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【超短編小説】勇気ひとつを

掲載日:2025/12/22

 街は遠ざかり、冷たい風が獣のようにぶつかる。

「親父、いま何キロ?」

 イカロスはヘッドセットのマイクに向かって叫んだが、聴こえてくるのは石つぶての様なノイズばかりだった。

 腕も千切れよと振り回し続けた筋肉は疲労のピークに達して発熱している。


 恐らくは大会新記録だ、間違いない。だが……

「GPSが無いと俺は空も飛べないのかよ」

 イカロスは自分を煽った。

 自分がいまどこをどう飛んでいるのか、客観的な情報がひとつも無いと挫けそうだ。

「だけど勇気だけは超一流ってところを見せてやるぜ」

 親父のダイダロスはそれを蛮勇だとか無謀さだと罵ったが、吐いた唾を飲むなと啖呵を切ったのだ。


 イカロスは絶叫した。

「オラァ!!太陽の黒点が見えたぜ!!プロミネンスもだ!!」

 もう半分くらいの体力を使っている。

 とても往路を飛び続けられる気がしない。

 だがいいだろう。

「俺の人生は晴れ時々大荒れ、なんぼのもんじゃい」



 ざまぁみろ、ミノスの奴め!

 なにが第一回ギリシア鳥人間コンテストだ。こっちは鳥人間やぞ、阿呆め。

 勇気一つでどこまでも飛ぶっちゅーねん。

 宇宙の端にタッチして帰ってきたるわ。ド阿呆。いまに見てろ。吠え面かくなよ。


 長距離飛行に備えて食った大量の朝メシはOLの三日分くらいあり、飛びながら催してきたイカロスはそのままブツを落とした。

「ガハハ!これがツールドソレイユのやり方じゃい!ワシが世界の平和そのものやっちゅーねん!」

 鳩は平和の使者。

 鳩は飛びながら糞ができる。

 そして俺は飛びながら糞をした。つまり俺は平和の使者。

 これにて証明終わり!

 なんぼのもんじゃい!



 余談だが、宇宙空間を真っ直ぐ伸びて冷え固まったイカロスの糞はその後、軌道エレベーターの基礎となり、今でも内部に保存がしてある。

「そうあるべきだ」

 イカロスは言った。

「少なくともおれはそうなって欲しい」

 そう、全てはイカロスの願望と妄想だ。


 それを聞いたダイダロスは

「だからお前は高く飛ぶべきではない」

 と言った。

 真顔だった。笑いもしなければ怒りもしない、全くの無感情。虚無であった。

 イカロスは自分が滑った事を悟り、ツッコミも広げも泳がせもしなかったダイダロスに怒りをぶつけた。



「待たんかい!いまのどこに飛んだらあかん要素があんねんアホ抜かすなやボケカスタコ茄子コラァー!」

 俺に飛ばせんかい!

 イカロスは鋏で前髪をちょきちょきと切り始めた。

 ダイダロスは待て待て待てと嗜めたが、やはり怒りを我慢しきれなかった。

「誰に向かってモノ言うとんねんダボカス阿呆茄子タコオラァ!親に向かってその口のきき方あるかドアホウ!」


 親と言う立場を出されたらこちらだって考えがある、とばかりにイカロスは怒鳴った。

「何が親じゃミノスに捕まりよってからに!」

 痛いところを突かれたダイダロスはまた真顔に戻って腕組みをした。

「まぁ当家で一番弱い奴が行きましたからね」

「強がんなや」

 家長が最弱て、んなアホなことあるかい。おとん、まだやれるやろ。

 


 しかしダイダロスは真っ直ぐにイカロスを見つめて尋ねた。

「お前は何を怒ってるんだ?」

 イカロスはすこし考えてから答えた。

「明るい未来が見えへんねん」

「うん、イカロスお前はそれでいいや」


 それを聞いたイカロスは、きっと親父の骨と皮で作り、血と脂で固めた翼で飛ぼうと決めた。

 勇気ひとつで何とかなるさ。

 君たちはどう生きる?俺は好きにする。君も好きにしろ。

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