35話 ゴル=ヴァル
夜の学園広場。
裂けた空の奥から、巨大な影がゆっくりと降りてきた。
四メートル。
だが、さっきまでの共鳴体とは違う。
黒い体。
歪みの少ない輪郭。
腕と脚は明確な形を持ち、全身を濃い魔力が覆っている。
そして。
赤い目が、知性を宿していた。
影は地面に着地する。
石畳が沈む。
静寂。
その影が、ゆっくりと顔を上げた。
視線が向く。
凪。
凪の体が震える。
胸の紋様が強く光る。
その時だった。
影が口を開いた。
「……楔」
低い声。
歪んでいる。
だが確かに言葉だった。
迅が呟く。
「……喋ったぞ」
陽菜が言う。
「気持ち悪いんだけど」
怜奈が低く言う。
「上位共鳴体」
結月が言う。
「知性があります」
影が、ゆっくり言った。
「楔」
「返せ」
空気が凍る。
凪が息を呑む。
影が続ける。
「それは」
「こちらのものだ」
俺は一歩前に出る。
「断る」
赤い目が細くなる。
「……人間」
俺を見る。
「邪魔だ」
次の瞬間。
空間が歪んだ。
景色が曲がる。
俺の足元の空間がねじれる。
「!」
地面が爆ぜる。
空間歪曲。
俺は後ろに跳ぶ。
石畳が抉れる。
迅が言う。
「今の何だ!」
怜奈が言う。
「空間干渉です」
影が言う。
「我は」
一歩踏み出す。
地面が軋む。
「ゴル=ヴァル」
空が低く唸る。
その瞬間。
裂け目から、さらに二つの影が落ちた。
地面に着地する。
衝撃。
影が立ち上がる。
黒い狼。
共鳴体。
三メートル級の巨体。
赤い目が光る。
陽菜が言う。
「狼型?」
透が小さく言う。
「共鳴体の変異種」
迅が剣を構える。
「先生」
「この二体は俺たちが抑えます」
俺は狼型共鳴体を見る。
そして。
ゴル=ヴァルを見る。
空間の歪み。
魔力の圧。
明らかに格が違う。
俺は頷く。
「任せる」
そして続ける。
「だがゴル=ヴァルは別だ」
迅が少しだけ笑う。
「やっぱりそう来ますよね」
俺は剣を抜く。
闇が刃を覆う。
「そいつは俺がやる。
怜奈、後は頼むぞ」
怜奈が一歩前に出る。
視線は狼型共鳴体。
「戦闘指示」
短く言う。
「狼型を分断します」
「迅、左」
「梓、右」
「後衛支援」
結月が頷く。
「核は胸です」
「破壊すれば崩壊します」
悠真が結界符を握る。
透が精霊を呼ぶ。
黒斗が影に沈む。
乃愛が笑う。
陽菜が魔玉を生む。
第零組が一斉に動いた。
狼型共鳴体へ突進する。
戦場が二つに分かれる。
広場の中央。
残ったのは。
俺と。
ゴル=ヴァル。
ゴル=ヴァルが俺を見る。
「人間」
「退け」
俺は答える。
「退かない」
ゴル=ヴァルが腕を上げる。
空間が歪む。
空気が引き裂かれる。
俺は踏み込む。
剣が振り下ろされる。
斬撃。
だが。
刃が止まった。
空間が歪んでいる。
刃が届かない。
「……結界か」
ゴル=ヴァルが言う。
「違う」
「空間だ」
次の瞬間。
拳が振り下ろされる。
俺は横へ踏み込む。
地面が爆ぜる。
衝撃が広場を揺らす。
俺は距離を詰める。
符を指に挟む。
「縛」
符が飛ぶ。
黒い鎖が空間に絡む。
ゴル=ヴァルの腕を拘束する。
その瞬間。
剣を振る。
斬撃。
ゴル=ヴァルの肩が裂ける。
黒い魔力が噴き出す。
だが。
ゴル=ヴァルが笑った。
「人間」
次の瞬間。
空気が吸い込まれる。
魔力が流れる。
俺の術式が揺れる。
「……魔力吸収か」
ゴル=ヴァルの体が膨れ上がる。
赤い目が光る。
「楔」
「寄越せ」
ゴル=ヴァルの背後で。
空間がさらに歪む。
黒い魔力が渦を巻く。
圧力が増す。
広場の空気が震える。
俺は剣を握る。
「……なるほど」
ゴル=ヴァルが言う。
「人間。
貴様。
少しは戦える」
空間が裂ける。
魔力が膨れ上がる。
ゴル=ヴァルの声が低く響く。
「では」
赤い目が光る。
「少し本気でいこう」
次の瞬間。
空間そのものが歪み始めた。
流石に力を抑えたままこいつを消滅させるのはきついな。
しかしこの戦場を見ている奴らが複数いる。
懐から符を4枚取り出す。
「凪、もう少し近くに来てくれ」
「は、はい!」
素直に俺の後ろへきた。
「結界符・断絶」
霊力を流し、宙へ符を投げる。
見た目に変化はないが、認識阻害・空間断絶の結界が張られる。
これでゴル=ヴァルとのタイマンだ。




