4話 瞳を閉じて開けた時、何かが変わった
「お嬢さん。ずっと胸に引っかかっていることがあるだろう?」
「え?引っかかってること…?特には……ないと思います。」
「そうかい?でも、お嬢さんがこの扉を開けられた理由は、そこにあるんだけどねぇ。」
「え…?でも私は、何も……」
何か引っかかることがあるのかと考えた。
ないと思っていたけれど…
でも、何もないなら、あの扉は開かなかったと、おばあさんは言った。
その時、心の奥に、ひとつだけ浮かんだ感情があった。
困っているわけではない。けれど、引っかかっていた。
それをどう伝えようか迷っていた私に、彼女は優しく言った。
「お嬢さんの人生で、とても大切なことだよ。これからの未来にね。
だから…行っておいで。ちゃんと答えを見つけておいで。」
「え…未来って……?おばあさん、それ!何してるんですか!?」
「私は、いつでもお嬢さんの味方だよ。」
「まぶしっ!!ちょっと…!」
人生で大切なことだから。
そう言い切ったおばあさんは、
大時計の振り子の扉を開け、そっと振り子に触れた。
次の瞬間-
目を開けていられないほどの光が私を包みこみ、
私は思わずギュッと目を閉じた。
一体、何が起こったの?
わからないまま、ただその光が収まるのを、私はひたすら待ち続けた。
*******
あれから、どれくらい目をつむっていただろうか。
目の奥に感じていた光が消えた気がして、私はそっと目を開けた。
すると、さっきまで一緒にいたはずのおばあさんの姿が、どこにも見当たらなかった。
「えっ……え?どういうこと!? おばあさん!! どこですか!」
思い切り声を張り上げてみたけれど、返事はない。
誰もいない。まるで、初めからそこには誰もいなかったみたいに。
もしかして、本当に“幽霊屋敷”だったの……?
背筋を冷たいものが這う。
恐怖が、急に体の隅々まで押し寄せてくる。
そして、ふいに腕時計を見た瞬間、私は言葉を失った。
「……二時間!? え?二時間も経ってる?! 私、さっき来たばかりだよね?
もしかして、この時計壊れたの!? この間買ったばかりなのに!」
嘘みたいだった。
念のため、広間にある振り子時計を確認してみる。けれど、同じ時間。
おかしい。感覚と現実が噛み合っていない。
時計が壊れているのか、私の時間の感覚がおかしくなったのか…。
答えの出ない不安を胸に、私はひとまず屋敷を出ようと入口の扉へ向かった。
そっと扉を開けると、その先に広がる光景に、思わず言葉を失う。
「…どこ?」
そこにあるのは、いつもなら見えるはずの近所の公園ではなかった。
代わりに、目に飛び込んできたのは見たことのない街並み。
どこを見ても、知らない家ばかり。知らない空。知らない風景。
夢……?
そう思い、頬をつねってみる。
痛い…
これは、現実?
どうして? どうして突然こんなことに……?
頭が混乱する中、私は目の前に続いている小道を、少しだけ歩き始めた。