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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第六巡 悪い霊
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第三十三話 羽生 美容院

 テレビ番組のADさんに聞いた話です。

 ある日、大学に進学したその方、広子さんということにしておきましょうか。広子さんが引っ越ししてきたばかりの時に、アパートの近くで美容院を探されたのだそうです。そして、比較的近くに美容院をみつけました。

 おしゃれな外観だったので若い人向きなのだろうと思って入ってみたところ、三十代くらいの女性が一人で彼女を出迎えてくれました。お客も、手伝いの人もいなくて、席も一人分しかない。本当に小さなお店だったそうです。

 彼女がカットを頼むと、まず洗髪してくれて、それからたった一席の鏡の前の椅子にすわらせられました。

 美容院ではよく、カットの間読むための雑誌を置いてくれたりするのですが、広子さんはカットした髪が挟まるのが気になるので何もしないことにしているのだそうです。美容師さんもあまり話をしない方だったそうで、カットの間、暇だった彼女はぼーっと鏡に映る壁掛け時計を見ていたのだそうです。

 そして、ふと視線をそらした時、入口近くに据えられた待ち客用のソファに、女の人が座っているのに気が付いた。けれど、ドアにはベルがついていたはずで、彼女の前に先客はいなかったはずなんです。本当に小さいお店で、そもそも、ソファはドアの真横でしたしね。

 少し伸びかけたショートヘアの若い女性で、鏡越しに彼女を見ているわけです。カットの進行状況を見ている風で、いかにも順番待ち、という感じだったそうです。

 ああ、この人は髪を切りに行く途中で何かで亡くなってしまって、死んだことをわかっていないんだな、と、彼女は何故か、思ったんだそうです。

 別に、自分は見える人という認識もないのに、何故かそう思ったんだそうです。心霊番組のADさんでしたけど、実際、立っている霊を突き抜けて歩いていましたよ。

 広子さんはカットを終えて、セットしてもらって、会計を済ませて、会員カードをつくってもらって。そうして、彼女は霊に気づいている風を見せてはいけないと思って、ソファの女性には一切反応を示さずにお店を出て行こうとしたんだそうです。

 そうしたら、美容師さんが、

「お待たせしました、どうぞ」

 と、女性に声を掛けたんだそうです。

 それで、彼女は単にドアベルに気づかなかっただけなんだと思い直して、待っていた女性に「お待たせしました」と会釈して、そうしたら相手の方もちょっと笑って会釈を返してきたんだそうです。

 おかしいなあと思いつつも、彼女は店を出たんだそうです。

 それから数日後、その美容院の前を通りかかったら、シャッターが閉まっていたんだそうです。しかも、シャッターに貼り紙がしてあって、そこには数ヶ月前の日付で閉店のお知らせが書かれていて。シャッターにも窓にもスプレーでいたずら書きをされていた。確かに、どう見ても数日前まで営業していたようには見えない。けれど、確認してみたら財布の中には会員カードがちゃんとある。

日付も数日前。用紙も真新しい。店名も合っている。

 狐につままれた思いで数日を過ごして、また店の前を通ると、今度はまた綺麗なおしゃれな状態で開店していたそうです。

 窓越しに、美容師さんがお客さんの髪をカットしているのが見えて。

 よく見たら、それは、彼女をカットしてくれた美容師さんと、ソファで待っていた女性だったんだそうです。

 あとで、機会があって彼女、大家さんからその店の話を聞いたんだそうですよ。

 なんでも、経営難から店長さんが店で自殺して、訪れた女性客が通報したんだそうで。そして、その女性客が数日後に急死したんだそうです。

 常連客だったんで、連れて行かれたんじゃないかって噂で。どうも、ほんとにそうだったらしいですね。

 大家さんが言うには、数か月の間に、美容院に行ったばかりの方々が何人も亡くなったのだそうです、そのご近所で。大通りから一本入ったところにあるお店で、自殺が理由でしたからあまり閉店が知られていなかったらしいのです。

 久しぶりに美容院に行った、もしくは行く、と言っていた方々がきちんとカットなどをされた後に亡くなって、そのお店の常連客だった、と。会員カードには直近の日付が書かれていた、と。

 広子さんは、母親が送ってきた地元の神社のお守りを肌身離さず持ち歩いていたそうですので、ご利益があったのかも知れませんね。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


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