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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第五巡 古い話
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第二十九話 岩田 ニュータウン

 無縁仏に手をあわせちゃいけない、て、言いますよね。

 供養が足りず苦しんでいるところを優しくされて、もっと助けて欲しくて、助けてくれる人だと思って、ついてきてしまうから。

 無縁仏や管理がしっかりしていない古い墓場はともかく、今時の新しいお墓では、幽霊ってでないんですってね。

 言われてみれば、たしかに、墓場で亡くなる方は滅多にいないし、墓場に執着して他で亡くなってからさまよいこんでくるということもあまりなさそうですもんね。それに、お墓にはお寺さんとかがちゃんとそれなりのことをされているものだし。

 田舎の方だと、いきなり田んぼの中にお墓があったりしますけど、そういうところはちゃんと子孫が供養しているし。

 でも、古いお寺のお墓で。まして、お寺が無くなってしまって、お墓までつぶされてしまったような場所は、出るんですかね。

 母方の実家のある、新興住宅地の話です。

 元々はただの田舎で、母が若い頃は、歩いて二~三十分かかる学校の校舎が、家から見えていたようなところです。でも、都会への通勤圏になるよう鉄道が整備されて、バブル景気の頃に大型開発で街がつくられたんです。そうして、古い住居や田畑、跡取りがいなくなって廃寺になったお寺さんやその墓場までが、掘り返され均されて街に生まれ変わっていったんです。

 お寺と墓場の広大な土地は、住宅街にのみこまれました。古い住人はもちろん、そこがどんな場所だったか知ってます。けど、 都会から通勤圏ぎりぎりの場所へマイホームを求めてくる人たちは、大規模開発される以前の姿なんか、地道に古い地図を調べようとしないんでしょうかね。

 話によれば、その一帯も当日完売御礼の勢いで売れたらしいです。

 学校ができ住宅が立ち並び買い物に便利な店もできて。街としてできあがっていく。

 聞いた話では、まだ、開発区域の端々では道路をつくったり土地を売ったり建売住宅を建てたりしている頃。最初の住人たちが移り住んで街開きをしてから十年ほどが経った頃、その街の、お寺の跡地だけ、ゴーストタウン化してしまったんだそうです。

 人が、死んでいくんですね。

 その一帯だけで、年に何人も。一家が次々と。多くは子供が犠牲になって、成長した若い世代は発狂する者が出る。病気で寝たり起きたりする人もあちこちに。

 それで、残された家族はどんどん家を捨てて出て行き、売れても新しい住人も同じように逃げていく。

 そうして、十年ほどで、ほとんどゴーストタウン化してしまったと。

 それでも、誰もが出て行けるわけじゃないんですよね。

 中古で売れればいいけれど、売れなければ引越しても借金がそのまま残ってその上で新しい住居の家賃やローンが発生します。そうこうするうちにバブル景気もはじけちゃって、売ってもローンが残るなんてこともある時代に突入していって。

 命あってのモノダネと、それでも出て行く人もいます。けど、新たなローンを組めない人や、一家の主を失ってしまった家族や、看護しなくてはいけない家族が出たりした家庭では、そんな余裕はとてもありません。他にも、家族と暮らした思い出の残る家だからと、失われた家族を偲びながら一人暮らす人などもいます。

 だから、まったく住人がいないわけじゃないんです。今でも住んでいる人はいるそうです。

 とはいえ、その一帯だけ雰囲気が暗くなってしまうのはどうしようもない。新興住宅地だから古くからのお祭りもないし、子供が極端に少なくなってしまうのでそういう結びつきもないし。

 残された住人の中でも近所づきあいはほとんどない。なんでも、ペットもすぐ死んでしまうので、そういったつきあいも成り立たなかったらしいです。

 周辺も新興住宅地。新しい街。昼間から暗い雰囲気の場所。

 近場には墓場もなければ不健全な遊び場もない新しい街です。そういった街に、いろんな噂のある場所がある。

 健全な遊び場しかない街では、子供が冒険する場所っていったら、そういう場所なんですよ。

 学校帰りに遠回りしてその住宅地の中を通ってみたり、庭先に入ってみたり。時には、割れた窓から屋内に侵入したり。

 夏には当然、肝試し。

 その街には、二つの小学校と、一つの中学校があるんです。

 その三つの学校では、夏休みの注意事項で、言うんだそうですよ。

 その住宅地に用もなく踏み入るなと。肝試しになんか行くんじゃないって。

 もちろん、何かあるから、なんて言い方はしないで、住人に迷惑だから、て。

 でも、当然、行きますよね。そうして、毎年、何組もそこで肝試しをするわけです。

 その、二つの小学校と一つの中学校では、毎年、二学期になると人が減るんだそうです。

 ひと夏に、片手の指の数を越える人数が、様々な理由で亡くなったり大病をしたりで登校できなくなってしまう。そのほとんどが、その地域へ肝試しに行った子供たちなんだそうです。

 それでも、その区画に住んでいる人たちがいる以上、完全に立入禁止にすることはできませんよね。道路を塞ぐことも、関係者以外立入禁止なんて札も公道では出せません。大人たちがいくら口をつぐんでも子供達の耳には先輩たちから受け継がれて口づてで知れ渡る し、いくらダメだと言っても、子供はスリルを求めて、あるいは勇気がないと言われたくなくてその場に入り込んで行く。

 犠牲者は、いつまでも、何年たとうが、いなくなることはないそうです。

 できたばかりの新しいその街が、人のいる街である限り。

 元から無縁仏であったのか、供養してくれる子孫が絶えたのか、きちんと動かされず拠り所のお墓も失って彷徨うことになったのか。理由はわかりませんけど。

 お手上げだと、聞きました。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。



岩田は神谷の叔父冬彦の元カノです。

冬彦の勤める病院の薬剤部と関係薬局や薬品会社の若いのが集まった飲み会(事実上合コン)に引っ張り出されて出会った。普段は飲酒量が多く割り勘勝ちするのであまり誘われないが、飲み放題の企画だった。

冬彦は神社育ち(お酒がたくさん届けられる)の酒豪なので日本酒派だが詳しくなく、ほぼ酔わない。岩田より飲めるため双方酒豪との印象を残した会だった。

なんとなく気になった冬彦が岩田の会社の人が納品に来たときに酒豪の人誰?と尋ねて、その人が間に入って再会した。

冬彦も深くつきあうつもりはなかったが、お互い飲み仲間としては楽しかったので何度か飲食をともにしているうちに、冬彦はザルだが岩田は普通の酒豪(?)なので冬彦が飲み勝って岩田が飲みすぎになることもあり、世話しているうちに冬彦の方が先によろめいた。

双方結婚適齢期を過ぎていたが、冬彦が実家が複雑なので結婚はしない主義と早期に宣言していたため、深い関係になってから、岩田に定年まで双方生きてたら老後のために結婚してねとプロポーズされて受けた。のちに定年が60ではなく65だと知り、冬彦は63以上生きられない家系なので、ひそかに二人で60前には仕事をやめて結婚しようと画策していたが岩田には言っていない。

もしかしたら神宮になってしまうかもしれないので、念のため酒修行に出ると言って七年祭に出たら神宮になってしまった。甥の神谷にマンションの賃貸契約の解約や仕事の退職などの手続きは、車をゆずることで頼んだが、彼女がいることは黙っていたため、酒修行から戻るのを待ってくれるかな、そもそも生きて次会えるかなと思いつつ、岩田のことは放置している。

なお秋に出会って夏に離れた。

岩田は修行に出る宣言後冬彦にスマホの電源を切られ部屋は解約され職場も退職されてしまったため、少し途方にくれたが、とりあえず心のうちでは酒修行に行ったと思っておき、周りには飲みすぎて振られたみたいだと言って、以前の生活に戻った。時々、二人の仲介をした会社のおじさんが心配して代わり怒ってくれている。

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