表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

上原茜(2)-5

「……上原?」

「祐介、私が分かるの?」

思わず祐介と呼んでしまった。


「間中先生。これ、どういうことでしょう」

「私も分からないわ」

「ですよね」

この状況に一人でないことに、私は安心してしまった。

「挨拶が遅れました。私、先週から教育実習で来てて」

「知ってる。何回か廊下で見かけたよ」

「そうでしたか」

「教育実習?」

祐介が小さな声で疑問を唱える。


「先生、携帯良いですか?」

「いいわよ」

祐介に電話をする。

トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……

私は目の前の祐介を見つめながら、祐介が電話に出てくれるのを祈る。

プッ

「祐介!」

「おかけになった電話は、電波が届かない場所にいるか……」

「うう」

「桜木君?」

「はい」

一緒に教育実習に来ている祐介もどこかで見かけたに違いない。

祐介のことも覚えてくれていたのかな。


目の前の祐介は黙り込んでいる。

明るいところにくると、やっぱり若い。

しまってるというか、細身。

祐介はお腹がやばくなってるからな。


「桜木君、ここはあなたにとっては、五年後よ」

間中先生は、さらっと言ってしまう。

信じられないとか、そういうことは後回しのように。

私は頭が追いつかない。

「今の祐介はどこに行ったの……」

怖くて声がでなくなる。

「わからないわ。わからない」

先生も分からないんだ。安心する。

「簡単な仮説だけど、五年後に押し出されたか、入れ替わったか、かな」

なにそれ。

そういう世界があるようなないような、頭が痛い。


「上原は何歳なんだ?」

黙り込んでた祐介がいきなり聞いてきた。

上原って呼び捨てがなんか気にくわないし、

五年後って言ってるじゃないか。

「二十一」

「じゃあ、俺は二十二か。同じ学年?」

「そうだよ。でも祐介も三年。君は浪人したの」

「おう……」

怖じ気づいたか。君は浪人したんだよ。


「それよりさ、俺のこと祐介って……」

「……!」

うっ、しまった。気付かれた。

どうしよう。

付き合ってるなんて言えるわけない。

目の前の祐介は私とは付き合ってない……はず。

「あなたたち」

間中先生の声が低い。

「な、なんですか」

「あのときから?」

「ど、どのときから?ですか?」

ああもう、墓穴を掘っちゃいそう。

間中先生を誤魔化せる気がしない。

言うな言うな言うな言うな。

私は祈り、そして口を閉ざす。

「桜木君、家に電話してごらんなさい」

あ、それは。

「親が海外赴任してて」

「そうなの、五年後の今は?上原さん」

えっ、私?

「知りませんよ」

「……」

間中先生が睨んでくる。

だめだ。

「た、たしかですけど、お母さんだけ帰ってきてると思います」

「だって。電話してみたら?」

ええ?何言ってるの間中先生。

なんか楽しんでる?

「俺が電話するのか……」

祐介も困ってる。

海外赴任している親に電話をするのとは、明らかに違う状況だ。

「桜木君、困ってますよ」

よし。これでいい。

「そうね。どうしようかしら」

「……」

「上原さん、電話してみたら?今の桜木君が家に帰ってるかって」

やっぱりそうくる?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ