表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第九巡 ほのぼの
78/143

第五十一話 羽生 道案内

 春先に、特番でお世話になったスポンサー会社の方から、関連会社のオフィスに霊がいるようなので見て欲しいという依頼を受けました。

 そのオフィスは、駅から少し離れた場所にありました。

 ちょうど駅周辺の再開発から外れたようで、真新しいオフィスビル街から道路一本隔てた場所にある、古い灰色のビルの最上階にその会社はありました。

 階段も廊下も狭く暗く、壁にはシミとヒビが目立ち、床のタイルもはがれたり割れたりといった風で『いかにも出そうでしょう?』とその会社の方もおっしゃるような建物でしたが、通路はともかく、オフィスそのものは窓も広く南向きで陽光のよく入る明るい部屋でした。

 なのに、霊が目撃されるのはそのオフィスでもっとも日当たりの良い場所。南側の窓際だとのことです。

 その場所に立ってみますと、ちょうど真南に駅があるのがわかりました。駅前から続くT字路の突き当たりに、その建物はあったのです。

 新しいビルが、新しい街が一望できました。

 屋上に案内していただいたところ、街の区切りはより一層はっきり確認できました。

 目の前の道路が再開発の境界線のようになっていました。正確にはもう一本駅寄りの道までだったようでその間は新旧入り混じっていましたけれど、その道路から北側は古いものばかりでした。そのオフィスビルは、新しいものの中心地である駅の真正面。

 北側を見ると、数本道路を越えたところに小高い緑が見えました。話を聞くと、そこには、神社があるとのことでした。

 そのオフィスでは、霊の存在は確認できませんでした。それで、目撃証言の多い夜の十時を待つことにしました。

 霊は、窓際に立って窓の外を見ている・・・・・・。

 目撃者の話を聞くと、共通しているのはそれだけでした。どんな霊か、となると、証言が違うのです。

 ある時は初老のサラリーマン。またある時は長髪の女性。小学生くらいの男の子だったり、浮浪者と見える男性だったり・・・・・・。

 十時をまわりました。

 まだ、残業をしている方が数名いらっしゃいました。見えるだけで害はないので、あまり気にしないようにしているというお話でした。気にする方はやめてしまうか早々に引き上げて自宅で残業なさるのだそうです。

 十時半になって、廊下へ通じる扉から女性が入って来ました。

 その方は、私のいる応接セットと残業されている方々のいる事務机との間を通って、まっすぐ窓際に向かって行かれました。

 そうして、窓際に立ち、外を、駅の方を見ている様子でした。

 若い女性の霊でした。

 まだ、亡くなられて間もない方です。

 自分が死んだことも、きちんとわかっているようでした。

 困った様子で前を見て、駅の向こうや左右を見る様子もありました。その様子を見ているうちに、だいたいの事情が伝わってきました。

その方は、駅の向こうにある病院で亡くなられたようでした。

 人のにぎわいに誘われて駅の方へ来て、すると、そこから眩しい光が見えた。

 その光を目指して新しい街を抜けて、更に先へ行こうとすると、はじかれてしまって光に近づけない。

 それで、しかたなく駅の方へと戻ろうとすると、今度は新しい街に入れない。また光の方へ行ってみても、はじかれてしまう。

それで、駅とその光を結んだ線上にある、新しい街との境に建つこの建物にさまよいこんで来たのです。原因を求めて、境界の建物の上階から確認しようと思われたのですね。

この建物のエレベーターに乗れば、最上階はそのオフィスでした。階段を使えば屋上まで行けるので、おそらく、まっすぐ屋上へ向かった霊もいたことでしょう。

私は、階段で屋上へ向かいました。私に彼女が視えているということに気づいたようで、女性はちゃんとついてきてくれました。

 北側に、彼女が目指した光が視えました。それは、昼間見た小高い緑のあった場所。神社のあるはずのところでした。

 けれど、 近づくと霊は神社の結界にはじかれてしまうようです。

 そうこうしているうちに、もう一人、階段を上って来られました。中学生くらいの男の子でした。

 私は、二人に、上を指し示しました。上の方に行ってみなさいと。新しい街にも、あの光にも近づけないのですからね。

 二人は、上に向かって行きました。それまで、浮けるということに気づいていなかったようです。 ですから、歩いて移動していたのですね。

 お二人が成仏したかどうかはわかりませんが、少なくとも戻ってはこなかったです。

残業していた方々に報告すると、早速、お一人の方が紙に大きな矢印を書いて、窓と窓の間の壁に貼られました。上矢印です。

 別のお一人の方は、ペンキのスプレー缶を持って屋上に行かれました。ついて行くと、南側の柵の手前に柵の方を示す矢印を書いて、更に、柵に上矢印を書いて下さったんです。柵だけだと、やはり棒が離れているのでよくみないと矢印だと気づけないかもしれませんが、手前に書いた矢印がいい仕事をしていましたよ。

 出るだけで害はないと言う方々は、やはり違いますね。

 護符やお祓いなどより、ずっと簡単で効果のあるやり方に思えました。

 彼らは、霊が来ることを容認したのです。

 その後も、オフィスには霊が出るそうです。矢印に気づいていぶかしげに出ていく霊もいるというお話を聞きました。屋上の矢印は『幽霊の皆さんは上に行かれてください』という文字を書き添えてきちんとした看板にされたとのことでした。また、今後は年末の大掃除の時に、壁の矢印も新しいものに貼り替えるよう習慣化するとのことでした。

 いろんな方法が、あるものですね。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ