21話 学園封鎖
凪が目覚めてから数時間、妙に静かだった。
普段ならこの時間、訓練場から魔玉の破裂音が聞こえる。
寮の方からは、生徒たちの声が混ざる。
だが今日は違う。
音がない。
まるで学園そのものが息を潜めているようだった。
俺は校舎の廊下を歩きながら、窓の外を見る。
結界塔の光が、いつもより強い。
「……やっぱり来たか」
小さく呟く。
結界は外部侵入に反応すると出力を上げる。
つまり――誰かが入った。
教室の扉を開ける。
第零組の生徒たちは、すでに集まっていた。
迅が腕を組みながら窓の外を見ている。
「先生、見ました?」
「見た」
窓の外。
校門の前に、黒い車両が並んでいる。
軍の輸送車だ。
五台。
そしてその周囲を囲む兵士。
陽菜が椅子の背もたれに寄りかかりながら言う。
「うわー、完全に包囲じゃん」
軽い口調だが、目は笑っていない。
透は窓の外をじっと見ていた。
「……結界が外から固定されています」
悠真が小さく息を飲む。
「固定って……」
「学園を閉じる術式です」
透は淡々と言う。
「中から出られません」
教室の空気が一瞬止まる。
黒斗は壁際で腕を組んだまま、窓の外を見ていた。
「……封鎖」
短く言った。
その言葉が、妙に重く響く。
俺は教室の中央に立つ。
「慌てるな」
全員の視線が集まる。
「まだ何も決まってない」
その瞬間。
校内放送が鳴った。
ノイズが一度だけ走る。
そして、低い声。
『王立魔術学園の生徒諸君に告げる』
軍の声だ。グレインではない
教室の空気が凍る。
『本日より当学園は王国軍の管理下に入る』
迅が小さく舌打ちした。
陽菜が肩をすくめる。
『楔現象の発生が確認されたため、危険区域として封鎖する』
凪の肩がわずかに揺れる。
俺はそれを見逃さない。
『生徒は順次、安全区域へ移送する』
その言葉に、梓が机を強く叩いた。
「ふざけないで」
教室に響く。
「安全区域って何?」
怜奈が静かに言う。
「軍の施設でしょう。軍の内部でも現場と上で意見が割れているようですね」
放送は続く。
『なお、転移者クラス――第零組の生徒は優先的に移送対象となる』
沈黙。
教室の空気が一気に重くなる。
迅が笑った。
乾いた笑いだ。
「なるほど。やっぱり最初からそれが目的か」
悠真が小さく言う。
「……徴用」
黒斗が低く呟く。
「兵器だな」
梓は立ち上がっていた。
怒りが顔に出ている。
「先生」
視線が俺に向く。
「止めますよね」
教室の全員がこちらを見る。
その瞬間、扉が開いた。
音もなく。
軍服の男が立っていた。
グレインだ。
教室を見回す。
そして静かに言う。
「抵抗は勧めない」
迅が立ち上がる。
「お前らが先に喧嘩売ってきたんだろ」
グレインは表情を変えない。
「学園は封鎖された」
「君たちは管理下に入る」
陽菜が笑う。
「管理って便利な言葉だよね」
透が静かに言った。
「……戦闘準備」
悠真が息を飲む。
凪は黙ったままだ。
結月は状況を計算するように目を動かしている。
乃愛は首を傾げている。
俺は一歩前に出る。
グレインと視線が合う。
数秒。沈黙。
それから、グレインは言った。
「九条朔夜」
俺の名前を呼ぶ。
「これは命令だ」
俺は肩をすくめた。
「残念だな、俺は軍人じゃない」
グレインの目がわずかに細くなる。
「教師だ」
教室を振り返る。
十人の生徒。
まだ未熟だ。
だが――
逃げる気はない。
「俺の仕事は一つだ」
全員がこちらを見る。
俺は言った。
「生徒を守る」
沈黙。
次の瞬間。
迅が笑った。
「それ聞いて安心しました」
陽菜が立ち上がる。
「よし、やろっか」
透が小さく息を吐く。
「結界を突破する方法を考えます」
黒斗が影の位置を確認する。
悠真が魔力を練る。
梓はゆっくり拳を握った。
グレインはその光景を見ていた。
ほんの一瞬だけ、息を吐く。
「……愚かな選択だ」
俺は答える。
「教師としては正しい」
結界塔の光が強くなる。
校庭で兵士たちが動き始める。
王立魔術学園。
その日。
学園は完全に封鎖された。




