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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第九巡 ほのぼの
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第五十話 田中 手渡し

 これも、父と出かけて看護師さんの集まりに巻き込まれたときに聞いた話です。

 その看護師さんが小学生のころ、親戚の家に何泊かしたんだそうです。兄弟が生まれて、お母さんが入院していたときだと言っていました。

 ある日、お夕飯がその家のおじさんと二人になってしまったことがあって、その時に屋台のお蕎麦屋さんへ連れて行ってもらったんだそうです。

 おじさんがかけそば二人前を注文したら、

『お嬢ちゃん、一人前食べられるかい? ちょっと少ないようにしようか?』と、店主のおじいさんに声をかけられた。

 見れば、笑顔で顔をくしゃくしゃにしながら、おじいさんがお蕎麦の準備をしている。それに大丈夫だと答えたら、おじいさんは嬉しそうにお蕎麦をゆで始めて。ちょっと多そうに見えたので、頑張って食べなきゃと気合を入れて待ったそうです。

 すぐにできたので、割りばしをとろうとしたら、目の前に差し出されたのでありがたく受け取った。でも、その手が、おじいさんの手じゃないことに、受け取りながら気が付いたんだそうです。向かいには、おじいさんしかいないはずなのに。

 慌てて親戚のおじさんを見ると、おじさんが差し出された割りばしをにこにこと受け取るところだった。渡している手。丁寧に渡す両手首から先しか、見えなかったんだそうです。

『嬢ちゃん、のびちゃうよ』

と、またおじいさんに声を掛けられて、食べ始めることにしたけれど。

 食べながらきょろきょろしたけど、もう、手はどこにも見えなかったそうです。

 帰り道におじさんが教えてくれたところでは、店主のおじいさんの息子さんが、以前はお店を手伝っていらんだそうです。

 お水を出して、お蕎麦が出されたらお箸を差し出す。それがお仕事だったんだそうです。

 その方が、お仕事中に心臓発作で亡くなられて、それ以来、お箸を渡してくれる手が現れるようになったんだと。

 始めは、お祓いもしたけれど、消えなくて。害はないし、お手伝いをしてくれるわけだし。

 店主にとっては急逝してしまった息子さんで、それがわかってる常連さんもだんだん気にしなくなってきて『ありがとう』とお礼を言う人も出てきた。

 それで結局、そのままになっているんだという話だったそうです。

 初めてのお客さんはたまに、悲鳴を上げて逃げ出すそうですけどね。

 親戚のおじさんの家には当時もう孫もいて、その店主の息子さんはおじさんと同じくらいの年だったそうです。だから、今はもう、やってないだろうなって、看護師のお姉さんは言っていました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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