0話 今日も私は励まされています
近所にある不思議な洋風の館。
小さなころからずっとそこにあるのに、一度も入ったことがなかった。
誰がいつから住んでいるのかも知らない。
それなのに、いつの頃からか近所の子供たちは“幽霊屋敷”と呼ぶようになっていた。
特に気にしたことはなかったけれど――
あの日、確かに誰かに呼ばれた気がしたんだ―・・・
20××年-
「いってきます」
今日も元気に、玄関を出る前に挨拶をして扉を閉める。
一人暮らしが長い私は、いつもそうしていた。
その理由は、自分でもよく分からない。ただ、言いたくなる。それだけだった。
私の名前は――星川沙音。
ごくごく普通の会社に勤める事務員。
多忙な仕事に追われる毎日でも、私は今の自分に不満はなかった。
大切な家族がいる。信頼できる友達もいる。
そして、大好きな音楽が、いつも傍にある。
平凡かもしれない。だけど、それが幸せ。そう、感じていた。
そんな私が愛してやまない音楽
それは「Astyr」というバンドだった。
5人編成の彼らは、今や日本を代表するロックバンドに成長を遂げている。
誰もが一度は口ずさんだことのある曲が数多くあり、年齢を重ねるごとに、さらに深みのある音を奏でていた。
そんな彼らに魅了される人は当然多い。
年を重ねることで新たな魅力に気づく人もいれば、昔の曲に心打たれて好きになる若者もいる。
幅広い世代にファンを抱える彼らは、私の地元出身だった。
それが、私にとっての誇り。
そんな素敵なアーティストと同じ場所で生きていることが、私の幸せだった。
――今日も私は、彼らの音楽に癒され、励まされている。