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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
一日目終了後
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せっかくのご縁でしたが残念です。

「今時、有人なんですねえ」

「門番って、実在するんだねえ」

 二人、似たような感想である。

「今日はこの仕事だけじゃなかったんだ? 徹夜明けでしょ?」

「三時間は寝ましたよ、寝すぎて遅刻しましたけど。この仕事で終わりのはずだったんですけど、トラブルがあったみたいで呼ばれました。昨夜もトラブルで」

「トラブルのたび呼ばれるの?」

「私の仕事のトラブルだと、そうですね。とはいっても、いつもは即ってことはそんなにないんですよ。今週はなんだか、急いでなんとかしてくれってのばっかで。だから、三日間この仕事だけでいいってことだったからゆっくりするつもりだったんですけどね。まあ、私もこの仕事の後夏休み入れてあるんで、どっちみち前倒しで対応するしかないんですけど」

 ホワイト大嘘である。まあ、常にブラックというわけではないらしい。森山のところは日中だけの工場なので、事務方も日中しか仕事はない。夜間の呼び出しなんぞ、一度泥棒が入って隣接する自宅にいるはずの社長がいなかったときに駆けつけことがあっただけだ。

 交通案内標識を見ると、三鷹駅の表示があった。

「三鷹駅近いみたいだね。曲がればまっすぐみたいだから直接行くよ」

「助かります、ありがとうございます」

「あんまりこっちこないからよくわかんなかったけど、通ったことあったわ。この道なら多分三十分くらいかな」

「じゃあ、遊園地の前の駅に着くくらいの時間で三鷹着いちゃいますね」

「ははは、あれもひどいよね。俺は礼言われたけどさ、石井さん、なんも手配する気なさそうだったよね」

「そうですね」

「遅刻だけが理由じゃないでしょ? 連日のイベントに呼んだ客にあれはないよ、普通」

 改めて聞いてみる。今度は、おとなしく白状した。

「一応、面識があります、あの人。最初入り口で会った時は忘れてたくらいです。話したこともないですけど。どうも親戚が絡んでいそうですね、この企画。断れば良かった」

「断ろうと思えば断れたの?」

「ほかの仕事とどっちに行くかって、もう一人とやってて。あちらの方が先輩なんですけど、奥さんが臨月だって言ってたんですよ。こっちの方が楽そうだけど連日出られるか心配だって話だったから、私が行くことにしたんです。まだ生まれないみたいですね」

「それって、最初から確定みたいなもんじゃない?」

「まあ、もう一つの仕事の方はちょっと面倒で。とはいっても先輩も私も専門外で、手伝いみたいなもんだったから、本当にどっちが行っても良かったんです」

「だからこそ、誘導されたんじゃないの?」

「そう思います」

 選んでいない風でいて、選ばされている。

「森山さんは、人数合わない合コンだって言われても断らないっていう信用があったんですか?」

「俺、ほぼ断ったことないからなあ。あの遊園地の運営会社に就職した先輩なんだよね、誘って来たの。大学で三つ上の学年だからほぼ縁ないんだけどね。二つ上の先輩に誘われた合コンで会って、それ以来、声がかかるようになったかな」

「あの遊園地は、『なばな』とかいう介護関係の会社がやってるんでしたよね」

「あー、社名は知らないけど、訪問介護とか老人ホームとかやってるのに、何故か遊園地もやってるんだって言ってたな」

「『なばな』自体は七谷(ななやつ)グループの一つなんですよ」

「あー、CMやってるやつ『みなさまにとって身近かな会社でありたい』とかってやつ? 病院とか保養所とか介護タクシーとかもやってるのか、そうすると」

 CMの映像にそれらが断片的に映っていた気がする。

「神谷さんとこの会社と関係あるの?」

「ないです。ただ、石井さんってのが七谷グループの経営者の家の人の秘書だかなんだかなんですよ。その経営者が遠い親戚なんです、私の。さっきのお屋敷は別宅の一つだと思います」

「七谷グループって、七谷総合病院って埼玉で展開してる病院でしょ? 七谷なんとか総合病院っていっぱいあるよね、地名入りの。神谷さんの実家って、埼玉?」

「そうです。森山さんは?」

「俺は東京だけど。あー、なんかやな予感してきたな。もしかして、伊真田市いまだし?」

「そうですよ。森山さんもなんか関係あります?」

「あんま関係してたくないんだけど」

「休憩中に話しててわかったことなんですけど、岩田さんの酒修行に出た元彼って私の叔父みたいなんです。田中さんのお母さんは私の母方のはとこ」

「うわー、何それ? 今回メンバーすごい恣意的に選んでるってこと?」

「羽生さんは霊能者だからなのかも知れませんけど、相川さんも謎ですね」

「なあ、相川さんって、あの人生きてる人?」

「生きてないですよ。皆さん平気そうだったから、よっぽど実体っぽく見せてるんだなあと感心してたんですけど」

「普通に冴えないおっさんなんだけど。神谷さんにはどう見えるの?」

「胸とか腹とか刺されまくって血まみれです。あの部屋血のにおいすごいですよ。森山さんはどうやって区別できたんです?」

「あー、だから、ちらっと、血まみれが、一瞬、視えた?」

「はあ。森山さんも親戚だったりするんですか?」

「さあ。俺、あんまり知りたくないから詳しくないんだよ、母方方面は。伊真田市に合併された村の出だって」

「その方の名前聞いても?」

「冬音とか言ったかな」

「あー、わかりました」

「わかるんだ?」

「関係したくない理由もわかりました。私も本当は自分の実家と関係したくないですからね、気持ちはわかりますよ。私は逃げようがないので諦めるしかないですが、関わらないで済むなら関わらない方がいいです」

「逃げようがないんだ?」

「名前に『冬』がつく人は、逃げられないんです。繋がれてるんで。たまにつかない人もいますけど。森山さんは、四十歳でしたっけ?」

「まあ、そうね」

「じゃあ大丈夫ですよ、繋がれてません。これ以上関わらなければ。合コンって話なら今日だけにしたらどうです?」

「一応報酬くれるってんで契約しちゃったんだよなあ。キャンセルは賠償ってあったけど、具体的に額は書いてないんだよね、応相談的な? それより、縛りがあるかないか年でわかるわけ?」

「『七縛り』って言われるんですけどね。例えば私と姉は十四歳差。甥っ子は七歳差。甥っ子が十四の時に姉は死んでます。そんな感じで、七年ごとに生まれるか死ぬかするんですよ。それが、必ず地元の七年祭って七年置きに行われるお祭りの年なんです。だから、私は今年二十三ですんで、少なくともあと四年は死にません」

「・・・・・・マジ?」

「姉が死んだのは二年前です。田中さんのお母さんが亡くなったのも二年前。冬音さんが亡くなったのは三十年前、七かけ四たす二ですね」

「・・・・・・親父も、三十年前に死んだんだけど。冬音より二つ上だったけど」

「姉の配偶者も二年前に亡くなりましたよ。二年前は、死人が七人。三十年前は三十人以上と聞いてます」

「・・・・・・ヤバい家だね」

「だから、叔父も岩田さんから離れたんだと思いますけど。でも中途半端だから、未練ありそうですね。今の役が終わって生きてたら戻る気なのかなあ」

「今の役って?」

「実家は神社なんですよ、一応。七年置きにその『冬』がつく人の体にそこの神様が宿るんです。七年置きに引っ越しするんです。今は、叔父がその役なんで。ご神体としてお宮の奥にずっといます。年に一回お祭りの時に村の中を巡回する以外、奥宮から出られません。で、入れ替わりの時に、入れ替わられた人が死ぬ確率高いんです。それに、冬音さんの事件も、二年前もその時に起きました」

 三鷹駅を示す案内が見えた。

 なんとも、話がすごすぎる。

「私としては、身の安全のために明日以降のドタキャンをおススメします。あの建物、放火とかされると、私みたいな七縛り以外の人の命の保証はできませんよ。停めやすいとこで降ろしていただけますか? 行く現場近いんで」

「放火って、誰が? なんで?」

 森山は、ウィンカーを出す。左車線にぽつぽつと路上駐車している車があるので、広めの隙間を狙う。

奈々谷津(ななやつ)の親戚親子辺りですかね。石井さんが仕えてる家の。あの会場を使って何かやらかすつもりでしょうし、百物語はその準備の一環でしょう。可能性として、下で火が出たら大変ですよ。一応三階のエレベーター脇に非常用シューターがあったんで壊されてなければ逃げられるでしょうけど、全員逃げきれるかわかりませんしね。何かあるとすれば最終日でしょうから、最終日は点検しておかないとなあ」

「俺だけ逃げるわけに行かないだろ?」

「いいじゃないですか。別にほかのメンバーと連絡先交換してるわけじゃないでしょう。合コンにしたって、酒豪の岩田さんか霊能者の羽生さんですよ?」

「合コンはどうでもいいけど」

 隙間があったので反射的に車を寄せて停めてしまう。神谷はすぐにシートベルトを外した。

「私の推測が合ってるなら、あなたと田中さんはあんまりいいポジションじゃないと思いますよ。田中さんもできれば逃がしますし。奈々谷津がやりそうなことも、まあ悪いことではないんですけど、危ないですしね、状況によってはたくらみごとを丸ごとつぶします。ありがとうございました。お元気で」

「おい待てって!」

 神谷はさっさとドアを開けて出てしまう。ガードレールをまたいで振り返った。

「関わらない方がいいですよ。さようなら」

 手を振って、逆方向に歩き出す。

 ひどい。

 とりあえず、車を出す。

 安全のためには明日以降ドタキャンした方がいいのだろうが。

 これまで、知ろうとしなかったツケではあるが。

 二年前に七人の死者。三十年前は五人の死者。

 三十年前、離婚していたはずの母はふらりと家にやって来て、父を殺した。そうして、実家に戻って更に三人を殺し、自殺したという。

 確かに、二年前にも大量殺人があった。三十年前と同じ時期、同じ場所で犯人が自殺した。東京のマンションで夫婦が殺されて息子と親戚一人が重傷。犯人は逃亡し翌日実家で三人を殺し自殺した。その後、夫婦を殺す前に職場の同僚を一人殺していたことが判明した 田中さんのお母さんが二年前に死んでいる。

 巻き込まれているのか。実家で殺されたのは確か、かなり高齢のおばあさんと普通におじいさんくらいの年齢の人とその娘だったはずだ。

神谷としては危険性を伝えるために話したのだろうが、ここで一人で逃げるのは、後味が悪すぎる。

 田中を逃がすというのなら、その時に一緒に逃亡するかな。

 逃げられる状況なら。

 母は父を殺して自殺。父は一人っ子で、父方の祖父母も亡くなった。母は父と離婚後再婚して子供がいるらしい。異父兄弟だ。そして、その再婚相手が二年前の犯人。まったく面識はないが、両親とも大量殺人犯になった異父兄弟の方がいろいろ大変だろうとは思う。関わるつもりはかけらもないが。

 自分は妻子もいないし、関わる予定のない異父兄弟をのぞけば、天涯孤独の身。気になるのは、会社の人たちくらいか。

 天涯孤独なので、アパートの合鍵を念のため社長夫人に預けてある。万が一事故に巻き込まれたりということもあるかもしれないから、と。

 そもそも、就職の縁は社長夫人だった。社長が母の元彼で、社長夫人と母が友人だったのだという。なので、森山の事情を知って雇ってくれている。

 母の実家にはかかわりたくない。

 けれど、自分は大量殺人犯の息子なのだ。

 その思いがあるから、合コンに参加していても結婚にまでもっていこうという意識がない。だから選ばれないし振られるのだろう。幸せになりたいという意識も薄い。だから、多少危険だと言われたところで、それを理由に逃れようという気にはあまりなれないのだ。

 進んで飛び込むつもりはないが、進んで逃げるつもりもない。

 話の続きは、また明日だ。

 森山は、そう思った。


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