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最強陰陽師教師、問題児だらけの転移者クラスを任される ~王立魔術学園第零組~  作者: ささかま
楔共鳴編

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2話 転入生

魔玉(まぎょく)・火の10連!」


乾いた破裂音が十回、連続で響く。

赤い光球が的に突き刺さり、焦げ跡を増やした。


威力は低い。木板を割るのがやっとだ。

だが基礎は基礎だ。土台を疎かにした人間から崩れる。



「三発目と七発目、圧縮が薄い」



俺が言うと、撃った少年――天城迅が目を丸くした。



「え、そんなの分かるんですか!?」


「分からないと教師は失業する」


「先生、仕事はちゃんとするタイプなんですね……」


「お前、俺を何だと思ってる」


「いや、なんかこう……放っておいたら一人で屋上にいそうというか……」



正しい。反論できない。


アストリア王国。

王立アストリア魔術学園。

十歳から八年、剣と魔法を学ぶ場所。


転移者専用クラス――第零組。

地球から来た生徒だけを集めた、半ば保護区のような教室。


俺――九条朔夜はそこで教師をしている。


仕事はきちんとする。

その代わり、仕事以外は基本ひとりだ。


無口? 自覚はない。

必要なことは話す。必要じゃないことは話さない。それだけだ。



「もう一回。今度は十発全部を同じ密度で」


「うっす!」



迅が構え直す。

……悪くない。

ここにいる生徒たちは、ちゃんと生きようとしている。

地球からの異世界転移という突然の理不尽にも負けず。


だから余計に。

余計に、面倒が起きると腹が立つ。



職員会議の空気は、朝から重かった。



「第零組に、転入生を五名編入する」



理事長が淡々と告げる。


五名。

多い。いや、珍しい。

転移者の保護は段取りが命だ。

一度に五人は、運用として雑すぎる。



「理由は」



俺が問う。

理事長は視線を横に流す。


その先に――軍服の男が立っていた。

無表情。

無駄に整った姿勢。

軍人という生き物は、存在しているだけで場を冷やす才能がある。



「王国軍の要請だ。一ヶ月後、戦闘適性を再評価する」



一ヶ月後。

猶予か、カウントダウンか。



「転移者は保護対象のはずですが」


「保護のための評価だ」



淡々と返される。

なるほど。


人を殴るのに「愛のムチ」と言うのと同じ理屈だ。

理事長が俺を見る。



「九条教師。受け入れを」



俺は頷く。

断る権限は、教師にはない。

……あれば、どれだけ楽か。



午後。

第零組の教室。

俺のクラスは元々五人だ。


少数だからこそ、目が届く。

黒板に【転入:5名】と書くと、ざわめきが起きた。



「増えるんすか!?」



迅が立ち上がりかける。



「狭くなりますねー。まあ、うちらが詰めればいっか!」



南雲陽菜が笑う。

明るいのは才能だ。戦場でも役に立つ。


窓際で風を感じているのは水無瀬透。

指先がわずかに動く。精霊のざわめきを聞いている。



「……先生、無理しないでくださいね」



柔らかい声は白石悠真。

壁際で無言のまま観察しているのが影山黒斗。


気配が薄い。仕事ができる奴ほど静かだ。



「机は増やす。騒ぐな」



そう言った瞬間、扉が開く。

五人。

空気が、わずかに沈む。


一人目。

肩にかかる黒髪。

艶のあるストレート。

切れ長の瞳。

――時間が、一瞬だけ巻き戻る。


夜。

結界。

黒い紋様。

俺は無意識に息を止めていた。

視線が合う。

彼女も止めた。



「神代梓です」



短く、強い声。

あの夜と同じ目だ。

(……偶然か、いや必然ともいえるか。過去が追いかけてきたのだから)


二人目。


「篠宮怜奈です。よろしくお願いします」



上品な微笑み。

整いすぎている。


三人目。


「……御影、凪」



目の焦点が曖昧な少年。

その胸の奥で、空間がわずかに“引いて”いる感覚があった。


一瞬だけ、地球の夜が脳裏をかすめる。

違う。

まだ、違う。


四人目。


「九条結月。よろしく」


知的な眼鏡の下に観察の目。

理論の匂い。


五人目。



「柊乃愛です!」



柔らかい笑顔。

だが魔力量が妙に重い。



「一ヶ月後、戦闘適性検査を実施する」



教室後方から軍服の男の声。

いつの間に。



「国家命令だ」



空気が凍る。

梓の視線が鋭くなる。


凪の肩が、ほんのわずかに震える。

俺は息を吐いた。



「この教室は学園だ」



軍服を見る。



「やるなら、俺の監督下でやれ」


「当然だ」



当然、か。

一ヶ月。

短い。


だが守るには十分だ。

……二度目はない。



放課後、屋上。



「先生」



振り向くと神代梓。

夕日に黒髪が赤く染まっている。


冷静に対応しろ。

今は教師と生徒だ。



「軍、転移者を兵器にする気です」


「根拠は」


「流れが嫌なんです」



曖昧だ。

だが、嫌な流れは当たる。



「また一人で背負う気ですか」



心臓が、わずかに止まる。

あの夜と同じ言葉の温度。



「教師の仕事は生徒を守ることだ」


「死ぬことじゃありません」



即答。

変わっていない。

いや、変わったのは俺か。



「正しい選択をする気ですか」



視線を逸らす。



「それが仕事だ」


「私は嫌です」



胸の奥が、鈍く軋む。

遠くで迅の声が響く。



「魔玉・火の20連!」



乾いた破裂音。

平和な音。

だが、弾幕はいつでも戦争に変わる。



「消えないでください」



簡単に言うな。

俺は息を吐く。



「……善処する」



風が強くなる。

一ヶ月。

今度は違う選択をする。

世界が誰か一人を選ぶ前に。


俺は思う。

本当に面倒だ。

ただ静かに、教師をしていたいだけなのに。

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