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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第九巡 ほのぼの
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第四十九話 神谷 同居人

 では、第九巡目に入らせていただきます。


 この集まりに行くことになって、職場の先輩から絶対に話してこいと教えられた話です。

 先輩は、進学してしばらくは自宅から通学していたそうなんですが、片道二時間以上かかっていたそうで。一年の前期で通学は挫折、親に頼みこんでアパートで一人暮らしをすることになったんだそうです。

 入居時は築四年のまだ新しいアパートだったそうで、風呂トイレ付きの

一Kにしてはかなり家賃が安かった。

 早い話、いわゆる事故物件。死人が出た部屋だったんですね。

 まあ、幽霊が出たとしても本人も多少は祓えるし、そもそも実家がお寺だし。なんとかなるだろうと、値段で即決して入ったんだそうです。

 入居すると、一晩に何度も、あっちこっちバキビシいうんで寝不足だったそうです。でもまあ祓うにも対象が出てこないし。一応、親が祈祷はしていってくれたらしく、親には祓えてないとは言えなかったみたいです、帰ってこいと言われかねないですからね。

 トイレに入っていたらドアをノックされたり、風呂に入っていたらガラス戸に人影が見えるとか、まあ、色々それっぽい現象は起きたんだそうです。

 でも、直接ばったり会うわけじゃないし、ラップ音も慣れればもともと寝つきがいいので気にせず寝られるようになったし、そうすると、別に害はないので。

先輩は普通に大学通ってバイトして部屋に帰ってと、充実した大学生生活を続けていたんだそうです。

 冬になって、先輩は風邪をひいて寝込んでしまったそうです。

 一人暮らしだし、彼女はいないし、世話を頼めるほどの友人もいないし、実家は遠いし、近所づきあいもない。

 無理して一度買い物に出てあとはこもって治そうと、籠城態勢で先輩は養生することにしたんだそうです。

 態勢を整えて布団に潜ると、いくらもたたないうちにラップ音が始まりました。なんだかんだ昼は出かけていることが多かったので、休みの日も昼から寝ているのは初めてのことだったんだそうです。

 うるさいけど静か過ぎるよりいいやと、彼はうとうとしていたそうです。

 気づくと、今度はガラス戸を叩く音がする。キッチンと部屋の間が引き戸で、下半分が曇りガラスになっていたんだそうですね。障子みたいに格子状になっていて、その一番下の一枚を、 指先でコツコツとたたく音がする。

 目を開けてよくみると、その指の影が見えたんだそうです。

ああ、誰かいるなあと、もうすっかり慣れていたので、そう思っただけでまた目を閉じた。しつこいノックもなんのそのと寝付きそうになったところで、音が少し変わって、また目が覚めた。

 目を開くと、ガラス戸には相変わらず手首の影が映っていて、指先でノックしている。けど、よく見たらその戸に穴が空いていたんです。

 叩いているうちに空いちゃったんだろうなと、彼は言っていましたが。

 熱も上がってきていて、それを見ても動く気はしなかったそうです。目を開けているのも面倒なくらいだったんで、放って置こうと思った途端、鈍い音がしてまた穴が一つ増えた。

「ガラスを割るなー。誰が金出して直すと思ってんだよ」っと、先輩は横になったまま言ったそうです。

 すると、ノックがやんだんだそうです。

 おや? と、手首の影を確認しようと思ったら、それはなくなっていて。

 代わりに、人の頭大の影があった。

 おまけに、穴から見えるのが、人の目で。

 さすがに、彼もそれには驚いたそうです。

 けど、更に驚いたことに、目が合ったその相手も驚いた様子でさっと身を引いていなくなってしまったんだそうです。

 幽霊に驚かれても嬉しくねえやと、先輩は向こうの部屋を一応確認しようと起き出しました。

 空いた穴は二つ。起きるのには少し時間がかかりましたが、なんとか起きあがってガラス戸を開けて狭いキッチンを見回して見ても、誰もいない。もう、なんの音もしない。

 先輩は、ついでにトイレに行ったんだそうです。そうすると、トイレの向こうで何やら音がしている。そうはいっても体調は悪いし、どうでもいいやと、のんびりトイレを出て。キッチンで水分を補給して、また寝ようとガラス戸を開けようと思ったら。

 実家で送って来た小さな救急箱が口を開けていて。

 ガラス戸の二つの穴に、それぞれ絆創膏が貼ってあったんだそうです。

 大受けした、と、先輩は言っていました。

 怒られて、修繕したつもりなんでしょうね。

 その後も、時々ラップ音もするし、影が見えたりノックされたりするそうなんですが、先輩に引っ越す予定はないそうで、学生時代含めてもう十年以上住んでるって話です。ガラス戸の絆創膏も、そのままにしているそうですよ。

 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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