9話 適性検査
1ヶ月は、思ったより早く過ぎた。
訓練場の砂は、朝の光で白く乾いている。
第零組の10人が並び、その正面に軍の兵士たちが立っていた。
中央には、魔力測定装置。
円形の台座に、淡い光が流れている。
「王国軍 戦闘適性検査を開始する」
グレインの声が響いた。
「測定内容は3つ」
「魔力出力」
「連続発射」
「戦闘判断」
迅が小さく舌打ちする。
「試験みたいだな」
陽菜が肩をすくめる。
「実際試験でしょ」
俺は腕を組んだまま言う。
「順番にやれ」
最初に前へ出たのは迅だった。
迅は台座の中央に立つ。
兵士が装置を起動した。
「魔玉連射、開始」
迅は深く息を吸う。
火の魔力が集まる。
「魔玉・火の――」
10。
20。
30。
火球が連続して飛ぶ。
砂地に設置された標的板が、次々と焦げる。
迅の呼吸は乱れない。
40。
50。
60。
最後の一発が標的を撃ち抜いた瞬間、迅が膝に手をついた。
兵士が数字を読み上げる。
「60連」
グレインが小さく頷く。
「中級水準」
迅は悔しそうに息を吐く。
「まだいける」
次に陽菜。
両手を広げる。
火の球が五つ。
同時に風の魔力が絡む。
加速。
「魔玉・火風同時展開」
球が10、20と増える。
火の魔玉。
風の魔玉。
二種類が同時に空を埋める。
弾幕のように標的へ降り注ぐ。
兵士が呟く。
「同時制御……」
50。
60。
70。
80。
最後に一斉発射。
標的板がまとめて吹き飛ぶ。
「87連」
透。
悠真。
黒斗。
それぞれの検査が続く。
透は水精霊を絡めた魔玉。
悠真は安定した光属性。
黒斗は闇の低密度弾。
そして――
「御影凪」
凪が前へ出る。
一瞬だけ空気が重くなる。
凪は手を前に出す。
闇の魔力が集まる。
球が生まれる。
1発。
2発。
3発。
闇の魔玉が静かに飛ぶ。
速度は速くない。
だが、密度が妙に高い。
兵士の装置が小さく震える。
10。
20。
30。
凪の呼吸が荒くなる。
闇が濃くなる。
その瞬間だった
空気が、ほんの一瞬だけ歪む。
俺は目を細めた。
……やっぱりだ。
凪は30で止まった。
膝をつく。
兵士が数字を読む。
「30連」
グレインは何も言わない。
ただ、凪を見ている。
じっと。
次に梓。
梓は静かに手を上げる。
火の魔力が集まる。
火球が生まれる。
「魔玉・火の――」
火球が光る。
10。
20。
30。
次々と魔玉が生成され、真紅に染まる。
40。
50。
60。
最後の10発は一斉だった。
雷火の弾幕が標的を貫く。
爆発し、煙が舞う。
兵士が言う。
「70連」
迅が小さく笑う。
「やるじゃん」
梓は息を整えるだけだった。
最後に乃愛。
乃愛は少し困った顔をする。
「えっと……」
魔力が集まる。
空気が重くなる。
球は小さい。
だが、妙に密度が高い。
1発。
2発。
3発。
魔玉は少ない。
だが一発一発が重い。
三十で止まった。
兵士が首を傾げる。
「魔力密度……高」
検査が終わる。
グレインが前へ出る。
「結果を発表する」
沈黙。
「徴用対象」
空気が止まる。
グレインは一枚の紙を見る。
そして言った。
「御影凪」
凪が顔を上げる。
「以上だ」
梓が前へ出た。
「待ってください」
声が強い。
「基準は何ですか」
グレインは答える。
「共鳴値」
その言葉に、俺は目を細めた。
……やはりそこか。
梓が言う。
「私は70連です」
「なぜ外れたんですか」
グレインの答えは冷たい。
「兵士に必要なのは火力ではない」
「適性だ」
凪が小さく震える。
俺は一歩前へ出た。
「教師として異議を出す」
グレインがこちらを見る。
「却下」
「国家命令だ」
空気が冷える。
凪の胸の奥の魔力が、わずかに揺れた。
俺は小さく呟く。
……まずいな。
物語が、動き始めている。




