6話 再会
翌日―
「はぁ…起きても、何ひとつ状況は変わらないなぁ。」
窓から差し込む朝日で目を覚ました私は、目に映る屋敷の部屋を見て肩を落とした。
夢じゃなかったんだ。そう思った瞬間、ため息がこぼれた。
「そういえば、突然こんなことになったから着替えも何もないじゃん…。
しかもお金もないし…どうすんのよ…。でも、お風呂入りたい…」
昨日はふて寝のような形になってしまい、結局お風呂にも入れなかった。
そのときになって、着替えも持っていないことに気づき、愕然とする。
どうしよう。私、このままなの?
そんな不安が押し寄せてきたとき、どこからかふわりと良い香りが漂ってきた。
味噌汁の香り…それに、焼き魚の匂いもする。
まるで母親が朝食を作っているような、そんな懐かしい香り。
私は慌てて二階から降りてキッチンを探し、ドアを開ける。
そこには、朝食の支度をするおばあさんの姿があった。
「おばあさん!?どこ行ってたの!?何が起きてるの!?
私、どうなってるの!?ここ、どこなの!?」
おばあさんを見つけた瞬間、感情が爆発して、私は一気に質問をぶつけた。
けれど、おばあさんは何も言わず、ただ黙々と朝食の準備を続けていた。
「まぁまぁ、ご飯を食べてからゆっくり話そうね。
さ、持って行ってくれるかい?」
「ええっ…?まぁ、分かった…」
私の質問には何ひとつ答えず、料理を手渡すおばあさん。
テーブルに運びながら、疑問ばかりが募っていく。
それでも、その朝食は、驚くほど優しい味がして、思わず目の前が潤んだ。
こんな状況なのに、どうしてこんなにも美味しいんだろう。
そう思いながら、私はおばあさんの手料理を噛みしめていた。
「ねぇ、おばあさん。どういうことか説明してよ。
昨日は本当に混乱して大変だったんだから。屋敷を出たら“東京”って書いてあるし、
コンビニでお札出したら“偽札”って言われるし。おばあさんはいなくなっちゃうし。
本当に不安だったんだから!」
「突然のことで混乱するのは当然だよねぇ。
詳しいことは言わないけれど、この屋敷はね、
人生の分岐点に来ている人、大きな迷いや悩みを抱えていて、
この屋敷に来なければ解決できない子たちが、ここにやってくるんだよ。」
「え?どういうこと?私だけじゃないの?ここに来たの。」
「そうだねぇ。過去にも何人も来ていたよ。
そこで“進む道”を決めて先へ進む人もいれば、
“変わらない道”を選んで戻っていく人もいる。」
「戻るって…すぐには戻れないの?
私、別に困ってないし、悩んでもない!
それに、両親だって友達だって心配するし…」
「戻るときは、この屋敷が決めてくれるよ。
それにね、“何もない子”には、この屋敷の扉は開けられないんだよ。」
「そんな・・・」
朝食を食べ終えたあと、私は改めておばあさんに問いかけた。
すると、私以外にもこの屋敷に来た人がいると教えられた。
そして、ここに来た人たちは自分の進むべき道を決めて、元の場所へ戻っていくって言われた。
でも、何を言われても、私はまったく理解できなかった。
自分が何に悩んでいて、どんな道を進むべきかなんて、考えたこともなかったから。
だけど、何もない人は、この屋敷には入れないなんて言われると考えてしまう。
知らない間に、私はこの屋敷に“呼ばれていた”ということ?
確かに昨日、“呼ばれた気がした”って一瞬思ったけど…。
でも、急にこんな訳の分からない状況に放り込まなくてもいいじゃない。
そう思いながら、私はただ大きなため息を吐き出した。