表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十巡 思い出
86/143

第五十六話 羽生 閉じられた子供

本来田中の順番ですが、田中は休憩時にリタイアしました。

 小学生の時のことです。

 入学してすぐのことでした。教室で授業を受けていると、廊下を女の子が泣きながら歩いていく声が聞こえてきたのです。

 廊下側の窓は大人の腰の高さで、見ると、肩から上だけが視えました。髪が短い女の子が、腕で涙をぬぐいながら歩いていました。

 教室の先生も他の児童もまったくそれに気づいていませんでした。

私は、そのころには、自分に見えてもほかの人には視えない人がいるということを知っていました。

 その子は、もう何年も前に死んでいる子だったのです。

 教室が騒がしい時にはわからないこともありますが、その子はほぼ毎日、泣きながら廊下 を歩いていました。

もちろん、誰も気づきません。先生に何年か前に一年生か二年生で死んだ女の子がいないか尋ねてみましたけど、教えてくれるはずありませんね。

 時間も天候も関係なく、時には日に何度も、女の子は廊下を歩いていました。きょろきょろと見まわしていることもありましたし、ぐずるように泣く時、大声で泣いている時、親や先生、友達の名を泣きながら呼んでいる時もありました。

 女の子には、私達が全く見えていなかったのです。

 ある時、彼女が階段の影に座り込んでいました。膝に顔を埋めて、じっと動かずにいました。

 昇降口の傘立てにうなだれて座っているのを視たこともあります。

 髪が短くて、緑色の短いスカートをはいて、黄色地に細かいピンクの花柄のTシャツを着ていて。白い靴下に、上履きをはいて。

 そんな小さな子供が、疲れきった顔をして、いたんです。

 その小学校に通っている間、その子はずっといました。

 彼女が歩き回るのは一階だけでした。二階以上は三年生にならないと上がる機会がほとんどありませんでしたから、 そのせいなのでしょう。

 学年が上がるにつれ、私が彼女を見かけることは減りました。けれども、たまに見かける姿が、少しずつ変わっていくように思えました。

 卒業する頃には、もう、小さな子供の顔には、視えませんでした。

 声をかけてみたこともあるのですけれど、彼女に私の声は届きませんでした。

 今では、その小学校では様々な怪事が起きているそうです。それも、一階に限って。

 一晩でゲタ箱から上履きがすべて放り出されていたり、昼間に傘がたくさん広げられていたり、誰もいないのに戸が開いたり閉まったり。

 物は、こちらのものも見えるのですね。靴だけ歩いているのも見えたのかしら?

 今度、頼まれましたのでその母校であるその小学校へ行く予定ですけれど。

 恐らく、私にできることは何もないでしょう。

 あの幼い頃、まだ彼女が長い長い時間に、変質していく前であったなら。

せめて、外に連れ出してあげることが、できたかも知れません。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ