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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十二巡 哀れ
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第六十四話 羽生 引っ掻く霊

 小島を所有しているある方から、そこにある別荘に霊がいるようなのでなんとかしてくれと依頼がありました。

 そこは、普段は住み込みの使用人七人が住んでいるだけの島です。

 依頼人は父親から遺産相続でその島を手に入れただけで、その由来などは何も知らないと言っていました。

 島の別荘、まあ、お屋敷ですね。先代が入手した三階建ての洋館で、昭和初期に建てられた建物でした。

 屋敷も広いし、小島とはいえ敷地も広い。使用人七人では維持管理がせいぜいで、主が仕事関係者や友人知人家族なんかを伴って来たりすると対応しきれなくなってしまうので、その時には人を雇うのだそうです。短期のアルバイト。リゾートバイト感覚で結構応募者数はあるそうですけど、雇う端から皆、幽霊が出て怖いと、そう言って やめていってしまうんだそうです。もはや近くの大きな島からは誰も来てくれず、都心からバイトが来る。しかも、毎回新人。

 使用人の方々は辞めていく人々の訴えを信じていなかったようですね。ですので主にも、幽霊が出るらしいということは伝えていなかったのです。

 それが、本島から食料品を納入に来た業者さんが霊の被害にあい、とうとう本島でも大きな噂になってしまって、ついにご主人へ報告せざるをえなくなった。そうして、私のところに依頼が来たのです。

 なんでも業者さんの船が壊れて、小島の船も点検でその日はなく、やむなく泊まってもらったところ、彼は翌日庭に転落しているのを発見されたのだそうです。貸した浴衣はぼろぼろで、全身は引っ掻かれたり噛まれたりの傷だらけ。おまけに、落ちた際に骨折までして動けなくなっていたのです。

 彼は、女の霊に襲われたと訴えて、本島に戻ってからもそう説明していたのだそうです。

 その話を聞いたうえで小島のお屋敷に行ってみたのですけど、まあ、それはそれは大勢の若い女性の霊が、もう、本当に大勢。

 十四、五歳の女の子から、二十代半ばくらいまでの女性たち。彼女たちは、 屋敷に集う者たちのよこしまな思いに未来を奪われた、犠牲者たちでした。

 少女たちは、屋敷の使用人として連れてこられていました。完全に騙されて、けれど、気づいた時には逃げ場のない離島。

 怪しげな会合に集った者たちから、逃れる術はなかったのです。

 幾人かは、彼らに気に入られて島を出ていったようです。けれど、ほとんどの少女たちは、島で短い一生を終えたのです。

 ある者は殺され、ある者は満足な治療も受けられず病に倒れ、またある者は自ら命を断って。

 そんな少女たちの霊が、屋敷をさまよっていました。

 暗い記憶にさいなまれ苦しみながら、幸せな過去をなつかしみ家族の元に帰る日を夢見ながら。

彼女たちは、雇われて来た男性のことは恨みで襲い、女性のことは逃がすために追い立てていたのです。

 男性に対する恨みは深くて、特に三体の霊が狂暴化していました。他の霊は、雇われてきた女性を脅かすことはあっても、おおむねさまよっているだけの無害な霊でした。何十年も苦しみ続けているだけの、霊でした。

 ただ、お手伝いさんとして働きに来ただけの女性たちが、騙され、心身ともに傷つけられ、死んでからも苦しみ続け、成仏することさえかなわない。彼女たちは何も悪いことはしていない。なのに、人生を謳歌することなく騙されて生き地獄へと落ち、死してまでも何十年も苦しみ続けたのです。安らぐことなく消えなくてはならないような、なんの罪を彼女たちが犯したというのでしょうね。

 私は、彼女たちの存在を伝えて、きちんと供養するようにと依頼主の方にお話ししました。

 そんな、むごい仕打ちを人に与えるような所業がまかりとおった時代があったのです。世界中にそんな歴史があるのです。今も続いているところもあるでしょう。人知れずこの国でも、まだあるのかもしれません。

 哀しみ死んでいく犠牲者が、霊として残るような人が一人でも減る世の中になって欲しいと、切に願います。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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