4話 模擬戦
生成の差を見せたあと、俺はゆっくりと剣を抜いた。
転入組の視線が一斉に集まった。
彼らはまだ、属性球すら安定しない。
だからこそ、見せる必要がある。
「転入組は見ていろ。順番に来い」
最初に前に出たのは迅だった。
――天城迅(近接特化)
迅は構えた瞬間から前傾している。
待つ気がない。踏み込む気満々だ。
陽菜の開始の合図と同時に、足元に雷が走る。
瞬間的に筋力を底上げする強引な加速。
地面を蹴った衝撃が遅れて伝わる頃には、もう剣が振り下ろされている。
俺は正面で受け止める。
重い。
迅は腕力だけでなく、体重を完全に乗せてくる。
受け止めたまま力比べをすれば、そのまま押し切られる可能性もある。
だから俺は受け止めながら、刃の角度をわずかに変える。
衝撃を真正面から受けず、流す。
迅は止まらない。
受けられたと判断した瞬間に横へ滑り、その勢いをそのまま横薙ぎに変える。
一撃一撃に無駄がない。
迷いもない。
俺は半歩下がり、刃を滑らせて弾く。
迅はさらに踏み込む。
今度は低い姿勢からの突き。
雷で瞬間加速をかけている。
軌道は鋭いが、真っ直ぐだ。
俺は刃で受け流しながら、迅の足の位置を見る。
重心が前に寄りすぎている。
そこで一度、真正面から押し返す。
迅はそれに対抗して、さらに踏み込む。
体重が完全に前に乗る。
その瞬間、俺は力を抜いた。
迅の剣がわずかに空を切り、体が前に流れた。
ほんの一拍分の空白。
俺は半身で抜け、迅の横を通り過ぎる。
背後に回り、刃を首元で止めた。
「終わりだ」
迅は荒い息を吐きながら、悔しそうに笑った。
「押し切れると思ったんですけどね」
「押せる力はある。だが、押せない時の選択肢がないな」
近接の差は、そこだ。
――南雲陽菜(広域魔術)
陽菜は迅と正反対だ。
最初から距離を取る。
両手を広げると、火球が五つ同時に生まれた。
無詠唱か。
一斉に加速し、しかも風魔術で速度バフをかけて一直線に飛んでくる。
俺は雷球を放ち、一つずつ撃ち落とす。
爆ぜる音と熱風が顔を打つ。
陽菜は間を置かない。
「魔玉・火の10連」
今度は十発。
しかも一直線ではなく、左右に散らして撃つ。
弾幕が視界を埋める。
ここで後退すれば、完全に陽菜の土俵になる。
俺は雷を足に流し、斜め前へ踏み込む。
先ほど迅が使用した技法だ。
俺が彼に教えたのだから出来て当然。
正面突破ではなく、弾幕の隙間を縫う。
一発が肩をかすめるが無視。
陽菜はすでに次の動きに移っている。
風で体を浮かせ、上空から火球を降らせる。
上からの制圧。
風属性持ちは宙に浮くことも可能なので、厄介だ。
しかも彼女は「風・火・雷」の3属性持ち。
現状5人の中で最も厄介かつ強い。
俺は地面を蹴る。
雷を纏って跳躍し、空中で二発を斬り落とす。
残りをかすめながら陽菜へ迫る。
宙に浮く彼女へ距離を詰め、剣を肩口で止める。
陽菜は息を整えながら地面へ降りて笑った。
「抜けてくる前提で組み直します」
「弾幕は布石だ。撃つだけなら押し切れない」
――水無瀬透(精霊制御)
透は静かに目を閉じた。
短い詠唱と共に、足元に水の魔法陣が広がる。
水精霊が現れ、地面を濡らす。
同時に風精霊が刃の形で宙を舞う。
足場が奪われる。
同時に風刃が横から飛来してきた。
俺は剣で受けるが、足元が滑る。
透は動かない。
精霊の制御に集中している。
水精霊が波のように押し寄せる。
距離を保ったまま、俺を削る戦法だ。
俺は符を切り、影狼の式神を呼ぶ。
「来い、玄狼」
「わん!」
もふもふの柴犬が顕現した。
指で合図をすると、水精霊に飛びかかる。
水と影がぶつかり、しぶきが上がる。
風精霊が上空から風の刃を飛ばしてきた。
「魔玉・雷の20連」
雷球で相殺し、精霊を貫く。
透は同時制御を維持している。
精霊使いは本人を止めないと終わらない。
水の精霊の水が玄狼に蛇のように絡みつく。
再生した風の精霊の風刃が側面から迫る。
「闇のカーテン」
俺は足元に闇を広げる。
影が精霊の動きをわずかに鈍らせる。
透の視線がほんの一瞬だけ揺れた。
同時制御で負荷がかかった証拠だ。
その隙を逃さず、踏み込む。
剣を胸元で止めるると、精霊が消えた。
「制御は良い。だが二体同時で止まる」
透は静かに頷いた。
――白石悠真(耐久)
悠真は最初から守りに入る。
光で自己強化し、水壁を展開する。
俺は正面から剣で斬るが、弾かれる。
二撃、三撃。
水壁が揺れ、すぐに修復される。
悠真は一歩も下がらない。
完全な耐久戦だ。
「蒼き雷」
中級魔術の雷で水壁を叩く。
ひびが入るが、すぐ回復する。
削り合いでは分が悪い。
俺は一度距離を取る。
「闇のカーテン」
足元に闇を落とす。
視界が一瞬だけ暗む。
悠真の集中がわずかに揺らいだ。
水壁の厚みが薄くなる。
そこへ踏み込み、剣を首元で止める。
「守りは強い。だが勝つには攻めが必要だ」
悠真が静かに頷いた。
――影山黒斗(奇襲)
黒斗は開始と同時に姿を消す。
音もない。気配もない。視線もない。
俺は動かず、影を薄く広げる。
右後ろの影が、わずかに歪む。
振り向きざま、刃を受けて火花が散る。
黒斗はすぐ離れ、再び消える。
今度は正面。
影の濃い部分が一瞬だけ揺れる。
踏み込むが空振り。
背後から気配。
振り向き、刃を止める。
俺は地面に闇を広げる。
黒斗の足元の影を縫い止める。
ほんの一瞬だけ動きが止まる。
剣を首元で止める。
「殺気が残る」
黒斗が小さく笑った。
五戦が終わる。
転入組は沈黙している。
差ははっきりしている。
だが、絶望的ではない。
俺は剣を収めた。
「強さは特別な力じゃない」
「一手を積み重ねた結果だ」
一ヶ月。
ここからが本番だ。




