第二十二話 相川 金庫の宝石
仕事のお客さんが知り合いから聞いたって話なんですけど。
とりあえず、B子さんてしときますね、そのB子さん、かなりのお金持ちなんだそうです。まあ、金融関係というか、消費者金融ですね。経営者のお嬢様。
そのお嬢様が、ある日、ウン百万円する宝石を買ったんだそうです。
宝石って、興味ないんで細かい名前は覚えてないんですけど、大きなダイヤを、赤と緑のなんたらいう宝石で飾ったブローチで、作られたのは二百年年以上前のアンティークだとかなんだとか。
一時、海外の個人の博物館に飾られていたけど、破産したとかで古美術商がそれを買い取って、それが更に他の古美術商の手に渡って、それからB子さんが買ったらしいんですが、渡り歩くうちにどんどん値が下がっていった。知り合いによれば、B子さんはいわく付きの宝石だから安かったのよーとか言ってたそうですけどね、ウン百万が安いって、どんなお金持ちなんだろうねえ ・・・・・・。
で、それが面白いことに、金庫付きのブローチだったんだそうです。ちゃんと黒い蓋つきの、あのぱかって開けるケースがあるのに、それを更に小さな金庫にしまうようになってたんだそうです。
けど、専用だから小さな金庫なわけだ。重いとはいえ持ち運べちゃうわけ。だからって、家にある金庫に入れるには、ちょっと邪魔くさい。彼女にとって安かったとはいえ、高いブローチだからそのまま置いておくのは安心できないってことで、 その小さな金庫が入る大きな金庫を一緒に買ったんだそうです。
これも、古美術商から買ったっていうんで、中古・・・・・・ですよね。古美術品の金庫って、あるのかな? よくわかんないけど、とにかく、サイズ確かめてちゃんと入ること確認して、買ったんだそうです。
それで、大きな金庫はトラックじゃなきゃ運べないから後日ってことで、小さな金庫付きケース入りブローチだけは、先に家に持って帰った。
その晩、心配だったんで、小さい金庫を寝室に持ち込んで寝た。そうしたら、変な夢を見たんだそうです。
B子さんは一人で寝ていたのに、誰かが顔をなでる。金縛りになって動けない。なでられながら、顔に何かを塗りつけられる感じがする。金縛りが解けて鏡に向かうと、顔に赤い血のようなものが塗りつけられている。そんな夢。
朝起きて、真っ先に鏡を見たけど、別に顔はなんともなかったそうです。
そうして、その夕方には大きな金庫が届いて、B子さんはそれを寝室に置きました。中に小さな金庫を閉まって、前日の夢のことはきれいに忘れて、その晩も一人で眠りにつきました。
B子さんは、夜中に目を覚ましました。音が聞こえたんです。
カリカリと引っ掻く音。それが、大きな金庫から。
B子さんは、しつこいその音に部屋の明かりをつけて、ベッドから起き出しました。
耳を澄ましてみると、音はやっぱり大きな金庫から聞こえる。彼女は、そっと近づいて、耳を寄せてみたそうです。カリカリと、中から音がする。気持ち悪くて金庫をたたくと、一瞬だけ静まって、次には前以上にしつこく、音が聞こえ始めたんです。怖くなって、B子さんは使用人を呼びに行きました。
二人で戻ってみると、しつこい音は続いている。さらに、びちゃ、とか、ごぽ、とか。そんな音もする。そして、よく見ると、大きな金庫の扉の下から、赤いものが垂れ落ちてきていたんです。・・・・・・血のように見えました。
気味が悪くて、結局、二人はお塩を取りに行って、大きな金庫にかけました。そして、おみやげにもらったお不動さんのお守りを金庫の上に載せました。音は続きます。それで、二人は一緒に客間に眠ることにして、明かりを消して出て行きました。
翌朝、B子さんの部屋に入ってみると、音は聞こえなくなっていました。けれど、金庫の扉の下から血のようなものが滴って固まっていました。血の筋が、四筋くらい垂れて。
B子さんは怖かったので、霊的な関係に詳しい友人を呼びました。それが、私のお客さんもお世話になった人なんですけどね。
で、お父さんもお休みだったんで、B子さんと夜中に呼ばれた使用人と四人でB子さんの部屋に行ったんだそうです。ちなみに、この霊能者さんも、霊感っていまいち、ない人だったらしいです。
だから、なあんにも感じずに、霊能者の女性は、とっとと金庫に近づいて、ダイヤルあわさせて鍵を開けるとこまでB子さんにやってもらうと、さっさと、扉を開けました。
・・・・・・開けちゃったんですよ、なんのためらいもなく、バカッと・・・・・・。
途端に、だぼっと。大きな金庫から赤いものがあふれ出てきたそうです。映画の『シャイニング』観たことあります? あのエレベーターの扉が開いた時みたいだったと、その霊能者さんが言ってたそうですよ。私は観たことないんですけどね、その映画。
その赤いものは、固まり始めてどろっとしてるような、でもさらさらなところもあれば、乾いて固まった欠片があったり・・・・・・。ほぼ、大きな金庫の中の容量分の赤いものが、B子さんの寝室にこぼれだしちゃったんです。
まあ、匂いも、血だったそうですから、そうだったのかもしれません。
で、大きな金庫の中には、血まみれになった小さな金庫だけが入っていた。
霊能者さんはビニール手袋をはめて小さな金庫を引っ張り出すと、赤い液体の忍び込んだ鍵穴にB子さんから借りた鍵を差し込んで開ける。開くと、中には、黒いケース。そして、その中に納まった高価なブローチ。
小さな金庫の中は、なんともなかったんだそうです。ケースも、外側は傷一つついていないし湿り気もない。なのに、ケースの中にあるブローチだけは、しっとりと薄いピンクに染まっていたそうです。血をまとって。
ちなみに、ケースの内側の白い布は、防水だったみたいで玉状の液体が少しあったそうです。
ブローチはね、洗ったら、赤いのは落ちたそうです。元通り。
大きな金庫は洗ったら、内側に引っ掻き傷がたくさんついていたそうです。内側の素材は聞かなかったけど、まあ、なんか金属ですよね、普通。塗料が塗ってあって剝げたとかかもしれないけど。
その霊能者さんによると、宝石も、大きな金庫も、両方ともに何やら、憑いていたんだそうです。
ブローチの方には、ブローチが原因で怪我をして亡くなった女性の霊が憑いていて、大きな金庫には、付喪神っぽいのが憑いていたんだそうです。
で、女性の霊が小さな金庫から出てさまようのを、大きな金庫の付喪神が邪魔をして、女性は出してくれってカリカリ引っ掻いて訴えて、けど、付喪神は自由にさせてやらず、B子さんも開けてあげなかったんで、幽霊の女性、死んでいながら怪我しちゃったらしくて、大きな金庫の中が血塗れになっちゃったんだと。で、朝になって女性はおとなしくブローチにもどったけれど、怪我がブローチを汚してしまった。
霊能者の解釈では、そういうことだったんだそうです。
実際のところはどうなのかわかりませんけど。結局、小さな金庫の方にお札を貼ったら、何も起こらなくなったそうです。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。




