22話 学園封鎖戦
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訓練場に続く石畳の広場で、軍の部隊と第零組が向かい合っていた。
流石に教室で事を構える訳にはいかない。
軍もそこは理解をしているようだ。
鎧の擦れる音が静かに響く。
兵士は二十人ほど。前列には盾を構えた重装兵、その後ろに魔術兵が並んでいる。杖の先にはすでに魔力が集まり始めていた。
完全な制圧隊形だ。
対してこちらは十人。
数では半分。
だが俺は落ち着いて広場を見渡した。
配置はすでに決めてある。
だが俺自身は戦えない。
可能性は低いがグレインが出てきた場合、まともにやり合えるのは俺だけ。
下手に消耗する訳にはいかない。
「迅、梓。前衛」
二人が一歩前に出る。
迅は剣を肩に担ぎ、口元に笑みを浮かべていた。
梓は逆に静かだ。視線だけが鋭く兵士の動きを追っている。
「陽菜、弾幕準備」
「りょーかい!」
陽菜が両手を広げる。
空気中の火と風の魔力が一斉に集まり、周囲に小さな光球が生まれ始めた。
「透、制圧」
透は目を閉じて短く頷く。
足元の石畳の隙間から、水がじわりと滲み出し始めた。
「悠真、後衛維持」
「任せてください」
柔らかな光が悠真の周囲に広がる。
「黒斗」
「……いつでも」
すでに影が薄く揺れている。
あいつは戦闘が始まれば姿を消す。
「乃愛、結月、怜奈は凪を守れ。
俺も援護する」
「了解」
「わかったよー!」
「御影君、私達の後ろに」
「ごめん。僕のせいで……」
「御影君、そこはありがとうですよ」
怜奈が言う。
「……ありがとう」
凪が小さく応えた後、俺は最後に兵士たちを見る。
隊のリーダーらしき男が手を上げた。
グレインは後方から観察している。
「抵抗するな。これは王国命令だ」
迅が小さく笑った。
「教師に言えよ」
俺は息を吐く。
「……始めるぞ」
次の瞬間だった。
「魔玉・火の五十連!」
陽菜の声が響いた。
空中に浮かんでいた光球が一斉に圧縮され、真紅の魔玉へ変わる。
五十個。
それが扇状に広がり、軍の隊列へ向かって放たれた。
空気が焼ける。
破裂音が連続して響く。
兵士たちが盾を構える。
「防御陣形!」
前列の重装兵が盾を地面に突き立て、魔術障壁を展開する。
透明な壁が広場を覆う。
魔玉が次々にぶつかる。
爆発。
熱風。
衝撃。
だが障壁は破れない。
魔術障壁は軍用だ。通常の魔術では簡単には破れない
「さすが軍だな」
迅が言った。
俺は短く答える。
「今だ」
その瞬間、迅が地面を蹴った。
足元に雷が走る。
一瞬で距離を詰める加速。
石畳が砕け、砂煙が跳ね上がる。
梓も同時に動く。
迅が真正面から突っ込み、梓がわずかに斜めへ回り込む。
連携だ。
迅の剣が盾に叩きつけられる。
凄まじい衝撃。
重装兵が一歩下がる。
その隙に梓が踏み込む。
しかし軍の魔術師が魔力を集束させる。
「火弾!」
火の魔術が梓へ飛ぶ。
梓は咄嗟に手をかざす。
魔術が触れた瞬間。
炎が崩れた。
霧のように消える。
兵士が目を見開く。
「……消えた?」
梓は自分の手を見る。
「……今の」
すぐに首を横に振り
「はっ!」
剣が横から振り抜かれる。
盾の縁を正確に叩き、構えを崩す。
そこへ迅がもう一度踏み込む。
雷加速のまま突き。
盾兵の防御が完全に崩れた。
その瞬間。
「風精霊」
透の声が静かに響く。
広場に風が走る。
透明な刃のような風が、兵士たちの足元を一斉に切り裂いた。
同時に、水が広がる。
石畳の上に薄い水膜が広がり、兵士の足が滑る。
隊列が崩れる。
そこへ再び陽菜の弾幕が降り注いだ。
「火と風、同時展開!」
今度は火の魔玉に風の加速が乗る。
弾速が倍近く跳ね上がる。
爆発が連続する。
兵士たちは完全に防御へ回る。
だが――
その瞬間だった。
影が揺れた。
黒斗だ。
兵士の影から音もなく現れる。
一瞬。
喉元に刃。
兵士が剣を落とす。
黒斗はすぐに影へ戻る。
次の兵士の背後。
また一人。
また一人。
気配すら残さない奇襲。
「くそ、影だ!」
兵士が叫ぶ。
だが遅い。
隊列は完全に崩れていた。
その中で、迅と梓が前へ進む。
迅の剣が振り下ろされる。
重い一撃。
兵士の剣を弾き飛ばす。
梓が横から斬り込む。
正確な軌道。
防御の隙間だけを狙う斬撃。
完全な前衛連携だった。
だが軍も黙ってはいない。
後列の魔術兵が杖を掲げた。
瞬間、怜奈が叫ぶ。
「白石君! 上に防御結界」
「光の壁」
「蒼き雷」
空から雷が複数落ちる。
白い結界が広がり、全ての雷を弾いた。
轟音。
衝撃。
だが前衛は止まらない。
「押し切るぞ!」
迅が叫ぶ。
陽菜の弾幕がさらに続く。
透の精霊が兵士の動きを縛る。
黒斗が影から刃を突き出す。
悠真の光が仲間の傷を癒す。
十人が、初めて完全に噛み合っていた。
俺はその光景を見ながら小さく呟く。
「……クラスになったな」
その瞬間、低い声が響いた。
「そこまでだ」
空気が止まる。
兵士たちが一斉に道を開ける。
鎧の男が歩いてくる。
軍の指揮官。
グレイン。
静かな目で戦場を見渡す。
そして第零組を見る。
「……面白い」
短く言った。
「だが、ここは戦場ではない」
広場の空気がゆっくりと冷えていく。
戦闘は、そこで止まった。




