表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強陰陽師教師、問題児だらけの転移者クラスを任される ~王立魔術学園第零組~  作者: ささかま
楔共鳴編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/36

7話 夕方の訓練場

夕方の訓練場は、昼とは別の静けさがある。


授業が終わり、生徒たちはそれぞれ寮や食堂へ散っていく時間だ。

だが、訓練場の奥から微かな魔力の揺れが伝わってきた。


……誰か残っているな。


近づくと、赤い火の気配が見えた。



「……魔玉、火」



小さく呟く声。


神代梓だった。


両手を前に出し、目を閉じている。

火の魔力が指先に集まりかけては散り、また集まる。


生成まで届かない。

循環が硬い。

力で押している。


俺は数歩手前で止まり、しばらく様子を見る。


梓はもう一度息を吸い、魔力を流そうとする。

今度は赤い光がはっきりと集まった。


だが、次の瞬間――

光は形になる前に崩れた。


梓は舌打ちした。



「……くそ」


「押しすぎだ」



背後から声をかけると、梓が振り返った。



「先生」



額に汗が浮かんでいる。

授業のあとからずっとやっていたらしい。



「魔力は水と同じだ。押すと濁る」



俺は手を上げ、空中に小さな無色の球を作る。

安定した生成。



「流す」



指先で軽く弾く。

球が静かに消える。



「……」



梓は黙って見ていた。



「力で作るな。循環を整えてから、余った魔力を集める」



梓はもう一度目を閉じた。

今度は呼吸が変わる。


ゆっくり。

さっきよりも魔力が滑らかに流れる。


赤い光が生まれ――

……一瞬、形になりかけた。

だが、そこで崩れた。



「惜しい」



梓が息を吐く。



「あと少しだった気がします」


「あと二日」


「そんなにですか」


「早い方だ」



梓は少しだけ笑った。

その時、背後から足音が聞こえた。

振り返ると、篠宮怜奈が歩いてきていた。



「こんばんは、先生」


「こんな時間にどうした」


「少し連絡を」



そう言って、彼女は手の中の通信魔術具を閉じた。



「皆さん頑張っていますね」



梓の方を見る。



「神代さんは特に」


「……まだ球も作れません」


「一日目ですから」



怜奈は微笑む。

完璧な普通の少女の顔。

俺はそれ以上は聞かない。



「先生」



今度は別の声。

御影凪が立っていた。



「……まだ、やってるんですね」



凪の視線は訓練場の中央を見ている。



「焦るな」


「焦ってません」



嘘だ。

胸の奥の魔力がざわついている。


凪の体質は、周囲の魔力を引き寄せる。

まだ小さいが、確かにその兆候がある。



「魔玉は急いで覚えるものじゃない」


「……はい」



凪はそれ以上何も言わなかった。

少し歩くと、別の魔力が見えた。


南雲陽菜だ。

その横に、九条結月と柊乃愛。



「こう!こうやって流すの!」



陽菜が両手を振る。

火の魔力が集まり、小さな球になる。



「わぁ!」



乃愛が目を輝かせる。



「できた!」



指先に小さな光。

だが、不安定だ。

結月はじっと観察している。



「魔力の流速が足りない」


「え?」


「循環速度を上げれば安定する」



陽菜が笑う。



「おー、理屈派!」



三人の魔力が重なる。


さらに奥では剣の音が響いていた。

迅と透、それに悠真。


模擬戦だ。

迅が踏み込む。


雷を足に流し、一気に距離を詰める。

透が水精霊を呼ぶ。


地面に水が広がり、迅の足元を滑らせる。

だが迅は止まらない。


雷で強引に踏み込み、剣を振る。

透は風精霊を横から飛ばす。


刃の形の風が迅を牽制する。

そこに悠真の光が広がる。


薄い結界。

透の周囲を守る。

三人の連携だ。


迅は一度距離を取り、笑った。



「いい連携じゃん」


「あなたが突っ込みすぎなんです」



悠真が苦笑する。

透は静かに言う。



「でも速い」



俺は腕を組む。

……少しずつ形になってきている。


その時だった。

訓練場の入口から、足音が聞こえた。


全員がそちらを見る。

軍服。

三人。


先頭にいる男の顔は見覚えがあった。

職員会議にいた男だ。



「……グレイン」



俺が呟く。


男はゆっくり歩いてくる。

訓練場の中央で止まり、生徒たちを見渡す。


その視線は、感情がない。



「訓練中か」


「見れば分かるだろ」



俺は言う。


グレインは気にした様子もない。

兵士の一人が、手に持った魔力測定器を起動する。


淡い光が、生徒たちをなぞる。

迅が眉をひそめる。



「なんすかそれ」



グレインが答える。



「簡易測定器だ」


「魔力量と出力を見る」



陽菜が肩をすくめる。



「許可取ってるんですか?」


「理事会の許可はある」



つまり、教師の許可はいらないということだ。


兵士が装置を向ける。

最初に迅。

数値が表示される。


兵士が小さく言う。



「出力高」



次に陽菜。


装置の光が少し強くなる。

兵士の声が少し変わる。



「……三属性?」


グレインがメモを取る。


透。

悠真。

黒斗。

そして転入組。


装置の光が凪に当たった瞬間だった。

光が一瞬だけ強く揺れる。


兵士が眉をひそめる。



「……魔力密度、高い」



グレインが凪を見る。


じっと数秒。

凪は少しだけ肩を強張らせた。


俺はその視線を見ていた。

……やっぱりそこか。


グレインは次に梓を見る。

梓は視線を逸らさない。



「何ですか」



グレインが言う。


「火と雷と光」


「複合か」



梓は短く答える。



「そうです」



沈黙。

グレインは視線を全員に向けた。



「一ヶ月後」


「戦闘適性検査を行う」



迅が小さく言う。



「それ聞いた」



グレインは続ける。


「数値を見る。実力を見る。そして選ぶ」



陽菜が聞く。



「何を?」



グレインの答えは短かった。



「兵士を」



訓練場の空気が変わる。

凪の胸の奥の魔力が、ほんのわずかに揺れた。


俺は腕を組む。

……やっぱりな。


軍は、最初から見に来ている。

誰が強いかじゃない。


誰が使えるか。

その視線の中心にいるのは――

御影凪だ。


俺は小さく息を吐く。

面倒なことになりそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ