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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
休憩中 第2回目
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冴えないおっさんと戯れる三毛猫

 六人のうち四人が別の階に移動してしまい、森山はどら焼きを食べながら、唯一残った相方を見る。

 デレデレになりながら、肥えた三毛猫に尽くしている相川だ。

「相川さんは、仕事で頼まれて来たんですよね?」

接待営業だと思ったと言っていた。

「ええ。自席でのんびり花を眺めていたら、担当のお客さんがこの案内状を持って来ましたよって、隣りの係の若いのが私のデスクに。私が手にする前に後ろの席の課長がさっさと中身開けてね。これは適任だから、経験談を話してくるといいよって、見せてくれましたね」

 南瓜がゴロゴロと気持ちよさそうに目を細めている。相川は、森山を見もせずに南瓜を堪能している。

「経験談って? さっきのお話では見えないし見える奴はほとんど詐欺って話しぶりだったじゃないですか」

「そこまでひどく言ったつもりはないんですけどね。本物は少ないと思いますよ。自分では見たことないですし、経験も特にないです、聞いた話だけ。経験談と言っても、やっぱり、身近に一人だけいた、視えるんだろうなってやつのことくらいですね。別に、一緒にいたから何かが見えたとかそういうことはないし、奴から聞いた経験はほぼ悩みと一体化してたから、話すつもりないですし。そもそも、奴と私が仲良かったことも知らないんじゃないかなあ、課長は。知ってたのかな」

「その視える人って同じ会社の人だったんですね」

「まあね。氷河期採用で年は近かったけど、これまで正社員にほとんどなったことがなかったって言ってたな。パソコンもネットでしか使ってなかったみたいでね、人見知りするし、成長の見込みもあまりないような奴だったからこそ私に指導係が回ってきたような奴。出来損ない同士で話は合ったよ、建設的ではなかったけどね」

 相川の膝の上に南瓜が沈む。背中の動きから、膝に寝ようとぐるぐるしているらしい。

「私と違って、あいつは自分は優秀だと思ってたみたいで、その点だけは意見が合わなかったなあ。優秀っていうか、自分は特別だって思ってたな。実家がいいとこだったみたいだしね」

 相川は両手を広げて南瓜が落ち着くのを眺めている。

「その視える人の方が、この会には良かったんじゃないですか?」

 人柄がいまいちそうなので正直来て欲しい感じではないが、ネタは豊富そうだ。

「うーん。残念ながら、二年前に死んじゃってね。私は一応役があったから席があるけど、彼はヒラだったからとっくに違う人がその席も使うようになってたね。私は、自席についても暇だからぼーっと職場の話聞いてるんだけど、誰も、本当に、彼の話はしてないね。後で入った別の氷河期採用さんは活躍してるみたいだったから、比較になっちゃうから話に出さないのかな。そろそろ命日なのに。私の席には花を飾ってくれるのにね」

「・・・・・・」

 南瓜は、寝方を決めたようでテーブルのふちに少しだけ柄が見える。相川はそうっと抱くように両手をおろしている。

 相川は役があったから席がある。ヒラだった彼の席は外の者がとっくに使っている。

 そろそろ命日なのに彼の話は出ない。自分の席には花を飾ってくれるのに。

 招待状は、運んで来た者がデスクに置き、封を開けたのは課長。

 経験を語って来い。

「戻りましたー」

 田中が戻って来た。

「おかえりなさい」

「あれ、南瓜寝る気ですか? 休憩終わったら出すんですよね?」

「ねえ、このまま置いておいちゃだめかなあ」

「お手紙がありましたから、ダメでしょう」

「ちえー」

 相川はにまにましつつ、残念そうな声を上げる。

「あ、どら焼き食べました? みんな三階のエレベーターから地下行ってそのまま外に行ったんですけど、僕、おなかすいて先に戻ってきちゃいましたよ」

 田中は、森山に声をかけながらどら焼きに手を伸ばしている。

「おいしかったよ。栗入り」

「わー、贅沢ですねえ」

 田中はいそいそと包みを開けている。森山は、お茶のペットボトルを開けて直飲みした。

 半分くらい一気に空けて、改めて相川を見る。

 どっからどう見ても、ただの猫好きの冴えないおっさんなのだが。

 話をしてみて、おかしい、と思ってしまった。だから、森山は、うっかり、よく見てしまった。

 いつもは切り替えないように気を付けている見方を、してしまった。

 相川の胸から腹までのワイシャツが、赤黒く染まっていた。

 その顔や首元にも、その赤黒いものでべちゃべちゃになった手で触った跡がついていた。

 森山は、すぐにまばたきをして汚れのない相川に戻した。

 今のは、なんだ?

 違う見方をしてしまった。気を付けているのに。つい、うっかり。

 視てしまった。切り替えて視てしまった。

 だから、今視えたものが。

 羽生と岩田と神谷が戻って来た。

 羽生と神谷がそれぞれ一瞬、相川を確認するのがわかった。

 ああ、彼らには最初から、あの姿が視えていたのだ。

 神谷が倍ほども年上の相川におやつ係や留守番を言いつけていたのは、一種の縛りだったのだろう。自分がいない間に、悪さをしたりしないようにという。

 相川が話していた、二年前に死んだ男。

 相川は、その男に殺されているのだ。

おそらく、男が死んだ、二年前に。


第二回休憩は終わりになります。

次回から第五巡です。

更新がきつくなってきました。

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