第五十八話 森山 卒業
父に聞いた話です。
よく覚えてないけど、卒業シーズンだったと思うんですよね、話、聞いたのは。卒業っぽい歌が流れてる歌番組観てた時に話し始めたんですよ。なんでか酔っぱらってたなあ。私はまだ小学校の三年生だったかな。小四で父が亡くなったからね。
父が中学を卒業する時の話だって言ってたと思うんだけど、とても仲のいいクラスで、担任の先生もいい先生で、て。ああ、思い出した。同窓会に行って来たって話だったんだ。
祖父と話してたんだ、みんな来たかーとかって。その流れで話を聞いたんだった。
なんでも、卒業を目前にしてクラスメイトの一人が事故で亡くなったって話で。もう高校受験も終わってて、その子とは同じ高校に行くはずだったって言ってたな。
卒業式当日、もう、皆の机はカラになっているのに、彼女の机だけ荷物が残っていたんだって。
先生が、卒業証書と一緒に届けに行くと言っていたので、皆で朝の内に彼女あてのメッセージを色紙に書き込んで机に入れておいたそうです。
朝、先生がその子の遺影を自宅から借りてきて。
彼女は、遺影で卒業式に参加したんだそうです。
卒業式では、卒業証書授与の時、生徒全員の名前が呼ばれて、生徒は返事をしてその場に立つ。そして、 最後に代表だけ受け取りに行く形だったんだそうです。もちろん、彼女もちゃんと呼ばれて。
けど、彼女の名前を呼ばれた時だけ、誰も席から立たず、声も聞こえなくて。そんな沈黙の時間に、泣き出す子がたくさんいたそうです。
式が終わって教室に戻ると、ほとんどの子が泣いてる感じだったって言ってました。俺もさすがに泣いたって、父も言ってました。
先生が来て、卒業おめでとう、とか話し出して。けど、一緒に過ごしてきた全員で卒業を迎えられなくて残念だったって。またそれで、皆で泣いちゃって。
落ち着いてから、全員に、卒業証書を渡してくれたんだそうです。
一人ずつ、名前を呼びながら。一人ずつ前に出て。卒業証書と筒をもらって。皆で拍手して。
亡くなってしまった生徒の名前が呼ばれた時、返事をして席を立ったのは、本人だったそうです。
席と席の間の狭い空間を歩いて。先生から証書を手渡してもらって。
実体よりちょっと薄らいで見えるその姿を、驚きながらも皆で見守って。
拍手の中、席に戻るため振り返った彼女は、泣きそうな顔で、笑ってみせたと、父は言っていました。
彼女は席に戻ると、皆と同じように証書と筒を机の上に置いて。次の生徒が呼ばれて証書を受け取ると、拍手をして。
最後に、先生が、皆で卒業できたな、て言って。
最後の、解散の起立・礼をして、彼女の方を見たら、彼女はいなくなっていたそうです。
証書と筒と、皆で書いた、机の中に入れておいたはずの色紙が、机の上に残されていたそうです。
父にとって、とても大切な思い出だったみたいです。
父が泣いてるのを見たのはあの時が最初で最後だったなあ。全員ってのが本当にいいんだぞっとか言っちゃってね。
幽霊って、なるのも本人のためにならないし、周りにとっても迷惑だと思ってたんですけど。
彼女が現れて、クラス全員にとってとても良いことだったんだと、今は思います。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。




