桜木祐介(1)-1
授業が終わった。
ぐーっと腕を伸ばしているけれど、相変わらず眠い。
「ねむ」
休み時間になっても俺はいちいち立って友達のところに行ったりしない。
「なにそれいつも眠い眠いってかっこいいとか思ってる?」
隣に座っている宮沢が俺にグチをこぼしながら、めんどくさそうに黒板を消しにいく。
「知るか」
俺は口だけじゃない。
窓際の席で頬杖をつきながら外を眺めている。
体育の授業をやっている校庭の男子の大きな声と女子の高い声が脳をほどよく刺激して心地いい。
眠るのに、心地いい。
窓を開けて、腕に頬を乗せた顔に風を浴びながら、目をつむる。
「……くん」
次は授業はなんだっけ。
机の上には、化学と音楽の教科書が置いてある。
まあ音楽はないな、みんな音楽室に移動してなかったし。
「……木くん」
視線を感じる。
窓の方から教室の方へと視線を移すと、みんな俺の方を見ていた。
「桜木くん」
上を見上げると、女の先生が俺を見下ろしていた。
「なんですか?先生?」
「なんですかじゃないわよ、桜木くん。
さっきから呼んでるのに」
「ああ、すいません」
目の前に先生がいたなんて気づかなかった。
「んもう、張り合いがないわね」
張り合いね。
「その悪びれない態度が、って、その教科書、関係ないじゃない」
「先生、現国でしたっけ?それなら机の中に…」
と、現国の教科書をひっぱっり出そうとしたら、机の中の教科書やらプリントがこぼれ落ちてしまった。
「すみません。教科書は出しますから」
「宮沢さん」
「え?私?なに?」
宮沢は驚いて肩をびくんと震わせたけれど、すぐに我に返って嫌な顔をする。
「桜木くん、毎時間こうなんでしょ?」
先生はため息混じりに俺の方を睨みながら、持っている教科書の表紙が見えるようにして机の上に立てている。
古典だった。
「まあ、そうだけど?」
宮沢は吐き捨てるように言う。
今度は両方から睨まれている。
ついでに教室全体から視線を向けられていて、いい加減うんざりする。
「クラス担任の私としては、桜木くんにちゃんとしてもらわないといけないの。他の先生の目もあるから。あなた、桜木くんを見て頂戴。せめて授業をしている教科の教科書を机の上に出しておくように」
「えー、なんで私が」
明らかに不服そうだ。
俺だって不服だ。なんでこいつに。
「今日の日直」
「じゃあ、毎日日直の人が」
「日直っていうのは偶然、隣の席っていうのが運命ね」
「運命って、先生ひど……」
先生が思い出したかのように、話題を変える。
「そういえば今日からね、教育実習の先生が来てるの」
クラスのみんながざわざわし始める。
「名前はね、桜木先生よ」
教室の気が抜けたところで、授業が再開した。
俺は夢を見た記憶がない。
夢とはなんだろう。
脳が見せるものらしい。
俺には理解できない。
今日は暑い。
寝ていれば暑いと感じることはない。
脳は暑いと感じているのだろうか。
何かを感じているのなら夢でも見せてくれればいいのに。




