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上の空の恋人  作者: ニシ
1/5

月曜日は映画論1

「あいしています」

そうつぶやいたのは田仲だった。



 初夏のなんてことない日の大学の大教室のお昼からの授業の始まる直前だった。

曜日は月曜日。

今週も一週間もあるのかと気が重く、だからと言って何かするわけでもない。

教室は広く適度ににぎわっている。

この授業は出席さえすればよいのである。

出席をとって外にでる生徒もたくさんいる。

「美大の一般授業ってほんとなんなんだかな~」

と言ったのは同じグラフィックデザイン学科で同じクラスの佐崎だった。

選択コースはわたしが写真で佐崎は広告。

課題で企画を組んだのが出会いだ。

佐崎はいわゆる今風の男で何故わたしと一緒によくいるのかわからない。

本人に聞くと、「ゆ~ちゃんったら!」とがはははと笑う。

わたしの疑問は長く続かないので、へ~と返す。

それが定期的におきる。わけのかわらない仲だ。

なにか波長があうのかもしれないし、佐崎に思うところがあるのかもしれない。

とりあえず、数少ないわたしの知り合いである。


教室はあいもかわらず騒がしく、助手は気にもしないように出席をとる。

佐崎は名前を呼ばれるとさっそく

「じゃ、あとよろしく」

なんて言って教授が来る前に席をたった。

わたしは外に出る用事もないのでぼんやりとただずむ。

外からは鳥の声がしては蝉と競い合う。

風はなく木々は騒がない。

静かだからかいつもより音が冴え渡る気がした。

外はさんさんと日が差していてまぶしく薄暗い教室とのコントラストが美しかった。

教室ではときおりクーラーの音が聞こえる。

この教室のクーラーは古いせいか音はしてもききずらくいつも汗ばむ。

そんな日常のなかの出来事だった。


まるでふっとおまじないを唱えるように田仲はわたしに「あいしている」とささやいた。

わたしはは田仲を知っていたけれども知らない、ようはわたしたちは挨拶すらすることのない1授業限定のクラスメイトだった。

出席確認でわたしの前が田仲だったので名前だけは覚えている。

田仲のまわりはうすぼんやりと暮らしているわたしにくらべ活発だった。

いや、わたしと同じくらいぼんやりとしていたのかもしれない。

やたらと顔の広い佐崎に聞けばわかるのかもしれないが、佐崎に会うまでわたしが田仲のことを覚えていない可能性が高かった。

田仲はなおも言う。

「帰りまってて」

わたしは一瞬驚いたものの教授が入ってきたのと同時にどうでもよくなってしまい田仲から目をそらす。

悪い冗談だと感じたし帰りのことは帰りに考えればよいと思ったのだ。

その判断が間違いだったことにあとあと嫌というほど理解するが、そのときのわたしは気づかなかった。


ぼんやりと授業は進み終わりのチャイムを鳴らす。

空は赤く染まり、少し冷たい風が吹いた。

わたしは何も考えず、席をたち家路につく。

そう、田仲のことを見事に忘れていたのである。

とくに何か急ぎのようがあったわけではない。

普通に忘れてしまっていた。

そのときのわたしにとって田仲はそんな存在だった。


 次の日、大学にいくと親しくないおんなのこから声をかけられた。

乏しいわたしの理解力で判断すると彼女は田仲の友達でわたしを批判しているらしい。

一般教科の掲示板の前で必死に怒っている彼女をみながらぼんやりする。

世界はいつも少しフィルターがかかっていて困る。

少し斜がかかっている世界は美しいはずなのになかなかそうは見えない。

彼女は怒っている。

わたしはなんとか理解しようと試みるのだが、どうしても空をみてしまう。

今日の空は白い。

鳥が飛んでいる。雲が動き、風がふく。

髪が少しなびいた。

鳥は鳴き、まるで謳っているみたいだった。

ずっと広がる空をみていたら笑ってしまったようでなおも彼女に怒られる。

わたしはだまって上を見上げる。

空は高い。

雲は遠い。

わたしは地上にいる。

気がついたら空に向かってカメラを向けていた。

気持ちのよい風がふく。


静かになったと思い目線を下ろすと誰もいなかった。

わたしはなんだかめんどうになってしまい、必修の授業があったのだがその日はそのまま家に帰った。

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