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上原茜(1)-1


ふう。物理で頭が沸騰した。

電磁力……。電磁力……。

違う。私は開放されたのだ。

次は部活、今日は木曜日だから……、

女子とウォーターボーイズの日だね。


橘先輩と二人で部活の準備をする。

「茜、今日は二軍の日だからコースロープ半分外しておいてね」

コールス……ロー……?よく聞こえなかった。

何を外すんだっけ?うーん。聞いてみる。

「なんでしたっけー?コール……?」

「毎週やってるんだから言われなくてもやりなさいよ」

橘先輩、怒ってる?

「はーい」

とはいったものの、なんだっけなー。

あ、あれか。プールの紐。

プールサイドに来て思い出した。


「よ……いしょ」

コースロープのロックを外すために、ロープを両足で跨ぐように座る。

ばしゃばしゃ。

両足をバタバタさせて水しぶきを楽しむ。

ああ、顔が濡れたよ。

前屈みになり、付け根のロックを外す。

「よし」

片側を外したら、先輩の様子を確認しながら反対側に行く。


反対側もロックを外して、ロープを引っ張る。

「ぐーっと。わっ……あぶないあぶない」

勢いで前に倒れそうになる。

「溺れちゃうしー。よいしょっと」

コースロープを引っ張って私の後ろに放り投げていく。

ぱこーんぱこーん

プラスチックの丸い部分がぶつかり音を立てている。

「おーい。そんなやりかた教えてないぞ」

シャワーの方から橘先輩の声が聞こえてくる。

怒りっぽいんだから。

重いんだよー。ふん。

プールに浮いてるときは、ぷかぷか踊っててかわいいのに。


ザーザーザーザー

コースロープの束をバケツに入れて、

プールサイドの端っこに引きずっていく。

橘先輩に睨まれた。

バケツの底がすり減る、プールサイドが傷つく、という目をしている。

呆れられたらしい。


ザザー、ガッ

「きゃっ」

バケツが前に進まない。

ぐっ、力を込める。

「茜、前見ろよ」

呼ばれてる?

バケツに手をあてたまま顔を上げる。

……はう、こ、これは……。

目の前に映るのは、男子のあれだ!

「そっか!今日は木曜日かー。くそー、木曜日って選抜が使えない日だったっけ?」

誰、この人。

顔を上げて確認してみる。

「桜木先輩」

桜木先輩?

この前よりちょっと太ってる気がする。

ご飯いっぱい食べてるのかな。育ち盛りだもんね。

「しかたない。ちょっと走ってくるわ」

「は、はい!」

桜木先輩は走っていってしまった。

ええ?その格好で?

桜木先輩ってこんな明るかったっけ。

それに私、いつも上原って呼ばれてるんだけどな。


「先輩、さっき桜木先輩が居ました。曜日間違えたみたいで走りに行きましたけど」

「ふーん、どうせ走ってないだろ。陸走るの嫌いだし」

そんな感じじゃなかったけど、ま、いっか。


「あ、宮沢先輩!お疲れっす」

「茜ちゃん、お疲れ」

「あのさっき桜木先輩が来ました」

「またあいつ授業さぼって泳いでたの?」

「いえ、間違えたって言って走りに行きましたけど」

「走りに?そう」

坂本先輩も宮沢先輩も信用してないみたいだ。

「太ったからじゃないですか?」

「太ってたんだ」

「さっきすれ違って、太ったかなって思ったんです」

「茜、よく見てんだね」

「選抜は先輩が見てますけど、じゃなくて私もマネージャーですからね!」

「そうだね、茜も成長してるね」

「は、はい」

宮沢先輩は元気がないみたい。


「茜っ!ストップウォ…」

「はい!」

わっ、また怒られる。

「行きます!」


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