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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第八巡 幽霊が出ない話
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第四十七話 岩田 小人のお酒

 とある酒屋さんと懇意にしている、飲み仲間に聞いた話です。

 その酒屋さんが入荷している日本酒の中に、そのお店でしか売っていないお酒があるんだそうです。酒蔵(さかぐら)がそこにしか出荷していない幻のお酒。その酒蔵さんの規模的に、一樽しか造れないお酒なんだそうです。

 仲間が言うには、土産に持っていくと知られてないお酒だから普通に受け取られるけど、後で「これうまい!」て電話がかかってくるっていうくらい、おいしいお酒なんですって。私はまだ飲む機会がなくて、次の出荷分でやっと一本予約できたのよね、楽しみだなあ。

 で、次の機会に来る時にも買ってこいとか言われるんだそうで、その飲み仲間は毎年五本予約しているそうなんです。

 そういうお酒だから、そうそう人にはあげない。そのお酒以外のお酒も造っている酒蔵なんで、応援のために厳選した相手にあげて、そのお酒は無理だけどほかのお酒もおいしいよって、酒蔵を紹介しているって話でした。

 自宅で人にふるまう時も、これは特別だぞって、言って飲むだそうです。

 そんなお酒だから、一樽のお酒が無駄にされることなんてほとんどないわけです。

 で、ごくごくたまに『出る』んですって。

 そのお酒の酒蔵の、そのお酒を造る酒樽に。

 しくしくと泣く声が何日も続いたり。十センチくらいの高さの小人が酒樽の周りを走り回ってその跡が濡れていたり。酒樽の縁に小人がずら~っと腰掛けていたり。

 なんでも、お酒を造ってる時にも、とある過程で忙しく人が立ち働いている時に小人さんが出るって話で。その小人さんが出現しない年がごくまれにあると、その酒は全然違う味になっちゃって、売り物にならないんだって。何か、その樽の分だけお手伝いしてくれているらしいです。

 だから、そのお手伝いをしてくれているらしい過程以外に小人さんが変な様子でうろついていたりする時は、どうも、嘆いているらしい、てことで。

 まあ、その酒蔵の七不思議、みたいな話ですね。それが、どうも、お酒を入手して、美味しいうちに飲んでくれないと、出るらしいんです。

 それは、飲まない方のおうちにも出る。

 飲み仲間がお酒を送った家でも、出たんだそうです。

 久しぶりに会う日本酒が好きなご友人に、持って行ったんですね。喜んで受け取ってくれたのに、しばらくして、そのご友人が事故で亡くなってしまった。

 それで、春に亡くなって、夏の新盆の時に飲み仲間がお邪魔したときに、ご友人の配偶者から、故人の部屋にお化けが出る話を聞いたんだそうです。その配偶者も昔のお仲間で仲が良かったんですね。

 暑くなってきた頃から、しくしくと泣く声が聞こえて、部屋に行っても誰もいない。畳が湿っていることがある。小さな駆け回る足音が聞こえる。小さな影を見た。てね。

 それで、ピンときたわけね。酒屋さんからそのお酒の不思議を聞いていたから、こんな話があるって、故人が迷ってるんだろうかって悩む身内の人達に教えて、その問題の部屋に一緒に行ってみた。

 思った通り、残った家族がお酒に詳しくなかったためか、ご友人が部屋に持ち込んでいたお酒がすべてそのまま残されていたんだそうです。

 飲み仲間が贈った問題のお酒も、開封されず常温でね。

 それで、ご友人の部屋にあるお酒を、自宅へ赴いた皆ですべて飲んでしまおうってことになって。

 当然、例のお酒は特別扱いで、祭壇にもおちょこに入れてあげて、皆で丁寧にいただいた。

 それ以降、変なことは起きなくなったんだそうです。

 酒屋さんにその話を教えたら、次に買い物に行った時、案の定、酒蔵にも出現していたことがわかったそうで。

 ちゃんと飲んでくれて良かったって、酒蔵の人も喜んでいたって話。

 三周忌の時にはそのお酒を持って行って、ご友人の部屋で皆で飲んだんだそうですよ。

 もちろん、お仏壇に一杯お供えしてね。

 なんでも、翌朝には、そのおちょこが空になっていたんだそうで。次の法要の時にも持って行く予定だと、飲み仲間は言って ました。

 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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