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宮沢由紀(1)-3

「ねえ、桜木数学できる?」

教室を出ようとした瞬間、私は桜木に声をかけていた。


私がわからなところを聞いてみてわかった。

この桜木に聞くなんて私も馬鹿だと思ったけど、本当に私のほうが馬鹿だった。

桜木は頭が良い。きっと数学以外もできる。

「頭いいんだね」

「テストならできる」

「それが頭いいっていう」

「テストで点を取ることがか」

「そう」

「教科書に書いてある」

「そりゃそうだけど」

「あ、たまにノートにしか書いてないことがあるからずるい」

ずるい?

「私のノート、全部見てるんじゃ」

放課後の机は口を開けたまま無防備だ。


「一秒が縮まらない」

「部活の話?」

「一点を取るのは簡単だ」

「比べちゃだめだろ」

「泳ぐ方が頭を使う」

「ふーん。そういうことね」

わからない。

頭が悪いと泳ぐのが遅いってこと?

私は泳いでいるとき何を考えてるっけ。

覚えてない時点で何も考えてないんだ。

「桜木が授業さぼったり寝てたりするのって」

「別にいいだろ」

桜木の声色が変わった。

「勉強できるからって許されるとでも?」

しまった。間違った。

「知らん」

怒った?表情が変わらないからわからない。


「明日の小テストなら大丈夫だろ?」

「あ、うん、たぶん」

「腹減った。飯食って帰ろうぜ」

え?飯?

私は家で食べる、というか桜木は?

私には急に話題が変わったこと以上に違和感が大きかった。

「家で食べないの?」

「そうか、そうだよな、ごめん、飯はいいや。帰ろう」


「ダメ、お母さんに電話するから」

私は何をやっているのだろう。

「お、おう」

「電話終わるまで黙ってて」


飯というのはたこ焼きだった。あとお好み焼き。

「あつっ」

桜木はお好み焼きにかぶりついて熱がっている。

うー、これが今日のご飯か。

失敗だったかも。


うまっ

お好み焼きはもちもちで美味しかった。

なんだかお祭りに来たみたいだ。

「なかなかうまい」

桜木が手に持っているたこ焼きにも手を出した。

あつっ!

「はふはふ、あふい…あふ」

楊子で刺してかぶりついたら失敗した。

「お前何やってんだ。出すか?」

桜木はたこ焼きが半分以上残っているパックを口元に差し出す。

どこに出せばいいんだ。

じゃなくて、口から出すなんてことできない。

私はこれでも女子なんだよ。


「は、はいほうふ(だいじょうぶ)」

伝わっただろうか。

たこ焼きのパックはまだ口元に差し出されたままだ。

私は手で押しのけた。

「そっか」

こいつは何考えてるんだろう。

つい顔を覗いてしまう。

視線はたこ焼きに向いている。

「うまいなー、たこ」

うまいね、たこ。たこ焼きじゃないんだ。

桜木は箸を使って器用に食べていた。


「宮沢」

「なに?」

桜木の口元が少し笑っている?

「口の周りソースがすごいぞ」

なにっ!

両手にお好み焼きのパックとたこ焼きが刺さった楊子を持っている私は身動きがとれない。

恥ずかしすぎる。

桜木は私の口を見ている。

こいつやっぱりやな奴だなー。


「んっ」

不意打ちだった。

両手がふさがれているからって。

桜木は顔を近づけてきて……

「んぐぐぐ」

驚きと桜木の雑なやり方で後ろに倒れそうになる。

両手を気にしながら足を踏ん張る。

桜木は私の口にハンカチをあてて、ごしごし拭いてきたのだ。

「綺麗になった」

桜木は笑ってる。

口と目が、ちゃんと笑ってる。

こんな風に笑うんだ。

「食い終わってからの方が良かったか」

なんだか声も明るい。

ありがとう。

私は声が出なかった。

「ごめん、これ俺のハンカチだった。そっちのタオルのほうが良かったよな」

「……大丈夫」

私が怒ってるとでも思ったのかな。

「これ、いつから……」

なにをいつから?

口が腫れたりしないだろうね。

やっぱり口が気になる。あんな拭き方信用できない。

「桜木、お好み焼き持ってて」

最初から手に持っているものを桜木に渡しておけば良かったんだ。

「お、いいのか?食べたいのかと思ってた」

「あげるとは言ってない」

「いや、最初から全部お前にあげるとも言ってない」

「いや、言ってた」

「言ってない」

「ははは」

「ははは」

二人で笑った。


私も笑う方ではないんだ。


今日は疲れたな。部活じゃそんなに疲れないのに。

私は桜木のことをもっと知りたいと思った。

あんまり踏み込むと嫌がられるかもしれないけど。


(ぐう……)

ああ、腹減った。

あんなんじゃ全然足りない。

お好み焼きとたこ焼きって、材料が同じじゃないか。

お母さんに言って残り物でも食べよう。

私は水泳部なんだよ。うん。

そういえば桜木に痩せろって言われたんだ。

くそう、あいつ。


桜木はいつもあんなの食べてるのかな。

昼休みもお弁当を食べてるところを見たことがない。



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