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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第マイナス一巡
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六人目 森山 昴(もりやま すばる) ビシッと決めて中古でゴー

 うん、こんなもんかな。

 森山昴は、鏡の前で全身をチェックする。

 ラフな恰好のようでいて、髪の毛一本まで油断なく整えてある。お肌もツルツルだし、眉も完璧。少しおしゃれに気を使う人ならば知っているブランドの服、同様のセカンドバッグに靴。小物は今日は控え目だ。

 後ろ姿もチェックして、壁時計を仰ぎ見る。いい時間だ。

 車のキーを玄関脇で拾って外へ出る。

 大学の時からそのまま住みついている、二階建てアパートの一階が昴の部屋だった。

 駐車場はすぐ目の前。先輩から激安で譲ってもらった古い型の軽自動車。まずは窓をすべて手回しで全開にする。森山がそのおしゃれな体を押し込むと、いつものとおり『ギゥ』と車体がはっきり鳴いた。

 森山は、とても外交的な男だった。

 しかし、人と会う時は外で会うし、飲む機会も多い。なので、部屋にも車にも金をかける必要はない。給料は交際費がメインだ。

 一見チャラい男に見えるのだが、それでも堅実に貯金はしているし、スーパーで買い物をして自炊する弁当男子でもある。

 おにぎりの形がきれいだと職場の女性陣には評判だが、あいにく二十前後は年上の皆様なので恋愛対象にされることはない。

 ゆえに、出会いは外に求めている。

 大学時代の友人らから合コンに誘われることが、いまだによくあるのだ。

 その場では話がはずむ。が、次はない。

 話題性に問題があることはわかっている。

 しかし、その場ではとても受けるのだ。

 結果、昴は置いてけぼりになるのだが、ほかのメンバーのカップル成立率が非常に高い。

 合コン必須アイテムと評判になり、先輩方のお誘いだとすべて奢りで参加させてもらえることもある。

 おかげで合コン参加回数はおそらく三ケタの大台に乗っているというのに、昴は社会人になってから彼女いない歴を更新し続けている。大学時代につきあった彼女は遠い地元へ帰ってしまい、卒業と同時にきっぱり捨てられてしまったからだ。そんな思い出も、もはやかなり遠くなっているというのに。未練もないが縁もない。

 そんな昴に、三晩続きの合コンが持ち込まれた。

 とりあえず、話を持ち込んだ先輩は「合コン」だと言っていた。

 夜だけ、同じメンバーが集まって話をする。

 男女混ざっているが、数は合わないかもしれない。

 いつものように、話をすればいい。

 しかし、今回は参加者が同様の話をする人たちなので、もしかしたら気の合う女性に会える可能性もあるかもしれない。

 と。

 合コン必須アイテムと拝まれて紹介されては、同様の話題を出すような女性には何も期待できないとは言えず、紹介者が不参加で参加者全員見ず知らずらしいという合コンを、昴は断れなかった。

 まあ、初めましてばかりなら、ネタはいくらでもあるし。

 参加費は無料。それどころかバイト代が出る。お金がもらえるという段階ですでに合コンではないとわかっているが、合コンだと思って参加した方が楽しいに決まっている。

 二十万キロ超えの走行距離を表示する軽自動車のエンジンをかけ、昴はクラッチをゆるめる。ややコツがいる上に不安定なエンジン音を立てる車だが、車で十分の職場と五分のスーパー以外はほぼ使わないので、不自由は感じない。今日も、久しぶりに十分以上の運転になるものの、無事会場の遊園地までたどりついてくれるならばそれで十分だ。

 エアコンは去年の夏に壊れてそのままだ。昴はせっかく整えた髪が、全開の車窓からの風にあおられるのも構うことなく、機嫌よく出発した。


語り部 六人目

森山 もりやますばる

40歳。

大学入学時から同じアパートの1Kに住み続けているサラリーマン。

中小企業の食品加工会社事務員その2。事務員その1は社長の妻で、その3はいない。

唯一の営業である社長は実は母親の元彼というコネ入社だが、長期勤務のおじさまおばさま方にも気に入られ、何気に優秀。密かに子供がいない社長から次期社長として狙われている。

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