5話 転入生達の評価
◆ 神代 梓
強い、という言葉では足りなかった。
訓練場の砂は、まだ熱を持っている。
ついさっきまで踏み込まれていた場所には、深い足跡が残っていた。
先生――九条朔夜。
最後まで、息を乱していなかった。
迅との近接戦。
陽菜の弾幕。
透の精霊。
全部、真正面から受けて、崩していた。
普通なら距離を取る。
有利な位置に立つ。
相手の弱点を突く。
でも先生は違う。
逃げない。
引かない。
相手の土俵に立ったまま戦い続ける。
そして崩す。
それが一番怖い。
私は無意識に拳を握る。
あれは経験だ。
何度も戦場に立った人間の動き。
それなのに――
どこか余裕があった。
……あれが本気とは思えない。
追いつきたい、ではない。
追いつかなければならない。
あの背中を、見失ったら終わる気がした。
◆ 篠宮 怜奈
戦闘効率は高い。
雷と闇の運用のみで、あの制圧力。
迅戦では重心操作が正確すぎる。
攻撃を受ける瞬間、わずかに体重を逃がしている。
完全な受けではない。
流している。
陽菜戦では弾幕の“穴”を読む視線移動。
あの数の魔玉を見切るのは普通は不可能だ。
だが先生は弾を見ていない。
陽菜を見ている。
発射前の肩の角度。
視線。
体重移動。
そこから軌道を読んでいる。
透戦ではさらに顕著だった。
精霊二体同時制御。
負荷のピークを正確に見抜いている。
そこを崩した。
総合判断速度は――
教官クラスに近い。
だが。
問題はそこではない。
――あれが上限ではない可能性。
式神の出力を抑えている。
闇の展開も最低限。
あの場で使えたはずの術式を、使っていない。
意図的に隠している。
教師としてか。
それとも――
怜奈は静かに視線を伏せる。
まだ判断材料が足りない。
◆ 御影 凪
怖い。
それが一番最初に浮かんだ感情だった。
あれが“教師”の強さ。
自分は、まだ魔玉すらまともに作れない。
闇は出る。
でも、制御できない。
魔力が暴れる。
胸の奥がざわつく。
先生の闇は違った。
静かで。
冷たくて。
正確だった。
必要な分だけ出して。
必要な分だけ止める。
まるで刃みたいだ。
自分の闇は違う。
濁っている。
重い。
胸の奥で、何かが動く。
俺は拳を握る。
あの人に追いつくには――
何を捨てればいい?
焦りが、形を持ち始めていた。
◆ 九条 結月
理屈では理解できる。
迅は押しすぎた。
陽菜は撃ちすぎた。
透は同時制御で一瞬止まった。
分かる。
理屈は全部分かる。
でも。
分かることと出来ることは違う。
先生は全部、冷静だった。
無駄な動きが一つもない。
攻撃も、防御も、移動も。
全部が最短。
あれは才能なのか。
それとも経験なのか。
結月は静かに目を細める。
戦闘記録として整理するなら――
迅は突進型。
陽菜は制圧型。
透は制御型。
それぞれの強みは明確だ。
そして先生は。
……全対応型。
結月は小さく息を吐く。
追いつく方法は、必ずある。
感情ではなく。
計算で詰める。
◆ 柊乃 愛
すごかった。
かっこよかった。
それが最初の感想。
でも、それだけじゃない。
戦っている間。
先生の周りの空気が、一瞬だけ変わる時があった。
特に透との戦い。
式神を出した瞬間。
あの時。
空気が、少しだけ重くなった。
何か。
もっと大きいものを。
“押さえ込んでいる”感じ。
先生は、まだ余裕がある。
いや。
余裕というより。
“使っていない”。
気のせいかもしれない。
でも。
あの人は、まだ隠している。
私は首をかしげる。
……面白い。
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