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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第九巡 ほのぼの
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第五十二話 相川 送り火

 皆さんの家では、やっていますかね。

 お盆の始まる十三日の夕方、迎え火を焚く。

 お盆が終わる十六日の夕方、送り火を焚く。

 お盆に家に里帰りしてくる、亡くなった家族を迎えるために、目印に火を焚く。すると、その火を目指して帰ってくる。これが、迎え火。

 お盆の終わりには、送り火を焚く。これは、なんなんだろうな、最初の目印と同じ場所で焚くことで、方向感覚を取り戻させるのかな。それとも、帰れって追い立てる火なのかな。多分、前者なんだろうね。

 けど、これ、焚かなかったらどうなるんでしょうね。

 私は、二年前に死にました。去年が新盆(しんぼん)ね。地域によって、初盆(はつぼん)ていうところもあるのかな。時期も七月だったり八月だったりね。我が家は、八月にやってくれました。

 去年は、しんみりしていたね。田舎じゃあ新盆ともなればお客さんが次々と現れてお焼香して行くらしいけど、うちは東京育ちで親戚づきあいもないし。職場の上司と兄妹が来たくらいだね。

 あれは、十三日だったんだろうね。なんとなく、あ、皆いるなあって。中古の一戸建てで、東京だから続き座敷なんてない、リビングにぎゅうぎゅうになって寿司食べてた。ぽつぽつと、兄妹が昔話をして、妻と娘が聞いてる。そんな感じ。

 夕方、迎え火を庭で焚いて。それでお開きだったな。

 よく考えたら、迎え火焚く前から私は家にいたね、新盆の時は。

 送り火の日までは、家でぼんやりしていたよ。いろいろ思い出したのか、妻子も静かにしてたしね。それで、十六日の送り火を焚いてもらって、庭から離れた。

 数歩歩いた感じは覚えてるな。

 今年のお盆は、迎え火の火を見たよ。

 火が見えて、くすぶったところで水をかけられた。その時には、庭にいた。

 ちょっとぼんやりしてたけど、いつの間にか家に上がり込んでいたな。

 家の様子が前と違って。

 いろいろ片付いていて、ソファも無くなっていて、私は床に座って柱に寄りかかって妻子の様子を見ていたよ。妻は食器をダンボールに詰めていて、冷蔵庫のコンセントを抜いて。ああ、引っ越しするんだな、と思った。

 駅から遠いし、まあ、バスはあったけどね。小学校と中学校は近かったけど、娘も高校生だし。妻も駅まで行って通勤していたからね。私もいなくなって、狭い家だったけど、それでも二人だけだと、広かったんだろうね。

 翌日には引っ越し屋さんが来て、駅近くのマンションに引っ越した。私は、こっそりトラックの荷台に紛れ込ませてもらったよ。特に視える人もいなかったしね。

 新しいソファセットとダイニングセットが入っていたよ。ほかの家具は持ってきた感じだね。ただ、妻の部屋が和室になったから、ベッドは捨てたみたいだったね。

 数日、引っ越し荷物を展開していたね。

 そうこうしているうちに十六日になった。

 どうやって送り火を焚くのかな、と思っていたら。

 妻は、送り火を焚かなかった。

 一応、娘が聞いていたけどね。妻は、火気厳禁だ、焚かないって。

 それから、私は、ずっと妻子のそばにいましたよ。平日の昼はでかけちゃうからね、私も出歩けたので、前いた会社に通勤してみた。そうしたら、今回のお誘いのお手紙が回ってきたんですよ。

 一応、お仏壇というか、お参りコーナーみたいなのがあってね、マンションの部屋にも。

 私の写真が置いてある。その前に、時々おやつや私が好きだったおかずがお供えされてね。

 毎朝、妻がコーヒーをお供えしてくれるんですよ。

 娘は、朝『お父さん、行ってきます』て言って出ていくんですよ。

 昨日も、今朝もね。

 でもね、なんか、明日はもうないな、て思えて。

 だから、今日は、私なりにお別れして出て来たんです。

 こういう場なせいかな。ちょっと上がれば、どこか、行くべきところに行けそうな気がするんですよね。

 お盆て、そもそも仏教なんだろうけど。神谷さんの言う、子孫の守護霊になる感じもいいね。まあ、私に何ができるんだって気もするけど。

 行ってみるよ。

 どうなるのかはわからないけど、それでいいと思うよ。

 ご一緒できて良かった。とても、いい席だったよ。ありがとう。


 語り終えると、相川は一本の蝋燭の火を消した。


 そうして、彼は席を立った。

 軽く上に浮くような様子が視えたかと思う間に、すうっと、姿が消えて行った。

 彼の席には、二本の灯ったままの蝋燭と、開封されなかったお茶のペットボトルとおやつが残された。


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