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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
休憩中 第2回目
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エレベーターで旅に出よう

 森山の話が終わり、蝋燭が消されて室内の暗さが増す。語り部たちの前にある蝋燭立てには、それぞれ、まだ一本の蝋燭に火が灯っている。

 別に、人魂がふよふよしだすわけでもなければ、ラップ音が鳴り響くわけでもない。


「お疲れ様でした。また二巡終わりましたので、休憩に入りましょう」

 神谷の言葉で、一同、緊張から解放された。


すぐに、ガタン、と扉が音を立てた。

「お、今度は早いね」

「南瓜いるかな」

 岩田と相川が争うように席を立ち、扉を開ける。

「おおっ」

 二人で声を上げたと思ったら、パッと岩田がしゃがみこむ。そうして、勝ち誇った顔をして南瓜の両脇を持ってぶらさげて戻ってきた。

 相川が未練がましく後についてくる。

 廊下には、ダンボールだけが置いてある。田中がダンボールを持ち上げてテーブルまで運び、扉を閉めた森山がそれを開封し、一番うえにあった紙をテーブルの真ん中に置く。


『御休憩用。

 南瓜にもおやつをあげてください。

 ゴミ等不要なものはダンボールに戻して

 南瓜と一緒に廊下に出してから

 再開してください。

 終了後 石井より 宿泊及び明日の

説明がありますので 待機してください。


                管理人』


 相川が皆がメモを眺める隙をついて、ダンボールから南瓜のおやつを発掘する。

「あっ!」

「ふふふ、さあ、南瓜を寄越してください、岩田さん」

 南瓜が後ろ足で岩田の胸を蹴り押し、棒状のおやつを持つ相川に首を伸ばす。

「それ、一日に何回もあげすぎだと思います!」

「管理人さんの指示ですよ、飼い主がいいって言ってるんですよ?」

 相川が南瓜の前でおやつをゆっくり回しだすと、南瓜が本気で岩田を蹴り始める。

「くぅぅ」

 諦めて岩田が南瓜を下ろすと、相川がすばやく抱き上げた。

「私、トイレは大丈夫ですから、おやつ係と留守番で」

 そう言って、いそいそと自分の席に着席する。南瓜以外どうでもいいらしい。

 森山がダンボールから人間のおやつ二種をつかみだし、神谷と田中に一つずつ渡す。

今度は羽生に言われる前に、更に、右手に一枚、メモをつかみ出した。

『⑤古い話』

皆に向けられた紙面に、岩田が首をかしげる。

「古い、て。古いはどこにかかるのかな?」

「昔話でも古い物の話でも、なんでもいいってことでしょう」

 羽生が言いながらテーブルに先にあったメモをずらして並べなおし、森山が新たなメモを追加する。

テーブルの中央で、五枚の紙片がその上辺で五角形を作った。

『① 悪い霊』

『② 生きている霊』

『③ 人ではないもの』

『④ 呪い』

『⑤ 古い話』

 差し入れを持たされた田中と神谷で、おやつを配分する。今度は柿の種とどら焼きだった。

 羽生はメモを睨む。

 百物語のネタとしては、至って普通のテーマが並んでいる。

 それこそが効果があるということだろうか。

 なんの効果が?

 依頼は、イベント用だ。しかし、それだけだろうか。

 森山と岩田が壁を押して非常口を開けている。岩田が早速うえを目指して入り込むのが見えた。

 羽生は、三角のテーブルの脇で上を見上げてみる。

 三角の吹き抜けから、三角屋根の構造が見えている。

 三角。三角づくし。赤と黒づくし。

 ひょいと、岩田が三階から顔を出した。

 目が合って、岩田がにこやかに手を小さく振る。

 羽生は組んでいた腕をほどき、軽く振り返した。

 続けて神谷と田中が顔を出す。わー、とつぶやきつつ手を振る二人のことは無視して、羽生はテーブルに視線を戻した。

 森山は自席に戻ってどら焼きを食べ始めている。

 相川は南瓜におやつをあげている。

 一つため息をついて、羽生は非常口に向かった。

 三角の土地や建物は良くない。

 少しでも風水に興味を持った者ならだれでも知っていることだろう。方角を気にして家を建てる者も知っているはずだ。

 遊園地の施設という遊び心のたまものだと言ってしまえばそれまでだが。

 羽生は、三階の窓から遊園地を眺めおろす。

 既に閉園を迎えたらしく、スタッフが点検して歩いているのが見えた。

 たとえ真っ昼間であろうとも、パステルカラーの施設の中で楽しむ客たちを、この窓はすべて白黒に変える。

 建物には黒も赤も良いものではない。内側に使うべき色ではないのだ。

 羽生は、エレベーターの前に立つ。

 ボタンは、下矢印一つだけ。押してみると、箱が動き出す音が聞こえてきた。

 トイレから、先に来ていた三人が出てくる。

 エレベーターが口を開けたとき、三人はエレベーターの反対側にそろっていた。二方向に開くエレベーターで、同時に開閉するらしい。

「おー」

 岩田が一人で拍手した。

 羽生は中に入ってみる。ボタンは『3』から『B1』まであった。

「私も乗せて」

「僕も」

 岩田、田中に続いて、神谷も乗り込んでくる。

 羽生は二階から地下一階までのすべてのボタンを押してから『閉』を押した。

 エレベーターは十一人乗りと表示されている。

 すぐに動きを止め、二階で扉が開く。神谷と田中がそれぞれの扉からおりて、羽生と岩田は中から外をのぞく。一方にはパイプ椅子やら台車やらが置いてあり、もう一方にはビールケースや冷蔵庫、食器棚や調理台があった。奥には三階のトイレ脇にあった料理運搬用の昇降機が見える。ガス台はなく流しだけあったので、どこかで調理したものを最終的にここで整えてから三階に送り込む手順のようだった。

羽生が体を引っ込めると外に出ていた二人が慌てて戻ってくる。

一階で開くと、二方向とも、スペースを開けてドアが一枚だけあった。ドアには、いずれにも『staff only』。

 そこはすぐに閉め、更に地下一階に降りる。

 ここだけは、扉は片方しか開かなかった。

 目の前に、非常口までまっすぐスペースが広がっている。エレベーターを出てすぐのところには、大きな両開きの扉があった。両脇に溝が見えたので上をみると、シャッターが上がり切って納まっていた。

 外に出た羽生は、当然のようにそのドアノブをひねる。

 鍵がかかっていた。

 先に進むと、三人が黙ってついてくる。

 突き当たりの非常口脇には上から降りてくる階段。その手前に、管理人室のドア。

 インターホンの類はない。

 羽生は、今度はそうっとノブに触れ、ひねる。

 やはり、鍵がかかっていて動かなかった。

「差し入れしてくれてるんだから、管理人さんいるんじゃないのかしらね?」

 岩田の言うとおりだ。つまり。

「鍵かけて閉じこもってるってことですかね」

 田中の言うとおりなのだろう。出なければ、堂々と差し入れしてくるはずだ。

「引きこもりの管理人、ねえ」

 神谷が、首をかしげてつぶやいた。


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