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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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キュベリアの龍姫

作者: トントン
掲載日:2026/05/13

「お前、まだ機体にパイルバンカー付けてるの?」


整備ハンガーに、ダニエルの呆れた声が響いた。


「あいつのこと引きずるの、やめろって言ってるだろ」


「勘違いするな」


装甲の焼け跡を指で叩いた。


「現地改修機だ。他にマシな武装が無いだけだ」



ハンガーの赤色灯が回転を始めた。

空気を震わせるような警報音。


『戦闘配備! 先発隊が交戦中。敵は識別不能!』


「おっと、出撃か。お前と出るのは久々だな」


「そうだな」


機体を見上げた。

パイルバンカーの焼けた杭が、鈍く光っていた。


「悪くない」



戦場には味方の残骸、生存者はいない。


「おい、これは…」


「敵を探す。」


青い光が後方から走った。

二機は反射的に飛び退く。

衝撃。地響き。焼けた木の匂い。

森を焼き払いながら、光が追尾してくる。

レーダーに敵影は無い。


「見ろ、上から来てる!誘導兵器だ!」


空中に浮かぶ、小型ビーム砲。

数は一つじゃない。

一斉に、撃ってくる。


交わしきれずダニエル機は、脚部が切断された。


敵の位置、森の奥か。

直感でしか無い、賭ける。

スラスターが爆音を上げ身体が重くなる。

景色が流れる。

ビームの弾幕を交わし振り切る。


(見えた)


翼状のアーマーのシルエット。

あれから誘導兵器が飛んでくる。


殺意を込め、パイルバンカーをコックピットであろう部位に突き立てる。


だが、ビームが迫る。

機体を捻り、紙一重でかわす。

こちらの一撃は少し狙いがはずれ、敵のコックピットをかすめた。


敵機は大きく傾き、そのまま沈黙した。



敵機を確認、コックピットの装甲が剥げている。

女?


機体を寄せ、降りる。


白い肌、金の髪、15歳くらいにみえる。

見たことのないパイロットスーツ。

意識はない。


近づき抱き寄せる。


その時、脳裏に映像がみえた。

実験施設、怪しい機械、自分にコードが複数ついている。

苦しい。痛い。


我に返る。

……この少女の記憶か?



「映像が見えた?なるほど…。普通じゃないな。」


軍医は少し考え、資料を見せてきた。

開発コード、キュベリアの龍姫。帝国の生体兵器。


「要するに人ではない…」


軍医は重苦しい表情。

少女はベッドで安らかに寝ている。

部屋を出る。

その時透き通る様な声がした。


「待ってください…」


エメラルドの瞳、こちらをすがる様な目で見ている。


「助けて…」


駆け寄る。

彼女の意思がわかる。連れて行かなくては。

目的地は、共和国研究所。



少女は夢中でパンを食べている。


「初めてか?」


「こんなに美味しいものがあるなんて!」


目は輝き、喜びに満ちた表情をしている。


ダニエルが、呆れた様子で話す。


「帝国ではパンもねえのか?まあ共和国につけばいくらでも食える。」


少女は、興奮気味に頷いた。


「しかし、これだけの戦力でたどり着くのは至難の技だけどな…」


「問題ない」


何故か確信があった。



暗いコックピット。

顔がレーダーモニターの光に照らされながら、敵を探す。

すぐ後ろの座席に少女が座る。

突貫工事で追加した複座は、コックピットを狭くしていた。

振動の度、背中に少女の体温が伝わる。


「います!」


声と同時に回避。

機体が揺れる。

さっきまでいた場所は、赤く溶け発光している。


少女は、目を閉じる。

機体の後方からビーム砲が飛翔し、撃ち返す。

敵のビーム砲が飛び交う。射撃の応酬。


敵にも同じ力。

少女の顔が歪む。

同胞を撃つのか。


スラスターをふかし、加速する。


「あの窪地です!」


少女は、敵の位置を示す。


「無理するな…」


敵に向かい、さらに加速する。


複数のビーム砲が迫る。

躱す。

少女が念じると、こちらのビーム砲が飛翔する。

飛び回る敵のビームを、次々と焼き払った。


照準を合わせて、大型ビーム砲を放った。

直撃ではない。

敵機のコックピットが外れ飛び去った。


「ありがとうございます…」


泣きそうな笑顔。


こう言う戦いも悪くない。



旅路の中間地点の町。

息抜きに歩く事にした。


飼い主に連れられて、小型犬が近づいてきた。

少女は目を輝かせる。


「これが犬!何故か胸が熱くなります。なんて表したら良いか…」


小さく呟く。


「かわいい…かな。」


犬は少女の周りを嬉しそうに走り回っている。

少女は戸惑いながらも、ぎこちなく頭を撫でた。


「柔らかい…」


少女は、少し頬を赤くして微笑んでいる。


そんな顔も出来るのか、と少し思った。


服屋の前。

少女の足が止まる。


「すいません。こういう場所初めてで…」


食い入るように見つめている。


「買ってやる。」


「え?いいんですか?しかし…」


気まずい顔をしている。


構わず店に入る。

何年ぶりか。


しばらく、遠慮していたが。

気になる物を試着させた。

恥ずかしそうにしながら見せてくる。


買い、そのまま店をでる。


「分からなかった、こんなに楽しいなんて。ここまで来れて本当に良かった。」


笑顔で笑いかけてくる。

いつぶりかもう分からない感情、悪くはない。


食事をとる。

向かいに座る少女は、困惑している。

メニューを見せる。

「こ、これが良いです…」

パンか。

他のものも頼んだ。

料理が来ると瞳が大きくなる。興奮を隠せない。

遠慮がちに食べていたが、少しずつ早くなる。

「ありがとうございます。こんなにいろんな食べ物がおいしいなんて。」

うっとりとして語る。

口の横に食べかすが付いている指摘すると、恥ずかしそうに拭っている。


雨が降る、傘が無いので、雨宿りする。

「私がいた場所は、いつも予定どうりの事しか起きませんでした。」

屋根の下。不思議そうに空を見ている。

「世の中。予想できない事が起きる。考えてませんでした。」

手に降りかかる雨粒すら、新鮮にみえるらしい。


雨がやんで歩き出すと、町の夜景がきれいだった。

暖かい電灯、家の明かり。

夜でも活気にあふれている。

少し高い丘の上から見渡す。

「きれいです…本当に。」

遠くの星空も相まって、少女は光の大群を目に入れて輝かせている。

「朝日はもっときれいだぞ。」

「見たいです、朝日。いつか、一緒に見ましょう!」

そういう彼女は、夜景より輝いて見える。


無数のコード。

脈動する光。

龍姫たちのデータが壁面に流れている。


皇帝は静かにモニターを見つめていた。


「失敗作が、随分と生き延びたものだ」


側近が震える声を出す。


「ですが陛下、あの龍姫の戦闘力は規格外です。このままでは——」


モニターの光に照らされた顔を歪ませ、静かに笑う。


「くだらない感情に流され、何も出来ない凡俗どもは、私にひれ伏すべきなのだ。

能力もないのに自由が欲しいだと?感情を満たしたい?下らん。力なきものにそんなものは必要ない。」


脈動するコードが青白く光る。


「龍姫の力を得て私は、人を超越した存在となるのだ。

そのための礎になれた者達は喜ぶべきだ。

私は、この世界の神になる!」



入り組んだ装甲、無数のビーム砲。

巨大な虫の様なシルエット、自機の何倍もある。

帝国の決戦兵器。


巨大な機体の何処にコックピットや動力があるのか…


無数のビーム砲が射出され、迫る。

スラスターをふかしながら躱し、こちらもビーム砲を射出する。

敵味方のビーム砲は螺旋を描きながら撃ち合う。


届く距離に近づき、大型ビーム砲を撃つ。

反動でアームが歪む。


直撃する前に光が乱反射し、ビームは消えていく。

巨大なボディには傷ひとつない。


接近し、さらに撃ち込む。

なお弾かれ、アームはひしゃげ、大型ビーム砲は焼けた。


無数の砲門がこちらを向きビームが輝き迫る。

かわしきれず、機体を掠める。

コックピットの前方に亀裂、部品が飛び散り、装甲が剥がれる。

破片が目に入り、視界が失われる。


勘で回避するが、持たないだろう。


少女は驚愕し、狼狽えたが。

すぐに、落ち着き。


「私が眼になります。」


少女が後ろから手を回して体を密着させる。

意識が流れ込んでくる。

温かい。


辺りの様子がわかる。

ビーム砲の位置、敵の気配。

まるで、機体そのものになったようだった。


敵機からどす黒い妄執を感じる、コックピットか。


燃料を使い切るようにスラスターを吹かす。

破損して剥き出しのコックピットに風が注ぎ込む。

警告音が鳴り響く、赤くなったモニターが点滅する。


少女は必死に背中へしがみついている。


ビームが飛び交う、自機のビーム砲が援護している。


パイルバンカーを構える。

バリアにぶつかる。

熱を発しながらバリアははじけ飛ぶ。

壊れた部品をまき散らし、進む。


接近、ゼロ距離。

装甲の奥に渦巻く黒い妄執へ、

パイルバンカーを撃ち込む。


さっきの被弾で亀裂の入ったパイルバンカーが、爆音を立てて敵のコックピットに突き刺さる。

杭が砕ける。

それでも、届いた。

巨体の奥で爆発が起きる。


離脱。

勝った。


「あの武器は貴方の大切な…」


申し訳無さそうに言う。


「過去にはもうこだわらない。」


納得したらしく、微笑みかけてくる。


「貴方に見せたい景色があります。」


共和国の都市に朝日が差す。美しい雲とコントラストを形成して、どこまでも景色は広がる。



戦場、敵を待つ。

乾いた空気。


後ろの座席は空。

データ通信の音。

ファイルを開く。


「また会える日を楽しみにしてます。」

「心配もしてますが、貴方なら大丈夫と信じてますから。」


犬と映る少女の笑顔。


スラスターが爆音を奏でる。

荒野を駆け抜ける機体は、青空の下、土煙をあげて進む。


また、会おう。


そう呟いた。


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