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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
一日目終了後
48/143

地下一階管理人室

 森山と別れた神谷は、すぐにスマホを出す。コールすると、十回ほどで相手が出た。

「メシ食ったかちゃんと」

『期限切れそうな焼きそば作ったよちゃんと。半分冷蔵庫入れたから明日食べてよ』

「偉い偉い。ありがと」

『俺カップ焼きそば食べたかったのにさ、なんで材料そろってんのさ』

「俺がカップじゃない焼きそば食べたかったからだよ。なのに賞味期限になるまで機会がなかったの。一緒に夕飯食べたのいつだっけ?」

『先週末かなあ。別に困んないけど。夏休みだから保護者的な話もないし』

「あれ? そもそも俺、最後にメシ食ったのいつだっけな」

『ただちになんか食え。飲み物は?』

「行きの電車で水のペットボトル一本飲んだな。昨日も水は飲んでた」

『昨日食べ物は?』

「えーと、朝メシは食べてったぞ、トースト一枚」

『ただちに飲め! 食え!』

 甥っ子が心配してくれている中、神谷は、路地の奥にお稲荷さんをみつけたので、入り込んでリュックから会場で出されたペットボトルとお菓子類を出して供えた。手を合わせて、再び路地に出たところ、仕事場が視野に入った。

『倒れても知んないからね! あと、下のおばちゃんの相手させられた恨みはそのうち晴らすからね』

「ああそうだった。俺よりマシでしょ、俺だと二十分エンドレスだから」

『俺でも五分エンドレスだよ』

「次からも頼むわ」

『冗談じゃないよ』

「またこれから別の仕事だから、明晩の仕事までに一回は戻りたいんだけど、どうなるかわからん」

『ブラック企業』

「みんなそれ言うな」

『じゃあそうなんじゃないの?』

「あー、とりあえず、仕事するわ。ちゃんと寝てちゃんと食えよ」

『こっちのセリフ』

 通話を切り、保護者タイムを終了する。

「あー、俺の睡眠時間・・・・・・」

 目の前には、五階建て総三十五室のマンション。

 調べて、片して、概要だけでも報告書作って・・・・・・。

 調べて片してだけでも、朝までかかりそうな予感しかしなかった。


 遊園地のパンフレットには、まだ百物語の会場エリアは工事中と案内されている。

 正式名称は『魔女の塔』の予定だ。

 ただし、オープンまで無事に建っていればの話である。

 地下一階の管理人室。

 そこには、一人の男がいた。

 三角柱の塔の建築。それには、目的があった。構想を話すと、企画も内装も身内が引き受けてくれた。

 語り部たちの人選も、よくぞここまでと思う。

 七谷(ななやつ)グループは、伊真田(いまだ)市に合併された旧緒良田(おらだ)村から始まった会社である。

 村での薬売りの対応から始まり、身内を医療関係の学校に送り込むようになって個人医院から拡大するにあたり街に進出し、時代の流れに沿って総合病院から介護関係、福祉関係事業と事業を拡大していった戦後の新興企業である。

 その姓は奈々谷津というが、企業名としては漢字を変えて七谷としている。もともと、緒良田村の七つの集落の七番目だった。

 村には神社を中心とした三家があり、周辺七家が支える構造ができていた。その中で、外にもっとも大きな影響力を持ったのが奈々谷津家だ。財力しかり、知名度しかり。

 とはいえ、旧緒良田村の一族への影響力は、いくら社会での地位があがろうとも変わりなかった。

村の神社は、緒良田神社という。歴史は長く、千年あると言われている。元は小さな神社であったが、先祖が近隣で暴れていた霊を御霊としてその身に封じたところから、その扱いが国としても重要なものになったのだという。

 悪霊を御霊として封じた功績。そして、解き放たれてはならない御霊を封じ続けることが求められ、多くの恩賞や寄付寄贈があったという。

 今でこそ、一見普通の大き目の神社だ。お札やお守りも扱っているし、車のお祓いもすれば八方除け、七五三や結婚式も対応している。神社庁からの神職も受け入れている。

 祭神として古事記に出てくる神、建御名方神(たけみなかたのみこと)を祀っている。そこに御霊が追加されているだけといえばだけなのだ。

 今も、その御霊は子孫の体に封じられている。

 七年置きに子孫の誰かの体に引っ越しをする。封じられているとはいえ、それは彼らの体の中にしかいられないというだけのことだ。その力は計り知れない。その体から漏れ出る力だけでも、ひそやかにやってくる有力者たちの願望を叶えることができるのだ。

 それだけのものを入れておける器は、御霊をその身に封じた者の子孫の中でも特に選ばれた者たちだけ。その御霊は、自分の器を作るために七年置きにその器を作り出すようにしているらしい。そうして、七年置きに器を替える。

 御霊の入る場所を『(ほら)』と呼び、御霊は『おほらさま』と呼ばれている。洞を持つものは七年という数字に縛られるため『七縛り(ななしばり)』または『洞持ち(ほらもち)』と呼ばれ、七縛りのうちその洞におほらさまを封じる役になるものを『神宮(かんみや)』と呼ぶ。

 洞を多く出す本家が『神谷』、その内政外政をつかさどるのが『宮内』と『外宮(そとみや)』。

 更に彼らを支える七家が『一谷(いちたに)』『二屋(ふたや)』『三尾(さんび)』『四谷(よつや)』『五味(ごみ)』『陸奥(むつ)』『奈々谷津(ななやつ)』である。

 彼らが旧村内で、市内で、全国で、この御霊を封じ続けるために存在し続けているのだ。

 表向きの知名度はほとんどない。けれど、知る人ぞ知る、御霊を祀る神社。

 今も、その寄付寄贈額は大きい。支える者達には医者もいれば税理士もいる。神社を支える旧村民出資の合資会社もある。

 奈々谷津家は、その一端に過ぎない。

それでも、奈々谷津は七家の中では今は最も地位が高い。その理由は、三家と同じくまだ七縛りの者が存在するからだ。

管理人室に籠る男は、その奈々谷津の七縛り二人のうちの一人だった。

 けれど、奈々谷津では男の祖父が神宮になって以降、神宮が出ていない。間に二代空くと神宮にはなれなくなるという。祖父と男の間には、七縛りだった父がいた。けれど、その父は神宮になることなく、ケガレモノとなり、死んだ。

 洞の中に、御霊以外の者を入れてしまったものをケガレモノという。昨今、一族の洞を狙う悪霊がいるのだ。

 それは、本家神谷の冬五郎(ふゆごろう)とその弟にあたる祖父冬十郎(ふゆじゅうろう)の従兄にあたる男だという。

 本家神谷冬五郎の妻冬野(ふゆの)の愛人だったというその従兄冬光(ふゆみつ)は、冬野に自身の子を産ませたが、生まれて数か月で亡くなってしまった。それを一族に殺されたと思い込み恨み祖父の兄弟やその子たちを惨殺し死んだのだという。そのため、生き残った七縛りは冬五郎と冬十郎二人の子孫だけになってしまった。

 冬光は家そのもの、その柱である御霊そのものを恨み、神宮を殺そうとしたという。

けれど、神宮を殺すことはできない。神宮でいる間はかすり傷一つつけることはできない。髪一本切ることはできないのだ。唯一それが可能であるのが、入れ替わりの日。

 冬光が死んだ次の七年祭のその日。冬光は、男の父冬春(ふゆはる)()りつき、神宮であった冬五郎とその場にいた冬十郎を殺し、自殺した。ぎりぎり、御霊は次の神宮に逃げ込んで無事だったという。

 その次の七年祭にも冬光は七縛りの一人に憑りついたが、この時は十四のこども冬治(ふゆじ)に憑いたので被害なく取り押さえられ祓われた。次の七年祭では、離婚して戻ってきてそのこどもの妻となった女冬音(ふゆね)が憑りつかれ、本人を含む五人が死んだ。またも神宮はぎりぎり器を替え、冬音の父の洞に入った。実の娘に入った悪霊を神宮自らが祓い倒し、その後しばらく、悪霊はおとなしくしていた。

 祓い倒されたかと思われていたそれは、二年前に復活し、一度憑りつかれ妻に憑りつかれ死なれた男、冬治に再び憑りつき、自身を含む七人が死んだ。神宮はまたも前役が殺された。残る六人のうち二人が神宮候補の七縛りだった。

 七縛りは減っている。ケガレモノの息子である自分は可能性が低い。だからこそ、この悪霊をなんとかするのも自分の役目だと、男は思っている。

 悪霊は、冬光・冬春・冬音・冬治の四人が凝り固まった怨霊(おんりょう)となっている。

 もう一人の奈々谷津の七縛りが集めた、百物語の語り部たち。

 本家神谷の神宮候補筆頭格である神谷冬季に、先代神宮の孫である田中篤と、第三の怨霊冬音の息子森山昴。第四の怨霊冬治の被害者の浮かばれぬ霊相川芳生と、現神宮に愛された女岩田知世。そうして、神谷の一族とは異なる霊力を持つ者羽生晴花。

 自分は、この目的を達成するために、尽くすだけだ。

 今のところ、順調に進んでいる。

 冬季はもうこの仕掛けに気づいているだろう。黙って企画に乗っているということは、数打ちゃあたるかもしれないという程度には協力する気があるということなのだろう。こちらは命がけだというのに。

 うまくいかないと判断すればつぶしにかかってくるだろう。奴は奴で、御霊に対抗するために神宮の指示で修行に出された男だ。自分にできなかったら、最終的に次の七年祭で奴が悪霊冬光を柱とする怨霊を封じる役になるのだろう。次に彼らに憑りつかれるだろう候補は自分だと、囁かれていることを男は知っている。

 そうはさせるものか。

 男は、ただ一心に、護摩壇に向かう。

 オープン前で警報装置は切ってある。換気システムと空調は作動している。天井は高く、延焼の恐れはないサイズの祭壇となっている。

 これほどの規模のことはもうできないだろう。何がなんでも、やってみせる。このために、自分もまた、修行に身を投じてきたのだ。冬季と同じく修験道の修行に出た。ただ、冬季は神道系だったが、自分は仏教系。冬季は四年ほどだが、自分は娘が自分の子ではないと知って以降の二十年以上を修行に費やした。

 男は、奈々谷津冬尚(ななやつふゆなお)という。既に五十の坂にかかっている。神宮になれるチャンスは残る一回だけ。一谷から貰った嫁に子供はできなかった。別に愛した女から生まれた娘は、別の男の子供だった。その男も七縛りの誰か。その娘が自分の協力者。

 誰の娘だかは知らない、おそらくは当時の神宮の娘なのだろう。しかし、愛した女の娘だ。彼女のためにも、あの悪霊を・・・・・・。


 遊園地の端にある、魔女の塔。

 遊園地の境を超えた屋敷のバルコニーから、娘はその塔を眺めていた。

 冷めた目で。ただ恨みだけを乗せた瞳で。


一日目は終わります。次からは二日目です。

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