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Avalantear アバランティア  作者: 海豹
第一幕 ―起―
37/68

秘密の抜け道 3

「抜け道……だと?」


 テラがレイスの呟きに、信じられないといった風に、語尾を上げて問う。


「ああ」


 レイスは肯定した。困惑して動けない一同を無視して、彼一人が行動を起こそうと無造作に動き出す。その姿は、熱にうなされている人間のように、何処か頼りなく、異常な雰囲気を感じた。


「あ、おいっ!」


 毒気が殆ど抜けてしまったのだろう、槍を首元に突き付けていたテラは、レイスが動き出したことで慌てる。先程まで殺気を漲らせていたことが信じられなかった。


「壁の奥だ。多分……」


 テラの殺気が退いたのを、肌で感じていたレイスは、何やら考え事をしながら、更に槍の刃を指先で掴んで押し出す。

 結局、また中途半端に怒りを抑えられてしまったテラは、どこか納得いかないといった表情で、槍を下げた。

 槍の拘束から解放されたレイスは、上半身を起こすと、看守の部屋で拝借した幾つもの短剣のうちの一つに手を伸ばした。

 柄に赤い革が貼られたそれは凍っているかのように冷たく、ただでさえ冷えている彼の手の熱を奪う。持ち主を拒んでいるような柄の感触は、それが元々は他人の物だったと主張しているようだ。ふと、レイスは手元の短剣を見て、何とも言えない不快な気分になった。


「ジャック、そこをどいてくれ」


 馬鹿げている。まだ頭を打った時の衝動が抜けていないのか? レイスは軽く頭を振って、妙な妄想を放り出し、膝立ちで壁の方へと向き直る。

 凹んだ壁はなかなか痛々しいもので、レイスは己がかなりの勢いで激突した事実に落胆しつつ、凹んだことで歪んだ壁紙の部分を剥がし取るように、刃を刺し入れた。そして、壁紙の下の感触を確かめながら、金属とコンクリート壁の境をなぞるように直線に切り裂いていく。


「魔術……眠り……壁……鳥」


 レイスの耳に、詩を歌うようなリオールの呟きが入ってきた。彼女はショルダーバッグに押し込んであったメモを取り出し、姉が残した“脱出作戦”の暗号の中に“壁”という単語があることを確認していた。


「“壁”か」


 目の前でレイスが奮闘している対象物はその“壁”ではないだろうか? リオールは切り裂かれていく壁を、不思議な気持ちで見つめていた。


「――これは」


 やがて一辺が八十センチ程の正方形の壁紙を切り離した。そこに現れたのは黒い金属板。埋め込まれた取ってが付いているのが見えるので、何かの蓋になっているのだろう。レイスは迷うこと無く取ってを立ち上げ、一気にそれを開いた。


「!」


 乾いた音を立てて開いた先には、勾配のきつい底と先の見えない暗闇があった。蓋をもう一度見てみると殆ど消えかかっているが、“ダスト”と彫り込みがある。


「ダストシュートか……」

「何でこんな所にダストシュートが?」


 レイスの呟きに真っ先に反応したのはジャック。彼は、ツカツカとダストシュートに近づくと、中を覗いてはあちこちに触れて不審な点の有無を確かめ始めた。警備兵士であるだけに、調べる手には迷いが無く目標を観察する目は玄人のものだと、間近で見つめるレイスは思う。


「……ふむ」


 忙しく動くジャックの背中を見つめていたジョーカーだが、何かを考え込み、左手を顎に添えた。 何かひっかかることがあったのだろうか。


「ダストシュートといえば、こんな話を聞いたことがあります」


 そういえばと、切り出した彼の顔は、倉庫の奥で宝箱を見つけた時のそれと同じく、期待に満ちた表情だった。


「現在、<イレブン>のダストシュートは階段脇にあるものだけを使用されていて、二つの焼却炉へゴミが送られるようになっています」


 端っこと端っこに一つずつ、と彼は遥か東西にある階段をそれぞれ身振り手振りで差し示す。そして再び目の前のダストシュートへと視線を戻した。


「元々の施設の設計では、各部屋にそれぞれダストシュートを設置するはずだったそうなんです。しかし、いろんな設備を積み上げていく過程で完全に作り上げることが出来ず、そのままになっているらしいのです」

「つまり、いわゆる未完工事のダストシュートが、コイツだと?」


 夢中で話すジョーカーへ、ようやく正常の落ち着きを取り戻したテラが尋ねる。


「恐らくは」


 テラの視線を真っ直ぐに向き合うジョーカーの赤と青の瞳は、微笑を浮かべているように見えて、テラは抗議の言葉を飲み込んでいた。


「抜け道とはこのことだったんですね」


 やがて、異常が無いことを調べ終えたジャックが穴から顔を出す。そして膝立ちのレイスを立ち上がらせる為に、手を差し出し、彼に笑顔を向けていた。


「見たところ、勾配はキツイですが、他に危険な物は見当たりません。これなら安全に滑られると思います。多分滑り落ちる先は、一階の焼却施設のゴミの溜まり場でしょう。あそこは業者が来ない限りは無人ですから気付かれずに外に出られますよ」

「そんなに上手く行けるもんか?」


 少し興奮しているのか、力説する彼のジャックの頬はほんのりと赤い。レイスは差し出された手をしっかりと握ると、不安そうに苦笑した。


「我々が用意した作戦は、疑われてしまえば一貫の終わりです。レイス殿が見つけたダクトシュートのほうが、遥かに確実でしょう」

「何だか運任せみたいだな」


 ジャックの力を借りて立ち上がり、パンパンと服についた埃を払ったレイスは、穴の先を覗く。真っ暗なダクトの中は何故か不安を駆り立てる。レイスは腰のバックに手を伸ばし、小さなペンライトを出して、暗闇を照らしてみた。使われていないダストシュートはゴミの汚れなどは無かったが、舞っている埃が光に反射している。相当空気が悪そうだ。


「行くしかないか」


 Zがこの道を“確実な抜け道”だと言ったのだ。信じよう。レイスは無理矢理不安を抑えつけると口元に笑みを作った。周りの人はレイスの中にいる“Z”の存在を知らないのだから、この道を提案したのはレイスだと思っているのだ。提案者が不安げな顔をしていられないだろう。


「仕方ないな。お前の強運は信用できるからな」


 テラも腹を決めたのか、槍をソフトケースに押し込めて肩に背負った。目は相変わらず不機嫌そうだったが、レイスはそれよりも彼が今しまった槍から目が離せなくなっていた。


「テラ、それ借りていいか?」


 レイスの頼みにテラは首を傾げながら、素直に背負ったばかりの槍をソフトケースごと手渡す。レイスは受け取ると、再び部屋の奥のベットに戻り、そのシーツを引き抜いた。そして、シーツの端を握ったと同時に細く破り始める。


「何をしている?」

「見れば分かるだろ。ロープの代わりになるものを作ってるんだよ」


 言っている内に細長く切り裂いたシーツが三本できる。レイスはそのうちの一本を手にとって、強度を上げるためにそれをよじった。そしてロープのようなそれを槍の端の辺りに何重にも巻き付け、長さが半分程になった頃に、簡単に外れないように縛る。続いて、残りの部分を自分の腰に巻き付け、これも固く縛った。


「なるほどな」


 傍から見れば、レイスの体と槍はしっかりと結び付いている。テラはその様子を見て納得したらしく、シーツの切れ端を一本手に取るとレイスと同じように己の体と槍を結ぶ。

 これなら三人がバラバラに離れることなく、ダストシュートを滑られる。レイスのちょっとした下準備だった。


「さあ、リオも」


 ジョーカーがリオを後押しするように、言った。彼女はおずおずと、重い足取りでレイスとテラの間に入る。だが、やはり<イレブン>に残ると言った兄達の事が心残りなのか、レイスが彼女の体を縛り上げた時、堪え切れずに口を開いた。


「兄さん達は、いいの? 私達一族をいたぶる<イレブン>に残るの? ねぇ、本当にそれでいいの? 私達と一緒に」

『いけません』


 答えは変わらなかった。


「どうして?」


 リオールは思わず泣き出しそうになる。彼女の表情に双子は悲哀を含んだ笑みを返すだけだった。


「我々には成さなければならないことがあるのだよ。リオ」

「さあ、我々のことはいいから、早くダストシュートへ」


 レイスはジャックとジョーカー、それぞれの肩に手を乗せると初めにダストシュートの中に体と槍を入れる。槍の先にはご丁寧にレイスのペンライトが括り付けられていた。まだ滑り落ちないように手足に力を入れて、二人が入るのを待つ。体勢は座るような姿で背の高いレイスもテラも少し頭を屈ませなければならない。レイスは後ろにリオールが来ると、彼女に腕を自分の腰に回すように指示した。


『テラ殿』


 最後にテラがダストシュートに入ろうとしたとき、双子がそれぞれテラの右の手や腕を握った。彼は深く頷いて、体をダストシュートに捩込ませる。テラの手を通して感じる三人分の重さを双子は全力で引っ張り、三人がすぐに滑り落ちないように努めた。


『準備はいいですか!』

「ああ!」


 先頭のレイスが叫ぶ。彼は次に来る衝撃に備えて息を大きく吸った。


『レイス殿』


 苦しそうな双子のハモり声。レイスは何だと聞き返していた。


『リオールを……我々の妹をよろしくお願いします』

「ああ、もちろんだ! あんた達も死ぬなよ」

『はい。……御武運を』


 そして、手が離された。



 *****




 手が離れる一瞬、テラが見たのは哀しみを滲みませながら、目の前の妹を微笑んで送り出そうとする家族の顔だった。

 これから後、彼等の身に起こる事を考えると、その表情は余りに辛い。しかし顔を背けることも、何かを口にすることも、テラには許されなかった。支えが消えたことで、あらゆる力や負荷が消えてたからだ。永遠のような一瞬は一瞬でしかなく、二人の顔はすぐ見えなくなる。


「行くぞ!」


 レイスは咄嗟に前傾姿勢を取った。

 無重力に似た不思議な感覚は刹那の出来事で、次の瞬間には荒れ狂うスピードの中へと三人は飲み込まれた。ダストシュートは暗く狭い。正直、この選択は正しかったのだろうかと考えてしまうほどに、薄気味悪かった。

 しかし、それは降下による風圧の衝撃の前では小さな問題でしかなく、バイクを走らせた時のような力にレイスは必死に耐えるだけだった。


「きゃあ!!」

キュ~~ン


 しかしこんな速いスピードは初めて者には恐怖以外の何物ではない。衝撃に驚いてか、リオールの短い悲鳴と腰のバックに入ったアミーの鳴き声が重なって狭いダクトの中で反響する。レイスはアミーが外に飛び出ないように右手でバックのベルトを押さえ、腰に回されたリオールの手に左手を添えて、しっかりと握り締めた。


「掴まって――ろおぉぁああ!!」


 一言、格好良いことを言ってやろうと口を開いた瞬間。真っ直ぐに降下するダクトが極端にカーブした。遠心力の関係より、体のコントロールを失いかけ、思わず叫んぶレイス。


「うるさい」


 すると、視線をようやく前に戻せたテラがリオールの肩に左手を置いて、右手で片耳を不機嫌そうに押さえた。相当彼の耳には不快な音になってしまったのだろうか。後ろから苦情に、レイスは慌てて口を閉じた。彼は先程、テラの激怒を身を持って痛感している。怒らせてはならない、ほとんど反射的な反応だった。


ガコンッ


 だが、そんなレイスの嫌な汗も、不自然な音の発生によって吹き飛んだ。


ガコンッ


「ん?」


ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ


「レイスっ、テラさんの槍が!」

「……あ」


 音の原因は三人の腰に固定した長い槍。直線のそれはレイス達が曲がる度に、無理矢理通り抜けるために、あちこちにぶつかっているのだ。滑り落ちる凄まじい勢いでダクトに衝突するのだ、こちらへの反動も激しいが、槍はこのままではボロボロに成り兼ねない。……まさかダクトがくねくねと曲がるとなど考えしなかったレイスは持ち主の怒りを買わないかと、気が気ではなかった。


「ちょうどいい」


 しかし意外なことに、テラは怒るどころかどこか都合の良さそうな言葉を呟いている。顔を伺えないが、不機嫌ではなさそうだ。


「レイス」

「な、なんだぁぁあああ!!」


 先頭で滑走の風圧を一身でまともに喰らっているレイスは、口を開いても言葉が絶叫にしかならない。話し掛けてきたテラは片耳を塞いだまま、彼もレイスの声に負けじと少しだけ声を大きくした。


「俺の槍は、ただ体を固定するに使ったわけじゃなかったんだな!」

「えぇぇえ!? 何だって?」

「槍がダクトに衝突することで加速を抑えさせているんだろう」

「へ?」


 変な声が出てしまった。レイスはテラの想定外の発言に唖然としてしまう。確かにテラの指摘通り、かなりのスピードが落ちている。槍のぶつかる衝撃ばかりに気を取られていたので、今まで分からなかったが。


「なるほどな」


 テラは感心している。減速はレイスの計算によるものなどではなく、偶然の出来事だということに気付いていないのだろう。彼の勘違いに、レイスは怒られないことを有り難いと思うのだが、何も言えなくなってしまった。


「前、前!!」


 テラの槍に気が行っていたレイスは、全力で彼の背中に抱き着いていたリオールが甲高い悲鳴を上げるまで目の前を見ていなかった。初めのカーブの後、この数分間は、ダクトは真っ直ぐで順調に進んでいたのだが、レイスは彼女の指し示す方向に目をやって――目を見張った。


「ふ、伏せろ!!」

「痛っ」

「あ、コウモリ……」


 レイスは叫んだものの、間に合わずに何か小さな黒いものを額に激突させる。すかさずリオールが、彼の髪に引っ掛かったそれを手に取る。

 小さなコウモリが気絶していた。

 いつもは空に舞っているのしか見たことがなく、間近で見れたことに彼女は素直に感動していた。


「……というか、何でコウモリ?」


 カーブで槍の衝突が相当降下を減速させた為に、額にかかったダメージはたいしたことではなかったが、地味に痛い。レイスは額の痛みを堪えながら、首を捻った。


「まぁ、ダストシュートはずっと使われてないらしいから、虫とかはいるだろうとは思ってたけどさ。普通コウモリはいないだろ、コウモリは」


 半ば文句のように呟いて、彼はふとリオールの方へと振り返った。この行動が出来る辺り、だいぶ降下のスピードにも風圧にも慣れてきていることが分かる。


「この先って、焼却場のはずだろ?」

「えっ?」


 二人はかなり密着しているので、もちろん振り返ればレイスの顔が近いのは当たり前。リオールは自分の顔が紅潮するのが分かった。


「どこか外に繋がっている所があるのかも」


 何とか、小声で言葉を紡ぐと、レイスは感慨深げに頷いた。暗い為に彼女が焦っているということに気づかないのだろう。


「あ、そうだ!」


 何かを思い付いたように、レイスは振り返ったまま叫んだ。驚いたのはリオールだが、彼はテラの方を見ている。暗くてハッキリと分からないが、かなり希望に満ち溢れた表情をしているように見える。


「コウモリだよ! テラ、“会話”してくれ! 出来るだろ?」


 リオールはレイスが言っている意味がさっぱりわからなかった。すると彼女の背後から肩越しに手が伸びてきて、彼女の手の中から気絶しているコウモリを優しく掴む。テラの腕だった。


「コウモリは警戒心が強い。話をしてくれるか分からないぞ」

「やるだけやってみてくれ。詳しい事が知りたい」


 そのままテラは腕を引き、コウモリが目覚めるように親指で頭を撫でた。


「……牢屋に入ってくるコウモリは一切話をしたがらなかったからな」


 上手くいかなくても、文句を言うなよ。そんな意味を込めた言葉を吐き出しながらテラは、目覚めてモゾモゾと動き始めるコウモリへと目線を下げる。

 “会話”のくせに言葉は一つも無かった。テラはただ、じっとコウモリを見つめるだけ。そしてコウモリも彼の目線から反らすことはしないようだった。


「――ありがとう」


 数十秒後、小さく礼を述べた彼はもう一度親指でコウモリの頭を撫でる。コウモリはその行為をじっとして受けると、軽く羽をばたつかせながら飛び去って行った。


「何だって?」

「外に続く道があるかという質問はよく分からないが、とにかく自分は外から来た、と言っていた」


 これが精一杯だ。テラがそう言うと、小さく溜息をつく。リオールは彼の話を聞いて、驚きを隠せなかった。


「テラさんは、動物と話ができるんですね!」

「……ああ」


 テラは、リオールの明るい声色に押されるように肯定する。戸惑っているようだが、満更悪い気ではないらしい。


「とにかく外から来た、か。なんか曖昧な感じだな」


 レイスは話を戻すと、残念そうに肩を落とした。


「仕方ない。今出会ったばかりのコウモリに詳しい話を聞く方が間違いだ。あちらはお前との衝突でかなりパニックになっていたしな」

「そうか」


 上手くいくと思ったんだけどなぁ。レイスはぼやきながら今度こそ前を向いた。

 掴みかけた期待は手をすり抜けてしまい、目の前の風景は更に暗く感じる。実際、いくら槍の先にペンライトをくくり付けているとは言えど、大した効果はなく、前の様子は全くレイスには分からない。知らず知らずの内に彼は溜息を盛大に吐き出していた。


「それはそうと、レイス」

「何?」

「あと三百メートル……いや五百メートルほど先、ダクトが二手に分かれているように見えるんだが」


「は!?」


 テラの指摘に、レイスは思わず叫んでいた。


「見えるんですか?」


 ダストシュートのくせにダクトが分かれていることは異常だろう。だがそれ以上にこの暗闇の中、五百メートル先の状況を捉えられるテラの視力に、レイスもリオールも驚きを隠せない。


「まあ……それよりどうする。もう目の前だぞ」


 何気ない様子で言うテラだが、声に焦りが混じってきた。何とか目をこらすと、レイスにも左右二手に別れるダクトが見えてくる。しかし、テラの言う通り殆ど距離が無い。


「右か左か? 場合によっては大変なことになるぞ。どうするんだ、レイス!」


 テラが声を荒げた。確かに、このダストシュートは未完成の物で使われていない物だ。間違えればとんでもない所に行ってしまう可能性だってある。


「レイス!」

「くそっ」


 右か? 左か? 


《右だ! レイス、右に行け!!》


 頭の中で、光が弾け飛んだ。レイスは直ぐさま声を張り上げる。


「体を傾けろ! 右側に行く!」


 リオールが顔を背中に押し付けたのをレイスは感じた。テラはそんな彼女の肩を支えるように手を置くと、レイスに続いて体を傾ける。


「こっちで良かったのか? レイス!」

「知るか!!」


 右に曲がりきると、更にダクトの勾配が急になった。レイス達は、突然足場を失ったような感覚を覚える。なんと勾配は殆ど垂直に近くなっていたのだ。


「なんだこれ!?」

「きゃぁぁぁあ!!」


 垂直に伸びる冷たいダストシュートは三人を暗闇へと引きずり込んで行った。


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