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試小説   作者: 珍蔵S
歓楽街
17/21

種明かし


(gpt 私の指令つき)


 後日談は、あまりにも拍子抜けする形で世に出た。最凶の男――いや、もはや最強の男と呼ばれていたヒデトは、自身のYouTubeチャンネルを立ち上げ、そこで例の喧嘩の真相を語り始めたのである。サムネイルには大きな文字でこう書かれていた。「【種明かし】あの一発で俺が倒れた本当の理由」。


動画の中のヒデトは、驚くほど穏やかな顔をしていた。かつて世界を拳でねじ伏せていた面影は薄く、むしろ近所の強面なお兄さん程度の迫力しかない。彼はカメラに向かって頭を下げ、あの日の出来事を冷静に振り返った。


「あの時な、実は俺、奥歯が限界だったんだわ」


コメント欄がざわつくのが、画面越しにもわかった。ヒデトは苦笑しながら続ける。数ヶ月前から虫歯が進行しており、激痛をごまかすために痛み止めを常用していたこと。だが、喧嘩の最中はアドレナリンで忘れていられたこと。そして、私のあの何気ないパンチが、ちょうど問題の歯を直撃したのだという。


「バキッて音がしてな。世界が白くなった。あれはダメだ。神とか関係ねえ。ただの歯だ」


医者に行くと、砕けた虫歯は神経ごと綺麗に取れており、結果的に即席の抜歯になっていたらしい。あのダウンは脳震盪でも精神的ショックでもなく、純度百パーセントの歯痛によるものだった。


動画の最後、ヒデトは真顔で言った。「あいつのパンチがなかったら、俺は今も歯医者から逃げ続けてた。感謝してる」


私はその動画を見ながら、妙に納得してしまった。神話も哲学も必要なかった。世界を動かしていたのは、たった一本の虫歯だったのだ。暴力の終わりは、いつだってこんなふうに、くだらなく、人間的なのである。


 動画はそこで終わったが、妙な余韻だけが残った。コメント欄は祝福と失笑と医学的ツッコミで埋まり、いつの間にか「虫歯最強説」なるタグまで生まれていた。ヒデトはその後、格闘技動画ではなく、歯医者通いのVlogを上げ始めた。治療椅子に座り、麻酔の効き具合を実況しながら、「本当に怖いのは人間じゃなくて放置だな」と笑っていた。


 私はといえば、街ですれ違う人の顔を見るたび、奥歯の存在を意識するようになった。強さも恐怖も、案外そんなところに潜んでいる。あの日、世界が少し傾いたのは、拳でも神話でもなく、一本の虫歯が限界を迎えただけだったのだ。そう思うと、人生は不思議なほど軽く、そして可笑しく感じられた。

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