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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十一巡 人ではないもの
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第六十話 羽生 犬

 子供のころの話です。

 わが家には、母が動物の毛のアレルギーをもっているので、ペットはいません。

 私は犬や猫は好きですが、自宅で飼っていないし、ふれあい動物コーナーなどにも近づかせてもらえなかったので、動物のさわり方がよくわかりません。ですので、見る専ですね。

 近所の公園は広くて、犬の散歩ができるので、母とは行けませんでした。

 霊能者として仕事を始める前は、まだ近所の子と公園で遊ぶことがありました。

 その公園で遊んでいると、いろいろな犬が通ります。仲良くなった飼い主さんもいました。さわらせてもらっている子もいましたが、私は毛がついてはいけないのでさわれませんでした。

 その公園への行き帰りで会う、おじいさんがいました。

 おじいさんは三匹の犬を連れていました。すべて同じ犬種です。多分、柴犬だったと思います。

 そのおじいさんは、公園には来ません。見かける時間も決まっていません。私の地域では小学生は通りかかりの人みんなに挨拶をするのが当たり前でしたので、私もおじいさんに行き会うと「こんにちは」とあいさつしていました。

 けれど、おじいさんはあいさつを返してくれません。おじいさんは誰とも話をしないのです。犬たちは、私を見つつ、おじいさんについて行きます。おじいさんは、いつもゆっくりと歩いていました。

 そんなある日、いつものように犬を連れて散歩するおじいさんを見かけました。

 けれど、いつもと何かが違う。

 良く見たら、犬が二匹しかいないのです。

 私は、こんにちは、と言ったあと、今日は一匹いないね、と言いました。

 おじいさんは、黙って通り過ぎて行ってしまいました。

 二匹の犬は、私を時々振り返りながら、おじいさんについて行きました。

 数日後、またおじいさんに行き会いました。今度は三匹つれています。前回は犬の具合が悪かったのかな、と思いました。

 その後も、犬は二匹だったり三匹だったりしました。

 あるとき、気づきました。三匹のときは、そのうちの一匹に手綱がついていないのです。

 公園で、おじいさんと同じような犬を連れている人に、おじいさんの話をしてみました。

 同じ犬種だと飼い主同士の仲がいいことがあるんですよね。

 その人は、おじいさんのことを知っていました。

 その人は、おじいさんの犬は一匹死んでしまったのだと教えてくれました。

 次にあった時、おじいさんはまた三匹連れていました。

 私は、こんにちは、と言ったあと、三匹目の犬をさして訊きました。その子には、綱をつけてあげないの? と。

 おじいさんは、初めて足を止めて、私を見ます。

 そうして、自分の犬たちを見ます。三匹は、同じようにおじいさんを見て尻尾を振っていました。

 おじいさんは、首輪は一緒に埋めたんだ、と言いました。犬はみんな、お揃いの首輪をしています。

 綱は、埋めなかった。つけてあげたくても、つけられないんだ、と、おじいさんは言います。

 綱がついていない犬は、首をかしげておじいさんを見ていました。

「本当はつけないといけないんだけど、つけられないからね。噛んだりしないから、みのがしておくれ」

 そう言って、おじいさんは行ってしまいました。

 その後も、おじいさんの犬は二匹だったり三匹だったりしました。

 犬が減ってから一年もしないうちに、私は一人で出かけることがなくなってしまったので後のことはわかりません。

 二、三年たったころに車で移動中に見かけたときは、おじいさんは一匹だけを連れて、ゆっくりと歩いていました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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