表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強陰陽師教師、問題児だらけの転移者クラスを任される ~王立魔術学園第零組~  作者: ささかま
楔共鳴編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/36

1話 楔の夜

――楔の夜


夜の空気が、裂けかけていた。


街外れの廃ビル屋上。

展開された結界の中心に、一人の青年がいた。


世界を壊す現象――

『楔共鳴』。


その中心に、一人の青年が立っている。


音はない。

だが空間の奥で、何かが軋む振動だけが伝わってくる。


街外れの廃ビル屋上。

展開された結界の中心に、一人の青年が立っている。


黒髪の青年。

リクルートスーツ姿の大学生だ。

呼吸は荒い。

それでも、その目はまだ澄んでいた。


胸元に浮かぶ黒い紋様。

幾何学的な線が絡み合い、光でも闇でもない色で脈打っている。


俺は結界の外で、符を握っていた。

高校生の手には重すぎる術式だ。



「こりゃ内定辞退するしかねぇな」



青年が笑う。

俺――九条朔夜は符を握りしめた。



「ふざけな――!」


「本気だ」


「……まだ、間に合う」



思わず口に出る。

青年は小さく笑った。



「何がだ」


「封印以外の方法を探す。時間を稼げば――」


「もう共鳴が始まってる」



青年は自分の胸に触れる。

紋様が波打つ。



「見えるだろ」



見えている。

空間の端がわずかに歪み、夜空に細い亀裂が走っている。

これは暴走じゃない。


世界が――引いている。

拒絶している。

俺は歯を食いしばる。



「……俺が止める」


「違う」



即答だった。



「お前が止めるんじゃない。俺が選ぶ」



青年が一歩踏み出す。

結界が震える。



「楔になれば、固定できるんだろ」


「人格が削れます!」


「全部じゃない」


「保証なんてないですっ!」



青年は肩をすくめた。



「保証なんて最初からない」



沈黙。

夜風が吹く。

紋様がさらに広がる。



「梓を頼む」



その名前が出た瞬間、結界の外で息を呑む音がした。


いる。

見ている。


分かっている。

それでも、俺は振り返れない。

青年は続ける。



「泣かせるなよ」


「……無理です」


「だろうな」



青年は小さく笑った。



「でも、お前なら立たせられる」



胸の奥が軋む。


俺はまだ高校生だ。

こんな選択を背負えるほど、大人じゃない。



「俺でいい」


「よくない」



即座に言い返す。



「よくないに決まってます」



青年の目が細くなる。



「じゃあ、代わりはいるのか」



言葉が詰まる。

いない。

共鳴値がここまで達しているのは、彼だけだ。


世界は待たない。

亀裂が広がる。

結界が悲鳴を上げる。


青年が俺を見る。

真っ直ぐに。



「術、組め」



拒みたい。

符を握る手が震える。

俺がやらなければ、裂ける。


やれば――彼は戻らない。



「……俺は」



声が掠れる。

青年が、最後に言った。



「正しい選択だ」



その言葉が、刃のように胸に刺さる。


俺は陣を展開した。

陰と陽を重ねる。

結界を反転させる。


青年の胸元の紋様が、強く発光する。



「梓を、頼む」



最後の願いだった。

術式が完成する。

紋様が固定された。

空間の歪みが収束する。


夜が、静かに戻った。

青年は膝をつき、そのまま動かなくなる。


死んではいない。

だが、もう元の彼ではない。


結界の外。

小さな影が震えている。


分かっている。

それでも、俺は振り返れない。

振り返れば、選択が崩れる気がした。


ただ、呟く。



「……これで、守れた」



本当に守れたのかは分からない。


冷たい夜風が吹く。

固定された紋様が、微かに脈打っていた。



私は、全部見ていた。


兄が笑ったことも。

あの人が迷っていたことも。

それでも術を完成させたことも。


正しかったのだと思う。


でも――


それでも、私は。

絶対に許さない。

あの人が、兄を楔にしたことを。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ