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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
二日目開始前
51/143

羽生 霊能者のお仕事です。

 十一時半。

 羽生は、会合場所の『津軽屋』の前でタクシーから降りた。

 国会議員の笹川と会うときによく使う店なので、入れば名乗らずとも店員が部屋まで案内してくれる。

 今日は一度家に帰って仮眠する予定だったが、昨夜旧友が部屋を訪ねてきたものだから、寝坊してしまった。服は昨日と同じだが、旧友が朝までにクリーニングするからと戻るときに持って行き、朝には皺ひとつなく部屋に届いた。

 羽生の唯一の友人と言ってもいい、芸能人仲間の土屋真里亜(つちやまりあ)

 本名ではないと言っていたが、本名を聞いたことはなかった。

 昔は二人で電車やバスに乗ったり、子供の頃から芸能活動をしていた者同士での『初めて』シリーズを一緒にする仲だった。商店で駄菓子を買ってみたり、お肉屋でコロッケを買い食いしたり。

 なつかしい話はたくさんあった。

 最初、休憩所の部屋に彼女が訪ねてきたとき、だれだかわからなかった。

 強烈なゴスロリ衣装とメイク。けれど、その気配は以前と同じだった。

 こちらから名を呼ぶと、嬉しそうに笑ってくれた。

 二年ぶりの再会だった。

 彼女は、本名は『奈々谷津(ななやつ)ひかり』というのだと教えてくれた。

 今は遊園地の運営にかかわっているという。今回の企画のメインでもあるのだと。

 そして、神谷・田中・森山とは親戚であり、今回の企画は一族に憑く怨霊を退治するためのものであると、説明してくれた。

 そして、急に芸能界を去った理由も。

 二年前、一族を襲った怨霊により、七人の死者が出た。神社での犯行の一部始終を目撃したひかりは、スキャンダルを恐れる事務所に契約更新を拒否されたのだという。過去にも大量殺人事件が発生している一族であるため、今後のことも警戒したのだろう。

 ひかり自身も、遊園地など家の事業の手伝いを始めていたため、そちらも面白くなっていた。特にごねることなく、静かに引退することになったのだという。既に、CDは長く販売していなかったし、テレビのバラエティやドラマに少し出る程度になっていた。どちらにしろ、更新はなかったかもしれないと、真里亜は語った。ファンクラブ内では、この遊園地で運営として働くと公表してあったそうで、遊園地内を歩くときに声をかけられることもあるのだという。

 ゴスロリファッションは、アイドルとバレないようにすることと趣味を兼ねているのだという。ビジネスの場ではスーツの薄化粧になるが、これはこれでアイドル時代とは違う見た目なので、バレることはほぼないという。

「そもそも、そんなに売れてなかったからね」

 それでも、芸能生活は三歳から実に二十五年と長かった。時々、遊園地内のイベントでアイドル時代の名を使うこともあるという。

「ごめんね。危険がないとは言い切れない」

 大量殺人を犯すような怨霊を相手にするのだ。そのための場をいくら備えて作っても、安全とは言い切れないだろう。

「でも、このままだと、真里亜ちゃんも危険なのよね?」

「そう。私も『七縛り』だから」

 彼女は三十になるという。もともとは、七縛りではないと思われていたために、神谷冬季のように名前に『冬』を持たない。彼女は、母と実の兄の子供だと思われていたのだという。その兄が七縛りであったため、その関係は止められることがなかったのだという。

 しかし、一族ではそのころ、七縛りを増やすこと、特に能力の高い七縛りを奨励していた。それは、七縛りや親族との子、何より神を宿す神宮(かんみや)との子を増やすことが求められていた。

 神宮は男も女もなりえるが、女は子をなせない。男は孕ませることができた。

 男の神宮の元へは、一族の子を産める年齢の女たちが送り込まれた。彼女の母も、兄に愛されながらも神宮の元へ送られていた。兄は自分の子だと信じていた。母は、自分を産んだあと、自殺した。十六歳だった。

「私は、伯父も、一族も、嫌い」

 神谷の扱いが雑だったのは、その想いが反映していたのだろう。神谷も甘んじて受けている様子だった。事情をよくわかっていたのだろう。

「冬季もね、母親が神宮付きだったから、神宮の子なの。お姉さんもそう。父親違い。母親は未婚の母よ。法的には結婚できないような近親婚の時代だったの」

 その後、二代ほどの神宮はそれを拒否したので神宮の子は産まれず、一族も正常化していっているという。それでも、その時代を支えてきた老女、相談役は、女たちを送り込むのをやめなかった。その習慣はその相談役が二年前に死んだあとも続いており、今の若い神宮の元にも送り込まれている。自分がその筆頭であると、真里亜は言った。

「今の神宮も、手出ししないけどね。岩田さんの彼氏」

 積極的な女が行くと、本当に神宮しか入れない領域に隠れてしまうのだという。羽生は岩田のキャラが気に入っていたので、よかったと思った。そして、この怨霊が退治されないと、その岩田の彼氏は次の入れ替わりの際に死ぬ可能性が限りなく高いと聞いたので、この会にはきちんと参加を続けることにした。

「あの部屋で百話を語ればいい。それだけだから」

 真里亜の話を信じて。

 『津軽屋』の店員に案内された部屋に入ると、国会議員の笹川は下座に座って待っていた。脇には、秘書を務めている若い男が座っている。

 羽生は上座を勧められ、店員たちが笹川の指示で先にすべての料理を並べて去ると、隣りの男を甥で秘書だと改めて紹介してきた。

「そろそろ身を固めさせようと思いまして、一度視ていただきたいと思ったのです」

 笹川は、甥について、経歴その他、いずれ自分の後を更に継ぐものと期待しているとの話を、食事をしながら説明してきた。

 秘書の男は、若干不審そうにおとなしく笹川の隣りに座っていた。これまでも笹川との会合のセッティングなどをしてくれていたのでお互い、面識はある。しかし、笹川との会合時には同席を許されていなかった。秘書にも知らせたくないようなことを相談していたということだ。多少の不快感はやむを得ないだろう。

 姿勢も良いし清潔感もある。きちんと未来の政治家として育てられ、本人も努力をしている様子が見てとれた。

 まあ、本人に問題はなさそうだけど。

 しかし、彼には悪い物が複数()いている。

 政治家への道は、綺麗なまま進むことはできないのだろう。

「甥御様自体は、問題ないと思います」

 羽生は、一度箸を置いて笹川に言う。

「問題は、彼のために尽くす者、ですね。そういった者を、つけているのではないですか?」

 笹川が口をつぐむ。秘書はそんな伯父の様子に少なからず驚いたようだった。

「その、子供の頃から世話をしている女性と、その息子と娘を甥にはつけています。学校などではその子供たちが問題のないよう協力してくれていました」

「いや、彼らは悪いことしてませんよ。私も、彼らとは仲良くして、お互い気づいたことは相談しあって解決してましたし」

「落ち着いてください。私が言っているのはその親子とは別です」

 そう言って、羽生は笹川を見る。国会議員など、一癖も二癖もあるのは当たり前。清廉潔白に生きていては、代々の政治家などできないだろう。

「その者の行動によって排除された者達からの悪いモノが、憑いています。たいした力はありません、ちょっとしたいたずら程度のことしかできません。病気やけがのきっかけを作ろうとしたり、人との仲をこじらせようとしたりがせいぜいでしょう。一回、神社かお寺でお祓いをしてもらえばそれらは落ちます。けれど、甥御様のために行動している者の、やり方を少し変えないと、いたちごっこになりますよ。甥御様がご活躍されていくにつれ、その者の行動も過剰になり周囲の敵意が上がっていけば、その影響は甥御様に出てくることになります。それは当然、身を固めるお相手様にも影響しますし、お相手様への行動も心配です。今のうちに、一度そのあたりをご確認なさってみてはいかがでしょう。その者に、笹川先生や甥御様への悪意はないのでしょう、むしろ、『先生方のためになる自分』というものに自己陶酔しているようですね。釘を刺してそれで済むかわかりませんが、放り出してもよくないでしょうし。扱いは難しそうですが、なんとかなさった方がいいと思います」

 それだけ説明して、羽生はデザートに手を出した。

 笹川と秘書でもある甥がぼそぼそと自分たちだけで話を始める。その辺の話は聞いて流す。いずれにしろ、二人には心当たりの者がいるらしい。

「笹川先生も、ご一緒にお祓いを受けておいてはいかがでしょう。少し薄めておいた方がよろしいかと」

 食べ終えて、羽生は説明を追加する。笹川には、もはや簡単には祓えないレベルのものがくっついている。お祓いにより、まとわりつく邪気を少しでもそいでおいた方がいいだろう。

 もしかしたら、神谷の実家のようなところでなら、祓えるのかもしれないが。

 結局、羽生は視えるだけなのだ。視えるものの性質を読み、説明する。祓うことはできないのでよそに行けと言う。それだけの仕事だ。

 これで、高級割烹料理にお土産がつく。相談料は振込みになるので叔母の管理に入るが、お足代の名目で交通費として現金を持たせてもらえる。これが、羽生のお小遣いとなるのだ。

 相手は大物が多いため、お足代だけでもそれなりに稼いでいる。実際の稼ぎは叔母に任せているが、それなりに納税できているのは確かだ。叔母の給料が羽生のお小遣いより多いのは気になるが、必要経費を差し引いた分は羽生の資産となっているらしい。運用禁止にしているので、ただ普通に貯金され続けているだけだが。

 羽生はタクシーを呼んでもらって店を出ると、なじみのブティックへ向かった。今日はもう家に帰らずに、遊園地に直行しよう。

 一泊できるよう一式そろえて、叔母に頼んで美容院を予約してもらって顔と髪も整えてもらい、着替えは叔母に押し付ける。

 もらったお菓子はそのまま会場に持って行って会のメンバーと分けようか。

 中までもっていくと、私も神谷さんも食べられないわね。

 黄泉戸喫よもつへぐいという、黄泉の国のものを食べてしまうと黄泉の国の者になってしまい、現世に戻れなくなる、という考え方がある。

 古事記で死んだイザナミをイザナギが黄泉の国に迎えに行くが、イザナミは既に黄泉の国の食物を食べてしまっていたので、黄泉の国の者になってしまった。それでも連れて帰ろうとするが、黄泉の者となったイザナミの姿に、イザナギは恐れおののいて現世へ逃げ帰り、追って来たイザナミを黄泉の国に閉じ込めてしまう。

 百物語の会場は、あの世とこの世の境界のような状況になっていくのだろう。話を数話しただけで、その兆候は見えてきていた。だから羽生は会場での飲食をすることをやめた。神谷も同じ考えだろう。自分の力に邪気を入れないために。

 外で待ち構えてやるとするか。

 遊歩道下の日陰にいれば少しは待てる。

 さすがに、今日は遅刻しないだろうから。


ゴスロリ娘は元芸能人。神谷家をサポートする七家のうちの一家奈々谷津の血筋。神谷家から婿入りしているので、七縛りが生まれます。

ちなみに、神谷の七縛りはひかり以外は「冬」がつくので、名前をフルに呼ぶとほぼ全員が振り返ります。

「とう」と呼んだり名前の後ろ側に「冬」がつく人は大丈夫ですが。

なので、一族の間では通常「冬」をカットして呼びます。冬季なんぞは「ゆきちゃん」と呼ばれます。森山の母冬音は「ねんちゃん」。冬彦は「ひこちゃん」です。

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