3話 人が住んでいたんですか?
「二階って、結構部屋数あるんだ…って、勝手に開けちゃダメだよね。」
二階に上がったところで、ハッとして、ドアノブにかけた手を止めた。
冷静に考えれば、他人の家に入るだけでも十分マズい。
なのに勝手に部屋の扉まで開けようとしたら、もっとマズい。
そう気づいた私は、そっと階段を降りて、時計のある広間へと戻った。
それにしても、やっぱり広い。まだ気になる部屋もあるけれど、勝手に行くのはダメだよね…。
屋敷を出ようと、時計に背を向けたその時-
カタンッ
「…え?」
広間の右手奥にある通路から、何かの物音が聞こえた。私は思わず立ち止まった。
気のせい…?でも、確かに聞こえたような…?
恐る恐る近づくと、細い廊下の向こうに、ひとつの部屋があることに気づいた。
どうしよう…怖い。でも、気になる。
しばらく迷った末、私は意を決して廊下を進み、震える手でゆっくりとそのドアを開けた。
「……えっ?!お、おばあさん?え、生きてるよね?!?」
「おやまあ…。珍しいね。ここに人が来るなんて。お嬢さん、道に迷ったのかい?」
「しゃ、喋った!?えっ、あの!!勝手に入ってすみません!
何か…呼ばれた気がして…って、何言ってるんだろ私…。すみません!すぐ出ます!」
揺れる椅子に座っていたおばあさんの姿を見つけた私は、思わず声を上げてしまった。
すると、そのおばあさんが、ゆっくり目を開けてこちらを見たのだから…さらに驚いてしまった。
これは完全に不法侵入だ。そう思った私は慌てて部屋を出ようとした。
だけど、私の背中におばあさんの声が届いた。
「ちょいとお待ち。お嬢さんは、この屋敷に呼ばれて来たんだね。
それじゃ、一緒に広間へ行こうか。」
「え…?あ、はい…」
叱られると思って覚悟していた私は、意外な言葉に戸惑いながらも、
そっとおばあさんの後ろをついて広間へ戻った。
何をするんだろう…?そんな疑問が浮かんでいる中、
おばあさんは、あの大きな時計の前で静かに足を止めた。
「私はね、この屋敷で迷える人々を導くためにいるんじゃよ。」
「迷える人を…導く?あ、もしかして…占い師とかですか?」
「ふふっ。そうだねぇ。
占い師というよりは、未来への道しるべのような存在かもしれないねぇ。」
「道しるべ…ですか。私、迷ってますか?」
時計の前で、おばあさんは規則正しく音を立てる振り子を見上げながら話した。
私はよく分からないまま「占い師ですよね?」と聞いたけど、
おばあさんは小さく首を横に振り、「道しるべ」と呟いた。
その言葉の意味がうまく理解できずに黙っていると、おばあさんはもう一度口を開いた。