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最強陰陽師教師、問題児だらけの転移者クラスを任される ~王立魔術学園第零組~  作者: ささかま
楔共鳴編

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19話 楔の理屈

夜の学園は、昼間とはまるで別の場所に見える。


訓練場の砂はまだ踏み荒らされたままで、結界柱の光だけが静かに瞬いている。

さっきまでここで戦闘があったとは思えないほど、空気は落ち着いていた。


俺はその中央に立ち、地面に残る歪みを見下ろしていた。


凪の楔が一瞬だけ開いた場所だ。


砂の表面には、まだ微かに黒い紋様が残っている。

人の目にはただの焦げ跡にしか見えないが、陰陽の気配を読む人間にははっきり分かる。


空間が、一度裂けかけた痕跡だ。



「……やっぱり残ってるな」



俺が呟いた瞬間、背後から低い声が返ってきた。



「完全には消えない」



振り向かなくても誰か分かる。

グレインだ。


軍服のまま、いつの間にか訓練場の端に立っていた。

相変わらず気配を隠す気がない。

それなのに近づかれると気づきにくい。妙な男だ。



「監視か」


「観察だ」



淡々とした口調で言う。

俺は肩をすくめた。



「言葉遊びはいい。凪をどうするつもりだ」



グレインは少しだけ沈黙した。

それからゆっくり訓練場の中央まで歩いてくる。

靴が砂を踏む音だけが響く。



「君は楔を知っているな」



質問ではない。確認だ。



「知ってる」



短く答える。



「……地球でも起きた」



その言葉に、グレインの目がわずかに細くなる。

興味を持った顔だ。



「詳しく聞こう」


「断る」



即答した。

グレインは小さく息を吐いた。



「合理的な判断とは言えないな」


「教師としては正しい」


「そうか」



それ以上追及してこない。

この男は、押すべき場所と引くべき場所を分かっている。


少し厄介なタイプだ。

グレインは凪が立っていた場所を見下ろす。



「楔は現象だ」



唐突に言った。



「人間の能力ではない」



俺は黙って聞く。



「世界の均衡が崩れたとき、空間は亀裂を作る」



グレインは足元の砂を軽く蹴る。



「それを固定するために、世界は“重り”を必要とする」


「……楔か」


「そうだ」



静かに頷く。



「人間はただの媒体だ」



夜風が吹いた。

結界柱の光が揺れる。



「世界は自分で裂け目を閉じられない。だから誰かを楔にする」



グレインの声は冷静だった。

まるで天気の話をしているみたいに。



「……随分と都合のいい理屈だ」



俺が言うと、グレインはわずかに首を傾けた。



「事実だ」


「事実でも、納得できるとは限らない」


「納得は必要ない」



即答だった。



「世界は感情で動かない」



沈黙が落ちる。

遠くで、夜警の結界が一度だけ低く鳴った。


グレインは続ける。



「凪の共鳴値は高い」


「知ってる」


「軍は回収を望んでいる」


「だろうな」


「だが」



グレインはそこで言葉を切った。



ほんの一瞬、視線が揺れる。



「私は、兵器として扱うつもりはない」



その言葉に、思わず目を細めた。



「……珍しい軍人だな」


「現実主義なだけだ」



グレインは空を見上げた。

夜空は静かで、星が少しだけ見える。



「楔は世界の問題だ」


「軍の問題ではない」


「だから?」


「管理する」



あまりにも淡々と言う。



「制御し、封じ、必要なら固定する」



その言葉に、胸の奥が微かに軋んだ。



「固定?」



グレインは俺を見る。



「楔は消えない」



その目は、驚くほど冷静だった。



「封印はできる」


「だが」


「完全には消えない」



一瞬、脳裏に夜がよぎる。


結界。

黒い紋様。

あの言葉。

――正しい選択だ。


俺は無意識に拳を握っていた。

グレインはそれに気づいたが、何も言わない。


代わりに、静かに言った。



「君は知っているはずだ」


「楔を消す方法は、一つしかない」



夜風が強くなり結界の光が揺れる。

俺は答えない。

答えなくても、分かっている。


楔を消す方法。

それは――

誰かを、楔にすることだ。


グレインはそれ以上何も言わず、踵を返した。

軍服の背中が夜の中に消えていく。


訓練場には俺一人が残った。

地面の焦げ跡を見下ろしながら、俺は小さく息を吐く。


世界は変わらない。

理屈も、法則も、あの夜と同じだ。


それでも。



「……二度目はない」



誰に言うでもなく呟いた。

夜の空気は静かだった。


だが、どこかで確実に、何かが動き始めている。

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