第四十三話 神谷 待合室
十八になるちょっと前に、修行先で死にかけたことがあります。
その時の話です。
いわゆる、臨死体験ですね。
師匠にあたる方は既に九十過ぎで。指導者役はとっくに引退していたんですが、最後の弟子ということで師匠一人弟子一人という状態で四年ほど山で修行していたんです。そうは言っても師匠が後継にまかせた修行場があるので、完全に二人だけってわけではなかったですけどね。
元気いっぱいの師匠が、急に自分が死んだらお前の修行は終わりだ、と言ったその晩、何かが起きました。
寝る場所なんて雨露がしのげれば十分というわけで、洞窟みたいなとこにいることが多かったんです。そんな拠点が何か所かあって。その時は、人がいる修行場に一番近いところにいたんですよね。
まあ、そこで、何かが起きたんです。寝てたら急に、爆発が起きたみたいな衝撃波を食らったって感じだけは覚えてるんですけど。
気づいたら、知らない場所にいました。
古い長屋みたいな廃屋が、ずらーっと並んでいました。
古くなって白っぽいというか灰色っぽいというか。簡単な木造の長屋が両脇に続いていて。道はもちろん舗装されていなくて、でも踏み固められた道で、そこに白ちゃけた、さらさらした土がうっすらつもってる。歩くと、その場所から私の足跡が始まりました。ほかに動くものは何もなくて、空気の動きがない。当然風もない。草一本生えてない。廃屋以外は、すべてその白ちゃけた色でしたね。世界がほぼ二色でした。廃屋と地面の色。遠くもうっすら地面と同じ色でした。
廃屋に近づくと、低い軒に分厚く蜘蛛の巣が張っていました。でも、その蜘蛛さえも干からびていました。
私は、長屋の間の道を進んで行きました。ずーっと、両脇には長屋。ところどころ途切れてはいましたけど、隙間の向こうにも同じような長屋の道があるみたいでしたね。とにかく長い長屋なんですけど、両脇に人が出入りできる口が開いてる。窓ガラスはなかったですけど、押し開けて棒で支える形で座った横くらいの位置が開くようになっていましたね。
かなり歩いてから、廃屋の気配が薄らいできた。いくらか前には使われていたんじゃないかな、という感じになって来ました。人が住まなくなると建物は傷むっていうじゃないですか。人の呼吸とか生活が木造家屋を生かすって。建物がまだ生きてる感じがするというか、蜘蛛の巣が新しいとかね。雰囲気が変わってきた。
そしてとうとう、今、人が出入りしてるらしい、入る足跡がある入口をみつけたので、私はそこから、長屋の中に入りました。
中も、真ん中に細い通路があって、両側に細かく区切られた部屋がありました。電車のボックスシートくらいの部屋がずらっとあって、扉はどれもありません。空の部屋をいくつかのぞいて、更に進むと、人がいました。
部屋の中に四人。膝をつきあわせて、座っていました。
じっとうつむいて、互いに会話を交わすこともなく、私に目をやることもせず。
ここは、おしゃべりをしてはいけない場所なんだな、と私は思いました。
声を出したら・・・・・・いや、話し掛けたら、相手がこの先に行く邪魔をしてしまう。そんな気がしたんです。
いくつかのぞいたところに、師匠がいました。
師匠は、驚いたように眼をむいて、すぐに、シッシッて、声を出さずに手を振って、私を追い帰そうとしました。
ここで話をしたら、師匠がこの先に行く邪魔をしてしまう。そう思って、私はあわてて引き返しました。
長屋を出て、白い道をずっと戻って行きました。
長屋から出る足跡も私のだけ。白い道にも私が来た足跡がかすかにあるだけ。
出発点辺りに戻っても、ずっと先の方が、まだまだ白く白く見えました。停まる理由もなかったので、ただその道を歩いて行きました。
気がつくと、修行場の布団に寝かされていました。
四日、眠ったままだったそうです。
修行場でも爆発音のようなものを聞いて、それで様子を見に来てくれたそうです。
寝泊りしていた洞窟はいくらか中が崩れて、師匠はいなくなって、私は外に吹き飛ばされていたそうです。師匠はみつかりませんでしたが、内側から破裂したいみたいに破れた衣類が、ばらばらに吹き飛ばされていたそうです。
大きな事故や災害で、大勢の人が亡くなったニュースを聞くと、あの長屋を思い出すんですよ。この人数なら全然足りるな、とか。さすがに今回はあの辺までくらい人が入ったかな、とか。こういうことがあるから、あれだけの数が必要なんだな、とか。
何かを待っていたんだとは思いますけど、順番待ちも大変そうだな、待つ方も捌く方も大変だろうな、てね。
もし、師匠が帰れと追い立てなかったら、私はそのまま、あの待合室で何かを待つことになっていたんでしょうかね。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
百物語再開です。二巡分続けたあと、また休憩が入ります。
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頑張ります!
神谷は師匠に言われていたのでそのあと下山し、修行を師事した当時神宮だった田中の祖父のところに報告に言ったら今度は神主の資格を取れ、大学行けと言われて急遽大検を受けて大学受験しました。
中二の頭までしか学校に通っていなかったので、冬彦叔父に家庭教師されてなんとか合格しました。薬剤師冬彦も頑張った。




