第四十二話 森山 人魂
高校の友人に聞いた話です。
母親の実家に、伯父さんの新盆で出かけた時の話だそうです。
その実家は、崖と言ってもいいような急斜面の下にあるんだそうです。崖の上には商店街や住宅街があって、車ではぐるっと崖を回って行かないといけない。人間だけなら、その急斜面に石段が造ってあって、そこで上に行けるようになっていたそうです。
人がすれ違えないような幅で、石段に手すりが付けてある。ほぼその家に用のある人しか使わないので、外灯もない。
親戚は崖の上にもいて、新盆の日は何人もその階段を使ったそうです。
日中仕事に行っていた親戚の一人が、暗くなってからその階段を懐中電灯を持って降りて行ったら、半ばまで来たところで、急に懐中電灯の灯りがすぼまって、そのまま消えてしまったんだそうです。
下の家の明かりと、崖の上の方の明かりとで、真っ暗ということはありません。家の向こうは狭い道路があってすぐ砂浜で、道路の街灯は数が少ないし、崖に張り付くようにできている石段の様子を照らす明かりは何もなくて、足もとがまるで見えません。古い石段で、しかも身内くらいしか使わないものだったので、段差は一定じゃないしすり減って斜めなところや滑りやすいところ、欠けているところもある。明かりなしでは危険な階段なんだそうです。昼間は景色がいいらしいですけどね。
親戚は立ち往生して、誰か来ないかと首を巡らせました。そうして、その音に気づいたのだそうです。
オルゴールから聞こえるような音。なんの曲かはわからないものの、綺麗なメロディだったそうです。
動くに動けないけれど、新盆でもあるし、誰かが通るだろうと、親戚は手すりに背を預けてそれを聞きながら待つことにしました。
けど、それはすぐに終わってしまいました。ほんの二、三分のことだったそうです。そして、終わった途端に懐中電灯が復活して明かりがついたんだそうです。
親戚は、狐につままれたような気分で懐中電灯で辺りを照らして見ましたが、狐はおろかおいなりさんだってない。首を傾げながら石段を下って家に行くと、中は大騒ぎでした。
友人は家の方にいたわけですが、親戚たちはみんな、続き座敷か台所にいて、友人も座敷にいた。ちょうど、出入りする客がほぼいなくなって近い親戚だけになっていた時、ふっと、開け放した廊下に光が現れたんだそうです。
それは、拳大の丸い玉で、色の薄いピンク色をしていたそうで、廊下の海側からひょいと現れて、一回廊下の床にバウンドして、崖側へと跳ねて行ったんだそうです。
その場にいた半分以上の人間がそれを見た。友人も見たそうです。それで、今の見たかなんだったんだと大騒ぎしているところに、懐中電灯片手に新たな親戚がやってきたというわけです。
どうも、そのピンクの玉の出現とオルゴールが聞こえた時間が重なってたようなんですね。
わざわざ自分で音楽隊まで連れて帰って来たのかねってことで、結局、誰も怖がってなかったんそうです。ピンクの玉は新盆に帰って来た親戚の人魂ってことになったんだそうです。
人魂ってピンクのこともあるんですかね。ちなみに、亡くなった方は八十近いお爺さんだったそうです。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
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