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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
二日目開始前
53/143

岩田 元カノ VS 現カノ ? 並ぶ酒瓶はオアシスです。

 休憩所から帰るときに、ゴスロリ娘に声を掛けられた。

 曰く。

 あなたの元彼と、この二年で何度も一緒に夜を過ごしているのよね、私。

 と。

「はあ」

 それしか言えない。

 二年、会っていないのだ。

 はっきり別れたわけではないが、元々、年取ってお互い独身だったら結婚しようという遠大な計画だったので、途中離れてもそれはそれだし、年取ったころに再会して独身だったらまた考えるというだけのことだ。

 年取って、男女の関係などという艶っぽいつきあいではなく、まったりと、縁側で茶を飲んだり満月見ながら酒を飲んだりという仲を、お互い考えていたのだ。

 なので、嫉妬するとか、そういう感情は湧いてこない。

「お酒修行はしていますよ、あの人」

「はあ」

 監視カメラで自己紹介を聞いていたらしい。

「彼は、神社の奥にいるのでね。お酒はよくいただくんですよ、相談者は大抵地元の日本酒の一升瓶を持ってきますからね」

「ほお」

「夜をともにする話より日本酒の方が反応がいいんですね」

「はあ。まあ、二年会ってませんから。お酒は毎日飲んでますけどね」

 ゴスロリが、噴き出した。

 大笑いだ。

 岩田としては、どこがツボだったかよくわからない。

「週に一度、寝ずの番に若い女性が行くことになっているんですけど、彼は相手にしないので。私もご挨拶だけして神殿の手前の支度場で寝ずの番をしているだけです。たまに神殿や奥の院まで押し掛ける女もいるようですけど、そういうときは奥の院の更に奥にあるという部屋に隠れてしまうらしいですよ。一緒に布団に入ったと豪語する女が一人いますけど、その人はだれとでもそんなことがあったように話すので、まああり得ませんね。冬彦さんも、あの女だけでも寝ずの番から外してくれと言ってるようですし」

「はあ」

 すごい人もいるもんだなあ。という感想である。冬彦さんも大変だ。

「私、今回メンバー探しでいろいろ調べて岩田さんの存在をみつけたんですよ。冬季も知らなかったみたいだし。それで、この間、寝ずの番の時に訊いてみたんですよ、冬彦さんに」

「はあ」

「岩田さんを寝ずの番にしたら、お役目果たされますか? て」

「・・・・・・お役目?」

「子をなすお役目です」

「・・・・・・」

「なんて答えたと思います?」

「さあ。・・・・・・子供作るとは言わないと思いますけど」

「あらすごい。正解です」

 岩田と冬彦のつきあいには、たしかに同じ布団に入るようなことがなかったわけではない。しかし、ごくたまにのことだった。同じ部屋に寝ることはあっても、大抵飲んだくれて終わるのだ。

「『会って一緒に酒を飲みたいとは思う』って、言ってましたよ」

「・・・・・・それは、私も」

 いろんなお酒がありそうだし。

「じゃあ、お祭りに遊びに来ませんか?」

「お祭り?」

「年に一度お祭りがあるんです。次は、ちょうど次の火曜日です。明日の日曜で百物語が終わりますし。土日このお仕事ですから、代休とか採れるんじゃないですか? 夏休みもあるのでは?」

「代休は月曜に取ります。夏休みはまだ残ってますけど、さすがにそんなに急には取れません」

 ただでさえ、金曜もこっちの仕事で月曜も休みなのだ。まあ、忙しい時期ではないので、取れないこともないけれど。

「年に一度のお祭りだけ、神宮(かんみや)様、冬彦さんのお役目ですね、神宮様は外に出てこられるんですよ。観光客もそれなりにいるので、まぎれて元気なお姿を見られてはどうかなあと思うんですけど。どうですか?」

「はあ」

「これ、お祭りのパンフレットです。良かったらいらしてください。私は当日、神社の特設の受付辺りにいますので、「ひかり」はいるかと声をかけてください。ちなみに冬季も来ますけど、彼は常に神宮様のそばにいると思います。とはいえ、一般人が話をしたりは無理ですので、お祭り中は通り道で見るくらいでお願いしますね。私に声掛けしていただければ、当日の会えそうな時間をお伝えします」

 岩田はB5のチラシを渡されて、休憩所から出された。

緒良田(おらだ)神社」

 そう、書いてある。全国的にも珍しい生き神様、と。

 写真では、人力車に神主のような恰好をした生き神様が乗せられている。昔は牛車だったり馬車だったり、馬に乗っていたりいろいろあったらしいことが書かれている。人力車の前後に稚児さんや旗を持つ人や太鼓や笛の人、神主やら巫女さんやら大勢がいる。旧村内を練り歩き、ところどころで神宮様は人力車から降りて自らお祓いをするという。また、神社では旧村民による神楽(かぐら)もあるという。

 岩田は、遊園地を突破して電車に乗ってから、スマートフォンで検索してみた。

 すると、去年のお祭りを見に行った人が撮った写真が出てきた。

 そこには、人力車に乗せられた冬彦が写っていた。

 髪が伸びていて一つにくくっている。髭も伸びているが、元々濃い方ではないせいか、あまり立派な髭面(ひげづら)にはなっていない。少し()せたようにも見える。事前情報がなければ、同一人物とは気づけなかったかもしれない。

 一緒にお酒、か。

 それは、いいかもな、と思う。

 お祭りの日なら、神社の外で一緒に飲めるということなのだろうか? よくわからない。

 とりあえず、今日明日は会社も休みだし、月曜になったら、火水と休めるか相談してみよう。なんなら月曜に出勤して無理やり代休を振り替えるか。その方が長く職場空けすぎなくていいかな。

 岩田は、半分お祭りに行く気持ちに傾いていた。

 神社の奥で、二人静かに飲むというのもありだが、そうそう一般人がそんなところには入れないだろう。そもそも、その神殿だか奥の院だかには、酒瓶が並んでいるのだろうか。それがデフォなのか、冬彦仕様(しよう)なのか。

 岩田の関心は、半分妄想になりながら暴走していった。

 自室に帰り、洗濯と掃除。洗濯は室内干しにして、また一泊の支度をして昨日より早めに部屋を出る。

 今日はどこで飲むかな、やっぱり冷酒よね。

 乗り換え駅で降りて五分以内の店。

 それだけを決めて、駅を目指した。


入れ替わりの日以外は神宮を傷つけることはできません。髪も髭も切ることはできません。表面的に傷つけることは一切できませんし、飲食に毒やとがったものなどを混ぜたりしても効果はありません。

でも、細胞は生まれ変わるので、伸びるし食べるし飲みますし、トイレにも行きますし風呂にも入ります。

なお、老化も進むので禿げるし白髪も進行します。


神殿には常に一人以上の人間が待機しています。寝ずの番も必ず一人います。週に一度は十三歳以上の女性と決められていますが、ここ十五~六年くらいは寝ずの番に仕事は何もなく、暇なのでただ爆睡しています。冬でも水路を通って行かなくてはいけないので、必然的に若手の仕事になっています。爆睡できて手当がもらえますが、全身ずぶ濡れの刑が伴うため人気がないお仕事です。

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