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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第六巡 悪い霊
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第三十五話 岩田 風鈴

 同僚に聞いた話です。子供の頃の体験だそうです。

 夏になると川に飛び込んで遊べるようなところに住んでいたそうで、ある夏、遊び友達の家に東京から親戚の女の子が来たんですって。

 同僚が小学生の三年か四年の時だったそうですけど、その友達の家にみんなであつまって縁側でスイカを食べていたら、ご両親に連れられてその子がやってきてね。お土産のホオズキの鉢を持って立っている姿が、印象的に残っているそうです。

 ホオズキの鉢は籐籠に入っていて、その籠には長い持ち手がついていて、そこに風鈴下がっていた。

その鉢を縁側に置いたら、ちょうど風が吹いて。綺麗な音が鳴ったんだそうです。

 鉢に一番近いところに座っていた子が面白がって鳴らして遊んでいたら、ずっとお母さんにくっついていた女の子が寄って来て、風鈴を外して、その子にくれたんだそうです。

 それがきっかけで地元の子供たちと話が弾んで、すぐ一緒に遊ぶようになったんだそうです。

 けど、やっぱり東京と、自然豊かな土地では普段の遊び方が違うので。地元の子たちには当たり前のことでも、その子には同じようにこなせないことが色々あったのね。岩から岩へ跳びうつるとか、川岸の大きな岩から川に飛び込むとか。仲間たちは無理をさせようとはしなかったし、岩から岩へ移るのも川に一人おりて手を貸してあげたりしたんだそうだけど、やっぱり、同じように遊びたかったんでしょうね。

 翌朝、子供たちがラジオ体操に行く時に、自分は河原に昨日の忘れ物を取りに行ってくると言って、一人で河原に行ってしまった。大人たちはラジオ体操に一緒に行ったと思っていたし、子供たちは女の子が本当に忘れ物を取りに行っただけだと思った。

 結局、ラジオ体操から子供が家に戻っても、女の子は戻っていなくて。子供の話を聞いて大人たちが探しに行って、みつからなくて、子供たちは川に行くのを禁止されて。

昼過ぎに、川底から女の子の遺体がみつかったんだそうです。

 捜索隊にお医者さんや消防の人もいたので、死亡がすぐ確認されたんでしょうね。遺体は一度親戚の家に運ばれて、棺が運び込まれて移されるとすぐ、両親の希望で東京に戻ることになった。

遺体がみつかった話も、すぐ東京に戻ることも、すぐご近所に伝わってきたそうです。棺が運びこまれるのも見慣れない車ですぐにわかったし、運び出されるのもわかった。

子どもは家から出ちゃダメと言われて、大人たちは庭先で車が通っていくのを、手を合わせて見送ったそうです。その時、あのホオズキの鉢の風鈴をもらった男の子の家の横を、その車が通った時。風もないのに、風鈴が数回、鳴ったんだそうです。

 しばらくは、川遊びを控えたそうなんだけど、夏休みも終わって、学校がまた始まった最初の休みに、また遊びに行こうっていうことになったんたそうです。

親たちに今年はもうやめろと言われていたけれど、暑くて、我慢できなかったのだそうです。

 そうして行ってみたら、仲間の一人が足を引っ張られるって言い出して。頭まで潜って溺れてしまった。皆で引っ張りあげて事なきを得たけど、確かにその足首には手形が残っていたんだそうです。片方の足の、足首近くに、両手で強くつかんだような跡が。

 溺れたショックか、その子は高熱を出して寝込んでしまって。お見舞いに行ったら、風で風鈴が鳴っていたんですって。

 その音で、溺れた子が、死んだ女の子から風鈴をもらった子だと気づいたと言っていました。

風鈴をもらった子は、熱を出して三日目に急死してしまったそうです。

 そうして、出棺の時。

 軒先に吊るしていた風鈴が、一際大きく鳴って。

 皆が思わず視線を向ける中、ぷつっと、紐が切れてね。

 硝子の風鈴は、軒下に落ちて粉々に砕けたんだそうです。

 連れて行かれたんだって、大人たちは話していたと、同僚は言っていました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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