15話 緊急封鎖
凪を寮へ運び終えた頃には、空は夕方の色になっていた。
西の空が赤く染まり、学園の塔の影が長く伸びている。
第零組の部屋。
凪はベッドに横になっていた。
胸の紋様は消えていない。
黒い線が、ゆっくりと脈打っている。
悠真が回復術を続けているが、変化はない。
「生命反応は安定しています」
悠真が言う。
「でも、この紋様は……」
言葉を濁す。
透が窓の外を見る。
「魔力の流れが変です」
「学園全体がざわついてる」
その時だった。
ゴォン――
低い振動音が響く。
学園全体に広がるような重い音。
陽菜が顔を上げる。
「なに今の」
透が窓の外を指す。
「……結界塔」
俺も窓を見る。
学園中央の白い塔。
そこから、青い光が広がっていた。
防御結界。
だが、いつもの結界とは違う。
外を守る形じゃない。
内側を閉じる形。
迅が眉をひそめる。
「……閉じ込めてる?」
その時、廊下を走る足音が聞こえた。
ドアが開き、怜奈と乃愛が入ってきた。
息を切らしている。
「先生!」
「門閉まってる!」
迅が振り向く。
「は?」
怜奈は続ける。
「軍が正門と裏門、全部封鎖してる!」
透が小さく言う。
「……封鎖」
悠真が顔を青くする。
「まさか」
その時だった。
校内放送が入る。
雑音。
そして低い男の声。
聞き覚えがある。
グレインだ。
「王国軍より通達」
静かな声。
だが内容は重い。
「本日発生した緊急共鳴事案を受け、王立魔術学園を臨時管理下に置く」
迅が机を叩いた。
「ふざけんな」
放送は続く。
「結界封鎖を実施。
生徒の安全確保のため校外への移動を禁止する。
また一部対象者を軍施設へ移送する」
沈黙。
放送が切れる。
だがおかしい。
先ほど凪は学園に任せるといったはずだ。
……上からの圧か?
部屋の空気が重い。
陽菜が呟く。
「対象者って」
迅が吐き捨てる。
「決まってんだろ」
視線がベッドに向く。
凪。
胸の紋様が静かに脈打っている。
透が言う。
「共鳴者だから」
黒斗が壁にもたれて言う。
「危険物扱い」
悠真が小さく言う。
「でもまだ起きません」
梓は窓の外を見ていた。
兵士が校庭を歩いているのが見える。
完全な軍配置だ。
梓が言う。
「……やっぱり」
振り向く。
目は冷たい。
「軍は最初からこれが目的だった」
迅が拳を握る。
「黙って連れてかせって?」
陽菜が笑う。
だが目は笑っていない。
「それは無理」
透が静かに言う。
「第零組だから」
悠真も頷く。
黒斗が短く言う。
「潜入可能」
乃愛は首を傾げる。
「ちょっと楽しそう」
全員の視線が、俺に向く。
俺は窓の外を見る。
兵士。
結界。
封鎖された学園。
……面倒だ。
だが、状況ははっきりしている。
軍は凪を回収する。
そして、この学園はもう自由じゃない。
俺は言う。
「まず凪を守る」
迅が頷く。
「それで?」
俺はゆっくり言う。
「その後」
少し間を置く。
「この封鎖を壊す」
数秒の沈黙。
そして迅が笑った。
「やっと先生らしい」
陽菜が肩をすくめる。
「それ聞きたかった」
透が小さく頷く。
「戦闘準備」
梓だけが、静かに俺を見ていた。
「……先生」
「なんだ」
梓は真っ直ぐ言う。
「今度は」
ほんの少しだけ声が柔らぐ。
「一人でやらないでください」
俺は答えない。
だが視線は逸らさなかった。
窓の外。
兵士が配置につく。
王立魔術学園。
この場所は今、完全に封鎖された。
そして俺は思う。
――やっぱり面倒だ。
ただ教師をしていたかっただけなのに。




