プッ
「祐介!」
「おかけになった電話は、電波が届かない場所にいるか……」
「うう」
「桜木君?」
「はい」
一緒に教育実習に来ている祐介もどこかで見かけたに違いない。
祐介のことも覚えてくれていたのかな。
目の前の祐介は黙り込んでいる。
明るいところにくると、やっぱり若い。
しまってるというか、細身。
祐介はお腹がやばくなってるからな。
「桜木君、ここはあなたにとっては、五年後よ」
間中先生は、さらっと言ってしまう。
信じられないとか、そういうことは後回しのように。
私は頭が追いつかない。
「今の祐介はどこに行ったの……」
怖くて声がでなくなる。
「わからないわ。わからない」
先生も分からないんだ。安心する。
「簡単な仮説だけど、五年後に押し出されたか、入れ替わったか、かな」
なにそれ。
そういう世界があるようなないような、頭が痛い。
「上原は何歳なんだ?」
黙り込んでた祐介がいきなり聞いてきた。
上原って呼び捨てがなんか気にくわないし、
五年後って言ってるじゃないか。
「二十一」
「じゃあ、俺は二十二か。同じ学年?」
「そうだよ。でも祐介も三年。君は浪人したの」
「おう……」
怖じ気づいたか。君は浪人したんだよ。
「それよりさ、俺のこと祐介って……」
「……!」
うっ、しまった。気付かれた。
どうしよう。
付き合ってるなんて言えるわけない。
目の前の祐介は私とは付き合ってない……はず。
「あなたたち」
間中先生の声が低い。
「な、なんですか」
「あのときから?」
「ど、どのときから?ですか?」
ああもう、墓穴を掘っちゃいそう。
間中先生を誤魔化せる気がしない。
言うな言うな言うな言うな。
私は祈り、そして口を閉ざす。
「桜木君、家に電話してごらんなさい」
あ、それは。
「親が海外赴任してて」
「そうなの、五年後の今は?上原さん」
えっ、私?
「知りませんよ」
「……」
間中先生が睨んでくる。
だめだ。
「た、たしかですけど、お母さんだけ帰ってきてると思います」
「だって。電話してみたら?」
ええ?何言ってるの間中先生。
なんか楽しんでる?
「俺が電話するのか……」
祐介も困ってる。
海外赴任している親に電話をするのとは、明らかに違う状況だ。
「桜木君、困ってますよ」
よし。これでいい。
「そうね。どうしようかしら」
「……」
「上原さん、電話してみたら?今の桜木君が家に帰ってるかって」
やっぱりそうくる?




